百二十三振目 刀剣界の巨頭たち

 刀剣界の巨頭は昔から数多く存在するわけですが、さて現代はどうなのか……個人的感想で存命人物からあげるなら、鐔制作なら成木一成氏、刀剣制作なら大野義光氏といった感じでしょうか。あくまでも個人的感想ですが。

 そして刀剣鑑定であれば田野辺氏。


 田野辺氏の略歴はさておき、今まさに大人気!

 ファンは外国の方たちでして、その人気ぶりときたらアイドル級。田野辺氏に会うためバスツアーが組まれ、さらには自宅の見学ツアーもあるぐらい。講演やら執筆などで引っ張りだこ。「オー! タノーベ! タノーベ!」「ミスタータノーベ!」と一緒に写真を撮るため行列が出来るぐらいだそうで……。

 そして田野辺氏に鞘書きされた刀剣は今やホットアイテムで、外国の人にとってはそれを所持する事が一つのステータスとなっている。

 というわけで……田野辺氏の元には世界各地から大量の鞘書き依頼が舞い込む。これが大変な数なのだそうですが、しかしそれなりに書くネタがあれば良いが、箸にも棒にもかからないない刀剣まで送られて来る状況だそうでして。依頼はそれなりの伝手を経由しているため、田野辺氏も断るに断れない。

 もちろん偽銘などには鞘書きしないものの、一応正真であれば書くしかない。もちろん「一応」というものなので、本当に出来が全くダメなものは刀剣の名称と刃長程度しか書けないようで……文字を縦長気味に間も空け気味に書くなど苦慮されているらしい。

 といった状況を、「どうしてこうなった」と刀剣屋さんが責任を感じてぼやいていた。つまり、その刀剣屋も含め各店が大量に依頼をかけ鞘書きをしてもらったせいで外国の方の目に留まってしまって、この惨状なのだとか。

 数年前に田野辺氏が心臓関係で入院されたのも、それが一因なのではないかと……思いつつ、それは指摘しないのが優しさでしょうかね。


 そしてもう一つの件で二大巨頭がいます。

 こちらは買う方で、言わずと知れた刀剣を次々と購入している大金持ちのお二人。ここ10年ほど刀剣を次々と購入しており、重美・特重・重要と出来の良いものが買って刀剣業界を買い支えている。

 昨年だか前回の刀剣市では9桁と10桁の中間になる数字ほどお金を使ったとも噂されているぐらい。もちろん名品を観ているため目が肥えていき、さらに良い品をパッと買ってしまう。

 なの……です……が……。

 それが一因となって市場から古刀の良い品が消えているのもまた事実。

 つまり通常の刀剣愛好家であればお金は有限。ある程度買えば所持刀を売って次を買うしかないわけでして、そうして放出された刀剣が市場を循環し一定の刀剣が存在していたわけです。

 ですが、大金持ちはそれがない。

 そのため一度購入された刀剣が市場に出てくることはなく、しかも片や博物館をオープンさせるため集めた刀剣はもう二度と市場には出て来ない事に……。

 実際に実感として、市場からめっきり古刀が消えています。

 それも出来の良い古刀が殆ど姿を消し、数年前に比べると本当にない。去年より今年は減っており……それで残された刀剣を一般愛好家が買うため、さらに品が手に入りにくい状態。


 というわけで巨頭関係なのですが……全て刀剣屋が原因でいろいろ困った状況に。「最初から分かっていた事ですけど、お金には勝てなかったよ……」とぼやいていますが、自分で自分の首を絞めたわけですね。

 うーん、これは地球温暖化を連想してしまう。

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