野球しようよ⑤ 洋菓子VS和菓子

「おかえりなさいませ大和様。」

「どうだったヤマト。」

 一回裏、俺たち葦原町チームの攻撃、先頭打者の俺はあっけなく三振に切って取られた。


「…良いピッチャーではあるけど普通、だな。打てないほどじゃない。ただスライダーには要注意だ。」

打てなかったのは単純に俺のブランクと練習不足だ。


 2番藪江くんは現役の高校球児…だが、タイミングが合わずボテボテの内野ゴロ。ガッツを見せてヘッドスライディングを見せるもギリギリアウト。


「申し訳ないでやんす。」

「ナイスガッツ藪江くん。藪江くんのヘッスラ久々に見たよ。」

「まさに高校球児という感じなのじゃ。胸が熱くなるのう。」

「そうでやんすか?がんばるでやんす!」


「3人では終わりたくないな。頼むぞミカド!」

 サルの声に天野がうなずく。…結果、タイミングは合っていたが、センターの守備範囲のフライでスリーアウト。


 *


 二回表 相手の稲尾町チームの先頭打者は4番からだ。

(相手も膠着状況を嫌うはず…ならここは初球から落ちる球で打ち取る…!)


 俺のサインにクズハがうなずき…一球目─

「なにィ!?」


 投球と同時に打者はバントの構えをとり…打球は三塁側に転がった。サードのサルはダッシュが間に合わずピッチャーのクズハが何とか捕球した。

「やられたっ…クズハ!ファーストだ!」

 4番がバントとは意表をつかれた。捕球したクズハは反転してファーストに投げざるを得ない。タイミングはギリギリだ。


 その時、サルが思い出したように声を上げた。

「まずい!稲尾町の4番は商店街の和菓子屋だ!洋菓子店のゴリラ塚さんには並々ならぬライバル心を持っている!ゴリラ塚さん危ない!!!!」

 えっなにそれ。


「ウホッ…ウホホ!?」


 バキィ!!!!!


 壮絶なクロスプレー。稲尾町の和菓子屋さんがファーストのゴリラ塚さんに走りこむ勢いのままに凄まじいショルダータックルを食らわせた。


「ぐはっ!」

 しかし、吹っ飛んだのはタックルをしかけた和菓子屋さんの方だった。


「ゴリラ塚さん!あと和菓子屋の人!大丈夫か!?」

「ウホッ」

 タックルを受けたゴリラ塚さんは大丈夫そうだ。


「いてて…さすがはゴリラ塚だぜ…いいガタイしてやがる。そうでなくちゃあオレのライバルとは言えねえぜ。」

 吹っ飛ばされた和菓子屋さんは足元がおぼつかず、なかなか立ちあがることができない。


「ウホ」

 そんな和菓子屋さんにゴリラ塚さんは優しく手を差し伸べた。

「ふっ…今回はオレの負けか…。」


「ウホホ ウホッウホホホッウホ」

「おっ、お前…。」

「『いや、今のタイミングはギリギリセーフのタイミングだった…私の走塁妨害でセーフの判定が妥当でしょう』…か。さすがゴリラ塚さん、いい男だぜ。」

「さすゴリ!」

  「さすゴリ!」


「…ゴリラにタックルしたら質量の差でヒトの方が吹っ飛ばされるのは当たり前と思うのじゃが…」

「Wikipediaによるとゴリラのオスは体重150~180キロくらいだそうです。少なくともあの和菓子屋さんの2倍はありますね。」


 ノーアウト一塁、しかしクズハもエンジンがかかってきたようで、バックのサポートもあり二回表も無失点で切り抜けることができた。


──────

 試合は膠着したまま進むかと思いきや、中盤からは点の取り合い展開となった。


 俺たちは二巡目の藪江くんの出塁から盗塁で進塁、天野の適時打で先制するが、その次の回で四球から連打を浴び逆転を許す。

 しかし即座に、ゴリラ塚さんのツーランホームランが飛び出し、更に逆転。2対3の一点リードで九回表を迎えた。



「申し訳ないでやんす。」


 九回表─ツーアウト二塁の状態までこぎつけ、あと1つで俺たちの勝ち、という場面。センター前に運ばれ、同点にされてしまった。さらに、藪江くんの無駄なバックホームの間に、バッターランナーには二塁まで進まれてしまい、依然、ツーアウト二塁。打者は4番の和菓子屋さんだ。


「藪江くんの絶対に間に合わないバックホームは伝統芸だから気にするな。次の打者を打ち取ることに集中しよう。」

「しかし…黄泉もスタミナが限界だな。大丈夫か?」

「大丈夫…あとひとりくらいなら…。」

「…球も浮いてきてる。次ダメなら代えよう。」


 逆転となる長打は避けたい。ヒットを打たれたとしても二塁ランナーを三塁で止めるには…やはり低めを振らせるしかない。俺はミットを低めに構える。


 ビュッ   バシィ!


 しかし、投げられた球は高めにすっぽ抜ける。俺の頭より上を越えて行こうとする球をギリギリ捕球した。


「あの嬢ちゃんももう限界だな。逆転させてもらうぜ兄ちゃん。」

 くそっ…疲労で制球も定まらない…今の球も俺の頭の上を越えようとしたし…

「待てよ…俺の頭か…。審判、タイム!」


「兄ちゃん…どうしたプロテクターを外して…危ねえぞ!」

「これでいいんですよ…。さあクズハ!俺を殺すつもりで全力で投げろ!」


「大和殿…自らの命をなげうってまで…!」

「ヤマトー!無茶だーっ!」


「…オッケー大和ーっ!!!!!!!!」

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