第二章 その三 レジスタンス
ザンバースは葬儀が終わり、一段落つくと司令官室に戻った。
「お疲れ様でした」
秘書が声をかける。彼女の名はマリリア・モダラー。ザンバースの片腕と言われるやり手の女性だ。
「どうした? 何かあったか?」
マリリアがザンバースに声をかけるのは、緊急の時か、最優先で伝えなければならない事がある時だ。
「お嬢様が行方不明になったようです」
その言葉にザンバースは眉を吊り上げた。
「そうか。連中、もう動き出していたのか」
「そのようで。いかがなさいますか?」
マリリアはその美しい顔に微かな笑みを浮かべて尋ねる。ザンバースは椅子に腰を下ろしながら、
「警察には言うな。私の部下に探させる。邸の者には、心配しないように伝えておけ」
「わかりました」
マリリアはそのまま司令官室を出て行った。ザンバースは机の上のインターフォンのボタンを押し、
「レーアが誘拐された。すぐに急進派の連中をリストアップしろ。そして、探せ。抵抗する者は容赦なく逮捕しろ。レーアを必ず助け出すのだ」
ザンバースは背もたれに寄りかかり、
(遂に急進派の徹底弾圧の時が来たようだな。レーア誘拐を口実に、一気に叩き潰してやる。そして国民に、連中に対する悪感情を植えつける)
急進派とは、ザンバースが名づけた共和主義者達の組織の事だ。ザンバースは、自分の計略を以前から探っている組織があるのに気づいていた。エスタルト暗殺を決行すれば、その組織が動き出す事も計算済みだった。しかし彼は、レーアが真っ先に狙われるとは思っていなかったのだ。
(もしレーアが……)
そこまで考え、彼は頭を振った。
「いや。あの子は生きている」
レーアがベッドの上で目を覚ますと、ディバートが目の前にいた。彼女は周囲を見渡した。窓が一つもない。どうやら地下室のようなところらしい。
「やっとお目覚めかい、じゃじゃ馬さん」
ディバートの言葉にレーアはカチンとして、
「うるさいわね! 誘拐犯にそんな事言われたくないわ!」
彼女は起き上がろうとした。
「おっと。待ちなよ」
ディバートが肩を抑えた。
「ザンバースの反応くらい、聞かせてくれてもいいだろう、お嬢様?」
レーアはディバートの顔がすぐ近くにあるので真っ赤になった。
(こんな事で出会っていなければ、多分告白してるかも……)
そんな事を想像してしまうくらい、レーアはドキドキしていた。
「お、驚いてたわ。私、怒ると思っていたから……」
レーアの言葉にディバートは満足そうにニヤリとし、
「そうか。やっばりね。それならいいんだ。ザンバースがエスタルト総裁を殺したに違いない」
またパパの悪口? 折角好きになってあげようと思ったのに! 意味不明の感情を沸き上がらせ、レーアはディバートを睨む。
「どうしてそんな事が断言できるのよ?」
ディバートはレーアから離れて、
「考えてもみたまえ。滅多に感情を表に出さないと評判のザンバースが、エスタルトの遺体に血が付けられているのを見て、怒るより先に驚いたという事は、何を意味していると思う?」
レーアは何も言い返さない。ディバートは続ける。
「ま、そのうちに君にもわかるさ。ザンバースがどんな奴かね。今頃は君が家に戻っていない事を知って、部下を使って探しているだろう。でも、ここは絶対にわかりはしないよ」
「どうして?」
自信満々のディバートの顔を見て、レーアが尋ねた。
「わからないから、わからないのさ。まさかと思うような場所だからね」
ディバートは謎めいたことを言う。レーアは、何こいつ、と睨んだ。するとその時、ドアが開いて男が一人入って来た。年齢はディバートと同じくらいだろう。
「紹介しよう。俺の同志、リーム・レンダースだ」
リームはディバートと違い、イケメンではなかった。目つきが鋭く、怖い感じがする。
「君がレーア・ダスガーバンか。テレビやネットで見るより美人だな」
「お世辞なんか言ったって、私は貴方達の言う事なんか聞かないんだから!」
レーアはやや食い気味に言った。リームは笑って、
「鋭い
「ああ、そうだな」
レーアはベッドから半身を起こして、
「貴方達は何を企んでいるの? パパの暗殺? それとも、連邦政府の打倒?」
「バカな事を言うな。ザンバースの暗殺はともかく、連邦政府を打倒したりするか。我々は、連邦政府を守ろうとしているんだ」
「守る? どういう意味なの?」
レーアは眉をひそめた。ディバートはレーアを見て、
「ザンバースが狙っているのは、前にも言ったように帝国の復活だ。奴がそれを成し遂げるのを阻止したい」
「君に協力してもらいたい。まだ信じられないかも知れないが」
リームが付け加える。
「信じられないって、パパの事? それとも、貴方達の事?」
レーアはキッとして二人を見る。ディバートが肩を竦めて、
「どちらもさ」
「そうだろう? 君は信じているのか?」
リームが口を挟む。レーアは顔を背けて、
「そう……かも知れない」
と呟いた。
ザンバースは司令官室で連絡を待っていた。テレビ電話が鳴った。ザンバースは受話器を取った。
「何かわかったか?」
モニターに映る男に尋ねる。彼の名はタイト・ライカス。連邦警備隊の事務次官で、ザンバースの計略の全てを知る男だ。
「お嬢様の居場所はわかりませんが、エスタルト総裁の顔に血糊を塗った者がわかりました。葬儀の準備を任されていた連邦職員の一人です」
「そいつは急進派か?」
「そのようです。しかし、吐かせる前に死にました」
ザンバースは歯ぎしりした。
「自殺か?」
「はい。どうやら、敵は相当な準備をして動き出したようです。連邦の内部にまで工作員を潜り込ませているのですから」
ライカスの言葉にザンバースは目を鋭くし、
「そのようだな。すぐにそいつの経歴を調べさせろ。それから、重要な話がある。幹部達を明日警備隊の大会議室に召集しろ」
「わかりました」
「連絡を怠るなよ、ライカス。敵は思った以上に手強いぞ」
「はっ」
ザンバースは受話器を戻した。
「絶対に邪魔はさせん」
彼は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。
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