いちごぱんつとかんがえないですむせかい

「先輩!? 大丈夫ですか!?」


 ああ、蔵前の声が遠い……。俺、だめかもしれん。でも、これでいいのかもしれない。これで俺は、妻恋先輩も蔵前も傷つけずに済――


「って、なんでここで来未が出てくるっ!?」


 俺は急激に回復すると、バカ子孫に対峙した。


「なによっ! 明日菜姉ちゃんを慰めるどころか、泣かせまくってるなんて、男として下の下の下!下下下(ゲゲゲ)の新次! 最っ低! ゴミクズカス!」

「ばっ、なんの文脈も読まずに、俺を非難するんじゃねぇ! これにはお前の知らない深い事情があるんだってば!」

「問答無用!」


 鋭い上段蹴りが飛んできて、側頭部をかすめる。……いまのでメイド服のスカートの中が見えたが、いまはそんなことを言ってる場合じゃない!


「落ち着け! スカートの中、見えてるぞ!」


 言ってる場合じゃないのに、なに言ってんだ俺はぁ――!? 


「なっ!? ななな……な、なに見てんのよ、このド変態っ! 死ね! 死ね! 死ねええええええええええええっ!!」


 あまりに高速すぎると、かえって、攻撃がスローモーションに見える――!


「うわらばっ――!?」


 脳天に踵落としを食らって、俺は公園の土に無様にダウンした。


「ふふん、無様ね! 女の敵はこうなる運命なのよっ!」


 なんだこのいわれのない暴力は――それに、その運動神経はなんだ……。格闘ゲームのキャラ並じゃねぇか……。人間離れしすぎている。本当に、こいつ人間なのか……?


「くそ…………この、いちごぱんつ……」


 最後の抵抗を試みる俺に、


「――っ!? このぉおおお! 死ねエエエエエえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 トドメの一撃が、無慈悲に俺の背中に叩きこまれたのだった。


☆☆☆


 すべてが、台無しだった。シリアスだった俺は……青春の甘くてほろ苦い一ページはどこへ行ってしまったのだろうか……。


「ぜんぶ、新次が悪い」


 部室に連行された俺は、部屋の片隅で体育座りで膝を抱えていた。背骨が折れるかと思ったが、悶絶して絶叫して痛みに泣き叫んでのたうち回るだけで助かった、助かったと言えない。


「……蔵前を泣かせたことに関しては、俺に非があることを全面的に認めるが……蔵前とのことはお前の介入することではない。そして、お前なんかに理由は言えねぇ!」


 お前に食わせる盛り蕎麦はねぇ! とばかりに、来未に言い放つ。


「……もう、わたしはいいです。先輩との話は済みましたから。でも、これは天罰かもしれませんね。ぜんぶ忘れていた先輩への」


 蔵前も、いまではすっかりいつもの調子に戻っていた。過程はどうあれ、結論は先送りになったのか……。助かったといえば、助かったかもしれない。俺も、気持ちの整理ができていない。まだまだ、時間がかかる……と思う。


 そんな俺たちを妻恋先輩は優しげな眼差しで見守っていた。


「新次くん、思い出したんだね……」


 そう言って、微笑む妻恋先輩。少し目じりに涙が滲んでいた。やはり、妻恋先輩は慈愛に満ちた天使だった。


「それは……はい」

「……おかげさまで」


 俺と蔵前も、なんとも言えない感じでうなずいた。ずっと妻恋先輩に気をつかわせていたと思うと、心苦しくもあるが、こそばゆい感じもある。不思議な感情だ。


 そのままなんともいえない微妙な空気が部屋に流れたが、俺はとりあえず来未に向き直る。


「まぁ……なんだかんだでありがとうな、来未。お前の蹴りのおかげで、ちょっと気持ちが落ち着いた。……おそらく、俺たちにはまだまだ考える時間が必要だ。マジでありがとう蹴ってくれて」

「はっ? えっ、まさか……当たり所が悪かった?」


 感謝する俺に、来未が気味悪そうにあとずさる。


「し、新次くん……ほ、本当に大丈夫?」


 そこで妻恋先輩からも心配される。


「本当に、先輩大丈夫ですか……? で、でも、今度はわたしが面倒みますからっ! 大船に乗ったつもりで引きこもってください」


 蔵前、お前本当にけなげでいいやつだなぁ……。俺は本当に恵まれている。こんなにも素晴らしい女の子たちに出会えたのだから。ふふ……。つい、笑みがこぼれてしまう。俺の人生も捨てたもんじゃない。


「や、やばい……。新次が壊れた……。あ、あたしのせいじゃないんだからっ! こいつが、あたしのいちごぱん……げふんげふん! ……あーもう、思い出したら、またむかついてきた! やっぱり死ねええええええええええええええっ!!」

「いちごぱん? ……っ、ちょ、ちょっと来未ちゃんっ!?」


 再び俺は、来未からいちごパンツ丸見えの膝蹴りを頭部にくらって、考えないで済む幸せな世界へと旅立ったのだった――。

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