復讐との戦い

 ――超集中!


 目を見開き、集中力を最大限まで引き出す。

 周囲の動きが、時間がゆっくりとなり、ジャングルの巨大な拳を捉えた。


 ジャングルの拳をギリギリ半身になって避ける。


 拳圧と言うべきか、放ってきた拳からびりびりと皮膚が裂けんばかりに強い風圧が俺の体を襲った。


 さらに横殴りの拳が飛んでくる。それを体を弓形よりも深く反らして避ける。

 そして素早く姿勢を戻し、放ってきたジャンブルの腕を踏み台にして飛び上がる。


「でえええええやあああああああ!」


 体を高速で回転させ、全力の蹴りをジャングルの首にぶち当てた。

 だが、全くジャングルは動じなかった。


 ――効いていない!


 脚を引き戻し、その場に着地する。すると、ジャングルは今度は両腕を組み、ハンマーのように振り落としてきた。

 後退してそれを避ける。


 ズドン!


 まるで床に穴ができそうなほどの衝撃、床が大きくへこみ、床にジャングルの拳が沈み込んだ。


 こんなのをまともに食らったら、ひとたまりもない。


 ジャングルの超怪力をフルに使った戦い方。

 一発でも当たれば即座に終了。死ぬ。


 何とかジャングルの攻撃をかいくぐり続け、有効な打撃を少しでも当てなければ。

 だが、先ほどの人体急所である首への全力の蹴り、それも全く効かなかった。


 どうする? どうすればまともにコイツとやり合える?


 太陽の光を使うか? だが、炎と太陽の光の融合は体に負担がかかりすぎる。加えて変身状態には時間制限がある。体内にある全エネルギーを放出するため、短時間でしか活動できなく、今ここで使うにはリスクが大きい。


 それに、その姿になっても倒せるかどうかも分からない。


 本当に、どうしたらいい?


 ジャングルを倒すどころか、有効なダメージすら与えるビジョンが全く見えなかった。


「どうしたエルガイア! そんなものか?」

「……くっ」


 それでも、ジャングルに向かって構えを取る。


「それでは我が怒りも、復讐心も、一片たりとも晴らせぬ! かかってこい! エルガイア!」


 復讐、復讐、また復讐か……。


 俺は、どうしたいんだ?

 俺はこのジャングルに打ち勝ちたいのか?

 倒したいのか?

 本当に?


「…………」


 俺が、俺が本当にしたいことは――


 俺は構えを解いた。


「どうした? エルガイア?」

「なあ、ジャングル。今お前は楽しいか?」


「急に何を言い出す?」

「復讐の相手が目の前にいて、実際に戦って。今お前の心は喜んでいるのか?」


「我が胸のうちは、復讐の念で今もたぎっているわ!」

「……それは、晴れていくのか?」

「なんだと?」


「本当に俺を倒して、その復讐に燃える心は、晴れるのか?」


 俺は両手を広げた。


「じゃあ、やってみろ! 俺には人を殺したいほど誰かを憎んだ事は無い。だけど、俺を好きなようにぶん殴って、ぶち倒して、それで本当にその復讐の心が晴れるのか……試してみろ!」


「この……エルガイアめ!」


 火に油を阻止で閉まったのか、拳が怒りで震えるジャングル。


 われながら、馬鹿な事をしていると思う。愚かしいと言ってもいい。的を前にして無防備になるなんて。


 だけど――


「おれは、ただ戦うために。ミュータントを打ち滅ぼすためにエルガイアになったのか? 正直わかんねえ。俺がこの時代で、エルガイアとして、ただ戦うためだけにこの姿を手に入れたのか? もしかしたら、他に何か役割があるんじゃないか? もっとほかの事ができるんじゃないか? そう思う」


 そしてキッパリと、ジャングルに言い放った。


「俺はお前を、その復讐心から、救い出したい!」


「馬鹿な事をほざくなあああ!」


 完全に激怒したジャングルが、俺に向かって拳を放ってきた。

 俺はそれを、避ける事も防ぐ事も泣く、体全体で受けた。


  ―――――――――――――――


「拓真君! 何をやっているんだ!」


 無防備になってジャングルの怒りの拳を一身に受ける拓真君。


 だめだ、拓真君が殴り殺されてしまう。


 視界の端で、ヘックスが驚いていた。呆けた顔をして拓真君を見ている。


「拓真君! 戦うんだ! 負けては駄目だ!」


 だが拓真君は、ジャングルの拳に倒れ、また立ち上がり、またジャングルの拳を体で受けた。


「舘山寺さん!」

「先輩!」


 到着した木場と優子君がやってくる。


「やりましたよ! 俺の秘密兵器で、ミュータントを一体撃破しました!」

 木場が手に持っているアーチェリーの弓を見せて喜んでいた。


「先輩……どうして? なんで抵抗していないんですか! なんでやられっぱなしなんですか? ねえ舘山寺さん! 何があったんですか!」


「…………」


 二人に説明できない。


 反撃をしてくれ、戦ってくれ、拓真君。君はここで死んではいけない!


「拓真君! 戦え! 戦ってくれ!」


 こちらの叫びも意に介さず、拓真君はジャングルの拳打をひたすら浴び続けた。


 ―――――――――――――――


「どうした、お前の仲間たちも戦えといっているぞ! 俺に立ち向かって来い! エルガイア!」


「……やだね」


 ごふっと血反吐を吐き、拓真は立ち上がりながら拒否した。


「ところで、どうだ? ジャングル。お前はこれだけ俺に怒りをぶつけて、それで少しでも気は晴れたか?」


「ぐ……」


「本当なら、お前の全力の一撃で。俺は倒れていただろう。だけど、今のお前の拳は、的確に俺の急所を狙っていない。技もへったくれもない、ただの暴力だ。……それで、お前の復讐心は、少しでも消化できたか?」


「……足りぬ。全く足りぬ! この程度で、こんなことで、俺の復讐の念は一切晴れていない!」


「じゃあ、もっと打ち込んでみろよ。俺を殺すくらいに、やって見ろよ。全く気が晴れないんだろ? やってみろよ。本当に俺をただ倒すだけで、その復讐の炎が消えるのか。試してみろよ!」


「ならば望みどおり! 我が拳で果てるがいい! エルガイアああああああ!」


 もうその形相には怒りの一色しかない。ジャングルの顔。


 腕を振り上げ、何度も、何度も何度も拓真を殴りつけた。一切の抵抗もしない拓真は、拳に打ちひしがれ、立ち上がり、またジャングルの拳を浴び続けた。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 もはや一人で暴れているかのように、ジャングルは一心に拓真へと拳を振り続けた。


 そして――

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