二十六振目 丁子油もいろいろある

 表面に薄い膜をつくり錆などから保護する効果がある刀剣油。

 こうして手入れされてきたお陰で、千年以上たっても鉄製品である日本刀が今に伝わっているわけです。

 この刀剣油は丁子油と呼ばれています。

 大きく分けて植物系と鉱物系があって、植物性は当然ながら植物から純粋に精製された精油で、鉱物性は石油など鉱物由来の油になります。


 植物油でも椿油に香り付けしただけの品もありますが、丁子百%な岡〇平兵衛製もあります。とはいえど椿油でも丁子でも性能としては大差はないかと。

 鉱物油は成分表示がされないため、何が使用されているか不明です。出始めの頃は白鞘内で刀が錆びてしまう油もあったそうですが、今は淘汰されています。良質なものですと藤代製などでしょうか。

 油の目的が「刀身の表面に薄い膜を形成し刀身の金属分子が酸素や水と反応し酸化還元反応する事を防ぐこと」から考えると、鉱物由来でも植物由来でも関係なさげです。


 とはいえ使用感に違いはあります。

 鉱物系は粘性が低くサラッとして伸びが良く拭き取りやすい。一方で、鍛え割れに油が吸収されてしまったり、やや油が取れやすい感じ。

 植物系は粘性が高く(特に岡村製)ベタッとして拭き取りにくい一方で、油が残りやすく、しっかりと保護してくれる。そして何より香りが抜群。

 それぞれに利点があるかと。


 ネットで油に対する意見を見れば、油なら何でも良いとして、機械油やミシン油、極端には料理用油でも良いとする意見もあったり……中にはCRCを使うといった人さえいます……。

 一応ですが、CRCは浸透潤滑剤で潤滑効果や防錆効果があると記載されたものです。ただし有機溶剤を多量に含んでいるわけで……有機溶剤を大雑把な理解で考えると、『なんらかの成分を液体中に含み保持しているものであり、揮発性が非常に強く塗布された後に溶かし込んだものを残して揮発してしまう』という事です。

 油を塗布する目的から考えると?? 白鞘の中で揮発した成分はどうなるか??

錆落とし効果もあるけれど茎の錆に与える影響は??

 なんだろう、ネットで見かける悪意ある書き込みに思えてしまう……。


 基本的に岡村製の油を使っていますが、刀身に塗った後の状態がちょっと異なったりします。人間で言うと化粧のりが違う感じでしょうか。それが鉄のせいなのか、研ぎのせいなのかは分かりませんが……。

 丁子油を塗ってしばらくしてからの状態を幾つか。

・平安期の備前。ほとんど油滴は生じず全体に薄く広がる。

・鎌倉期の備前。表面に繊維のような油滴がチリチリ、その他は薄く広がる。

・鎌倉期の相州。地沸のように微細な油滴が散り、あとは薄く広がる。

・南北朝期の備後。鎌倉期と同様だが、やや油が滴が大きい。

・室町期の美濃。やや塊状になるがさほど目立たない。

・江戸後期の会津。塊状の滴状となり、水玉模様になる。

 古いほど油の馴染みがよく、時代が下るにつれて弾くような気がするわけですが、気のせいでしょうか。しかし古いほど上研ぎがされるため、その影響という可能性もあるかもですが……。

 なんにせよ、塗布する油が多すぎるのは良くありません。

 どれだけ薄く塗ろうと翌日確認しますと刀身に油滴が出ていますので、それを軽くティッシュで拭ってやった方が良いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る