第24話 ファイティーン・ブギ

「あ…ああ…。」

「ヨミさんか、結構かわいい子だけどなんか妙な雰囲気だな。…?おい、どうした大和、顔が真っ青だぞ!」


「えーと、黄泉はこの夏に外国から引っ越してきて日本のことがよくわからないらしい。いろいろ教えてやってくれ。」

「よろしくお願いしまーす!」


──────

 ホームルーム後の休み時間。俺はクズハの手を引いて廊下に出る。


「どう大和?制服似合ってる?」

「…クズハ、お前がなんで俺の学校にいるんだ…。」

「そうです。なぜあなたがここに居るのですか?」

「イワナガヒメさん…あんたもだよ…。」

「私は綿密な計画を立てた上でこの学校に潜りこんだのです。あとここでは『山石先生』と呼んでくださいね。にこり。」

「うっ…。じゃあそっちも『大和様』はなしだ。」

「ええ、大和くん…。ふふ、これはこれでいいですねこれ、恋人みたいで。」


 さっきクラスメートの前で「大和様」と呼んだのも、もしかして計算ずくだったのかもしれない。こんなやり取りをしているとこっちも頭がおかしくなりそうだ…。


「それでクズハ、なんで俺の学校に。」

「オタマちゃんが言ってたよね。『クズハは住んでる世界が違う』って。だから、大和といっしょの世界に住むことにしたの。そういうこと!」


 なるほど、理にはかなっている。…いや、納得するな俺。


「クズハと大和は同い年だからね。あとは裏でごにょごにょと…そんで運命的に同じクラスになったの!」

「裏でごにょごにょしたのを運命的にとは言いませんよ小娘。」

「『山石先生』、生徒を小娘呼ばわりするのは良くないと思うな~。クズハも山石先生が裏でごにょごにょしてたの知ってるもん。」

「…葛葉さん。その話はあとでしましょうか。それ以上言ったら殺しますよ。」


 イワナガヒメさんも「計画的に」と言っていたがやっぱり裏で神パワー使ってやがったか…。神パワーを乱用してる時点で住む世界が違うと思うんだけどな…。しかし、気が重い新学期のはじまりになってしまった。


──────

 気分が落ち込んだまま始業式も終わった。始業式の間、ずっとイワナガヒメさんがこっちを直視していたのはマジキツかった…。なんかもう学校に居るのもいやだし早く帰ろう。


「天野、サルはどこ行った?行くんだろゴリラヅカ。」


 「ゴリラヅカ」というのは俺らの地元商店街のケーキ屋のことだ。職人気質のパティシエゴリラ塚トシアキさんが経営している知る人ぞ知る名店。テレビや雑誌の取材はすべて断っていると聞くが、口コミで訪れる人は後を絶たない。地元に顔が広いサルの親父さんとの関係も強く、子どものころからの俺らのたまり場でもある。


「ああ、『ちょっと待っててくれ』って言って黄泉さんを連れてったの見たけど…あの子もゴリラヅカに誘うのかな?…でもマサルってあんな積極的なタイプじゃなかったよね…。」


 ─ヤバイ。直観的にそう思った。


「探してくる!」

「…?血相変えてどうしたんだよヤマト!ちょっと!あたしも行く!」


 *


「どうしたのかな?女の子を人の居ないところに連れてきて。あっ、もしかしてクズハに一目ぼれ?」

「違う。黄泉─さん、お前大和とどういう関係…いや、何者だ?お前の顔を見た時の大和、明らかに普通じゃなかった。」

「恋人同士、だよ。きゃっ言っちゃった!」


「いや、あの時の大和の顔はとても恋人を見た顔じゃなかったぞ。…それに、感じるんだよな。お前が『この世の存在じゃない者』だって。」


「…ふぅん。」

「山石先生も何か違和感があったけど、お前は明らかに『違う』。何か、禍々しいものだ。だから聞く。お前は、何者だ?」


「…鋭いね、キミ。クズハの正体を知ってどうするの?」

「…わからん。でも、大和の害になるようなら…許さねえ。」

「ゆるさない…?ゆるさないのはこっちのセリフ…。クズハと大和の仲を邪魔するなら…ね!」


 *


 ビキキッ!


 このプレッシャーは感じたことがある。クズハがすぐ近くで黄泉の国の門を開いた時に感じるものだ。


「何これ…息が、苦しい…。」

 俺の後についてきた天野が苦しそうにうずくまる。

「この感じ…上からか。落ち着け天野、ゆっくり、深く息をしろ。少しすれば、慣れる。」

 俺も切れ切れになる呼吸を整えながら、階段を一段抜かしで駆け上がる。



「大和には無関係の人を巻き込むな、って言われたけど、少し怖がらせるくらいならいいよね…。こほん。我は幽冥界の姫、葛葉姫。…えーと、殺しはしないけど、うん、とにかく邪魔をしないようわからせてあげる!このセリフ怖かった?」


「クズハ!やめろ!」

 屋上への階段の踊り場に、サルとクズハは居た。サルは黄泉の門から伸びている黒い手に拘束され、身動きが取れないようだった。


「あっ、大和…えーと…これは…その…違うよ?そう、殺そうとしてはいないからセーフ!ノーカン!」

 俺の顔を見ると、クズハはいたずらが見つかった子供のような顔をして、何もなかったかのようにサッと黄泉の門を閉じ、サルを解放した。


「サル…すまない。巻き込んじまった。」

「大和…これは」

「どういうことかな?ヤマト。ゴリラヅカ、おごりだからね。」

 息を切らして駆け付けた天野が背後からグサリ、とトゲを刺した。

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