百二十九振目 吉光というもの
吉光は今更言うまでもなく有名な粟田口吉光。
粟田口は国頼(非鍛冶の具足師)を初めとして国家から刀鍛冶を行い、大和国の興福寺の縁者であったとされます。そして京都の東、東国などから京都へ入る交通の要となる粟田口の地に鍛冶場を設けたとされ、今もその地名があります。
しかし国家の現存作はなく、実際に鍛冶師として有名になったのも国家の子となる六人兄弟からとなります。その六人兄弟の一人国友の子に則国がいて、則国の子に国吉がいて、国吉の弟子(または子)が吉光となります。
と言うわけで、粟田口派鎌倉初期から存在しつつ吉光は鎌倉末頃の刀鍛冶となります。この頃は来国俊や来国光、新藤五国光や行光、長光(二代)や景光といった名匠が多数存在している時代。もちろんその時代のみならず、全時代を通して最高峰の刀匠。
しかし、同時代頃に「光」が付く名匠が多数いたわけで少し興味深いかも。
されはさておき吉光は通説として国吉の弟子とされていますが、観智院本では則国の弟子であるとされていたり、または他の刀剣書では国吉の子としていたり、越前出身とするものもあるなど、名匠であるにも関わらず(もしくは名匠だからこそ)謎が多い。
作風としては粟田口の精緻な地金ではあるものの、そこの中でも若干異質な感じの焼きや肌目が強いような印象を個人的には受けています。
とはいえ、今更粟田口吉光については言うまでもないでしょうし、ググればわらわら出てくると思いますので……代わりに他の吉光について。
同じ吉光という銘であれば、粟田口吉光と同時代に福岡一文字吉光がいまして、南北朝期から室町末期まで続く土佐吉光がいます。
特に粟田口吉光の短刀として伝わるものに、この土佐吉光の作がよくある。
もちろん出来は全く違うものの、幕藩体制時は名家に一本吉光あらねばならない状況であったので代替えとして、土佐吉光が所有されていた感じかと。
この土佐吉光は玉木安左衛門という名で粟田口吉光の弟子や子であるとも、手掻吉光が土佐に移住した後に藤原氏五郎左衛門尉吉光と名乗った者ともされます。この移住の時期も鎌倉時代末期or南北朝時代or室町時代初期とも幾つか説があります。何にせよ、土佐吉光は同銘が数代(七代とも)続き室町末期まで続いている。
粟田口吉光とは両者の関係性を強めるためこじつけられたような気がします。何故かと言えば、土佐吉光の作を見ていると大和系が強いので。
感じとしては板目肌で鍛え割れがちょこちょこ、地沸はあるが美麗ではない。刃の中の働きも殆どなくて、明らかに大和系の末の物といった雰囲気。いけないのが姿形でして刀身が妙にひ弱で吉光のようなドシッとしたものがない。
もちろんドシッという感じは、土佐吉光は重ねが厚い場合が多いので、そうした意味ではドシッとしています。ただし、この場合は元から先の身幅の変化という意味でドシッです。
何より茎がいただけない。粟田口吉光であれば茎の形状すら歪みなく整っているものが、土佐吉光の場合は茎姿が整わずひ弱く尻つぼみ的な雰囲気。
両者を見て同じ系統と言える人は少ないと思う。
粟田口吉光に戻りまして、その値段ですが。
基本的に市場には出て来ないため、何とも言えない部分があります。とはいえ、これまでに見かけたものとしては、在銘特保で1500、在銘重要で1800、3000、在銘重美で4000以上。
ちなみに土佐吉光は概ね100以下。
粟田口吉光で1500だったものは重要前提の値段だったのでしょうか。重要の3000と1800は出来に大差なく……値段の付け方は店の考え方次第なので何とも言えない。3000側が正しいのか、2000弱が正しいのかは本数が少な過ぎるため分からないかと。
なお4000のものは号がついたもので、享保名物帳に記載された○○藤四郎(某西国大名の名が付く)で徳川家伝来品といったものです。
値段も凄いが、それ以上に出来が凄い。
重美のものは重ねが非常に厚く健全で刃文は直刃で力強い匂出来になって帽子は上品に返ります。地鉄は今まで観た中でずば抜け、青く黒く深く沈み日本海でも見ているように引き込まれそうな感じ。粟田口の精緻な肌よりは大肌なのですが、しかしそれが地沸と重なる事で奥行きを醸し出している。店頭には出ずお得意様に直売りの品。たまたまタイミング良く観させて貰っただけです。好きに観て良いよと言われ好きに観て、我に返ると1時間近く経っていたぐらいに魅入られてしまう。その後は虚脱気味になるわ、他の刀がしばらく色褪せて見えるわ、夢にも出てくるわで、まさに恋い焦がれる感じ。
重要のものは、やはり青く深く沈み込むような地鉄をしているが重美より深みが足りない。ただし、それでも他に比較のしようがない出来映え。重ねもしっかり身幅もあって健全、肌は大肌で鍛え疵が少し出ている。
特保のものは、やっぱり青く深く沈み込むような地鉄をしているが、重美は元より重要に比べやや深みが足らず、出来はやや落ちる。しかし他の刀工より遙かに美しいもの。重ねやや薄く、身幅もやや研ぎ減る。肌模様は、やはり大肌で鍛え疵もとこどこある。
といった感じでして、一般的に粟田口吉光は白銀色として評されていますが、私としては青黒く大肌な印象。
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