俺の着ていた着ぐるみがデュラハンに転生した件について

あぶぶ

第1話:召喚、そして転生

とある酒場にて。


「ふむふむ。次の国王は第一王子と第三王子が候補なのか。これは重要な情報だな。」


俺は朝ごはんのパンを食べながら新聞を読んでいた。


「しっかしこの国豊かすぎんだろ。なんだよ全員派手で高価そうな服なんか着込みやがって。


…まあ、これも全てあの戦争の結果か。」


俺はそう言って窓の外を見る。


青い角を生やした人が大量の荷物を持って、小太りしたおっさんの後についていく。


その奴隷の背中には、黒い魔法陣が描かれていた。


...約一年前、人間は魔族と戦争をしていた。


魔族の力は凄まじく、魔族を1人殺すには最低でも将軍クラスの人間が5人は必要だとさえ言われた。


しかし、アーミス王国の科学者が魔封じの玉アンチボールの研究を完成させた。


魔封じの玉アンチボールの能力はこの状況をひっくり返し、ただの村人でも魔族に圧勝できるようになった。


魔族が続々と人間により殺させていく中、魔族の全滅を恐れた魔王はアーミス王国に負けを認め、不平等な条約を魔族側が呑むことで戦争の幕が閉じた。


(魔族は魔素で身体能力を強化していたり、巨大な魔法を連発とかしていたので、元となる魔素を封じられるとかなり弱くなるのである。)


戦争が終わると不平等条約により、大量の魔族が奴隷としてアーミス王国に連れてかれた。


魔族の奴隷は人気が高い。


魔素を封じられなければ、馬並みの力を持ち、休眠は3日に一度で良い。


なので、魔族に奴隷の印をつけて人間に逆らえなくしてから魔素を使えるようにしているのだ。


「さてと、そろそろ俺は魔王城に行きますかね。」


俺はパンを食べ終え席を立った。そして自分の部屋に戻り、クローゼットの中を開けて愛くるしいカエルの着ぐるみがあるのを確認する。


『マスター、遅いですよ?早くしないと遅刻してしまいますよ?』


カエルの着ぐるみの声が直接頭に届く。


「おう、待たせてごめんな。じゃあ転移テレポートを使うか。」


こうして俺は今日も魔王の手足として生きる。






「あぢーーー」


俺の名前は鈴木ワタル。23歳独身だ。今は夏休みもバイトに励んでいる。


カエルの着ぐるみを身につけて来場者に向けて手を振るだけの簡単な仕事だ。


しかもそれだけで時給1000円なのだから、暑さを我慢さえすればかなり良いアルバイトだ。


「ママー見てみて!カエルさんがいるよー!」


おっと、ぼーっとしてないで子供に手を振らないとな。


俺が子供に手を振ってやると、


「ママー!カエルさんが、手を振り返してくれたよ!」


子供は、嬉しそうにはしゃいだ。


こんなに喜んでくるならやりがいもあるかな。


「カエルさんと写真撮ってー!」


「え?あのー、写真撮っても大丈夫ですか?」


元気な子供のお母さんが心配そうな顔で俺の方を見る。


俺はお母さんに向かって頷き、子供の近くに寄った。


「良かったねけんちゃん。写真撮っても良いらしいわよ?」


「うん!」


「じゃあ撮るよー?ハイ、チーズ!」


パシャ。


あ、あれ?なんか気分が...。


「カエルさんありがとう!あれ?カエルさん?カエルさーん!」


薄れゆく意識の中で子供が叫んでいるのが聞こえた。


...あぁ、ちきしょう。熱中症予防をしなかったからかな...。


そこで完全に意識が途絶えた。







「うぅ...。」


「おお!目を覚ましたぞ!」


俺は光っている魔法陣の上にいて、ごついおっさん達が椅子に座ってこちらを見ていた。


おっさん達は、それぞれが角を生やしており、人間ではなさそうだった。


「うん?ここはどこだ?」


「貴様は大魔王様の魔将召喚によってこの地に召喚されたのだ。見たことのない悪魔だが、貴様の種族名はなんと言う?」


魔将召喚?人間の国で言う勇者召喚みたいなものか?


てか俺悪魔じゃないんだけど。バッチリ人間なんですけど!


...てかこれ、俺が着ぐるみを脱いで、「俺は人間だ!」とか叫んだら一発ゲームオーバーじゃね?


俺は黙っていることにした。


俺は、黙っていたら、「もういい!どっかにいけ?」とかならないかなー?と思っていた訳だが、おっさん達は只々じっと待つだけであった。


約10分後、


ヤバイ。めっちゃ暑いぞここ。着ぐるみ脱いでいいかな?いやいや、人間だとバレたら一発ゲームオーバーだって。


さらに10分後、


...もう無理。これ以上は命に関わる。もう着ぐるみ脱ごう。


俺はガバッとカエルの頭を取り、右手でカエルの頭を持った。


「おお!そなたデュラハンであったか。なるほど。だから喋ることが出来なかったのか。しかしデュラハンにしては少し覇気が足りない気が...。まあ良いか。


そなたをこの世界に適合したデュラハンに転生する!しばらくこの魔法陣から動くでないぞ。」


ん?デュラハン?このカエルの頭を持った人間の姿をみて何を言っているのだ、このジジイは。


「いや、あの俺はデュラハンじゃなくてにんげ...


「転生!」


最後まで言わせろやぁぁぁぁぁ...。









生い茂る木々の中、俺は目を覚ました。


ハッ!あのジジイ共は?...もしかしてあれは悪夢だったのか?だよな!ここは異世界じゃないっぽいし。


「GYAAAAAAAA!!」


そんな俺の考えは、突如空から降ってきた大きな雄叫びを挙げる赤い巨大な翼の生えた蜥蜴によって打ち砕かれた。


「おい、なんでドラゴンがこんな森の中にいるんだよ。普通は祠とかにいるんだろ?」


ドラゴンは呟いた俺の方は見向きもせず、そのまま森の奥へ行った。


まったく、あのジジイ共。説明も無しにこんなところに放り出しやがって。絶対恨んでやる!


さて、まずどうしたらいいか。


『マスター。とりあえずこの森を抜けたところに村があるそうなのでそこに行きましょう。』


なんだ!?誰かいるのか?


俺が辺りを見回すと、少し格好良くなったカエルの頭が俺の方を向いていた。


「お?カエルの頭がここにあるってことは、俺の体に着ぐるみの胴体がついているままなのか!」


それは非常に困る。何が困るってそりゃ、1人では着ぐるみを脱いだり履いたり出来ないことだ。


『それは大丈夫だと思います。マスターが念じればすぐに私は脱げますし、すぐに履けます。馬も同様です。』


なんでコイツ俺の思っていることが分かるんだ?


あと馬?カエルのデュラハンの馬って、絶対格好良くないイメージしか湧かないのだが。


てか、やっぱりカエルが喋っているのか?でも喋っていると言うよりは頭に直接声が届いているような...。


『お察しの通りです。私とマスターは意思疎通によってテレパシーで直接会話することが出来ます。』


へー、そーなのか。って、おい!意思疎通ってなんだよ。お前は誰だよ!


『そういえば自己紹介がまだでしたね。私はデュラハンの精神体みたいなものです。また、マスターの命令に従う僕でもあります。』


やはり本当にデュラハンになってしまったのか。


でも着ぐるみの中で俺の手や足は動かせる。どうゆうことだろう?


『これはあくまで私の推測なのですが、多分着ぐるみだけデュラハンになり、着ぐるみの中のマスターは人間のままで、転生されたのでしょう。なので、私とマスターは別ものという事になりますね。


あと、私は自分の身体を動かすことは出来ないので、マスターに操作してもらう形になります。』


ガン○ムと、パイロットみたいな感じか。なるほど。


えっと、村に向かえって言っていたけど、なんで村なんだ?


『何故か村の場所が分かるのです。その方角も。あと、どうしてもそこに行かないといけないという強い使命感が。』


あのジジイ共のせいだろう。でもこの森にいるよりは人のいる所に行きたいな。よし、その村まで案内してくれ。


『畏まりました。』


俺はカエルの頭を持ってカエルが言う方向に向かって進んだ。







そういえば俺って、前世はバイトをしていたごく普通の日本人なんだが、魔物の戦えるのか?


『そうですね...。実践経験が無いのでしたら村に行く前に下級の魔物と戦っておきましょう。あ!ちょうど良いところにキラーベアーが!』


俺が歩いていると、黒くて巨大な熊がのっそのっそと歩いているのが見えた。


え?いや、アレは絶対に下級では無いと思うのですが...。


『マスターは闇魔法、シャドーブレードと、召喚魔法、下級アンデット作成が使えます。


今回はシャドーブレードを使ってみましょう。』


はいはい。わかりましたよ。やれば良いんでしょ?


魔法ってその魔法名を叫ぶだけで良いんだっけ。


「シャドーブレード!」


俺がそう叫ぶ(と言うよりは呟いただが、)と、下ろしていた左手でから漆黒の爪型の何かが発射された。


ズガンッ!!


そして、俺の左足のすぐ横の地面を深く削った。


「危ねぇ!なんだこれ?あと1センチでもずれていたら確実に足の指が無くなっていたぞ!」


『マスター。まさか魔法の打ち方が知らなかったとは。知っているものだと思っていました。すいません。』


なんか侮辱してない?気のせい?でも、魔法の打ち方はわかったぜ。熊の方に手を向ければ良いんだな?


『そうです。あと、今回は偶然左手からシャドーブレードが放たれて良かったですが、しっかり左手に魔素を溜めてから打たないといつ右手から発射されるか分かりませんよ?』


俺は、自分の右手を腰に当てていることを思い出し青ざめた。


魔素を溜めるイメージか。左手に力をいれる感じで良いのかな?


『そういえばマスターは魔素のコントロールの仕方を知らないのでしたね。それなら私が魔素のコントロールを行いますので、これからは魔法を撃つ前に魔素を溜める場所を私に報告してください。』


報告するだけで良いのか。だいぶ楽になったな。


俺は左手を熊に向けて、左手!と念じて、


「シャドーブレード!」


と言った。


今度はちゃんと熊の方へ飛んでいき、そのまま熊の体を両断した。


あ、あのー。もう少し平和的な魔法は、


『将来運が良かったら覚えれるかも知れませんね。』


運が良かったらですか。はい、分かりました。


て言うか、この森も暑くない?着ぐるみ脱ぎたいんだけど?


『では、鎧よ脱げろ!と、念じてください。そうすれば鎧が光の粒子となって消滅します。』


鎧よ脱げろ!


すると、カエルの胴体が光のに包まれながら薄くなっていき、やがて完全に消えた。


「やっほう!めっちゃ動きやすいぜ!二度とあのカエルを着てやるか!俺は人間として異世界ライフを満喫するんだ!」


『何を着てやらないのかもう一度説明してもらえますか?マスター。』


なに?なんで!完全にカエルは消えたはずじゃ!


俺は、まだ右手で持っていたカエルの頭を見て落胆する。


『あ、言い忘れていましたが、マスターはこの世界に適合していませんので、運動能力、思考能力、魔法能力が鎧を着用していないと激減してしまうので、魔物がいる森の中では鎧を着用することを推奨します。』


嫌だ!暑いの嫌いだもん!


俺は、デュラハンの提案を却下して、また歩き出した。


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