使途の素顔

「入るよ義経爺さん。」

シドの話を断ち切り入ってきたアラン。

そのあとからシャロンがご機嫌で入ってくる。・・・何か食ってる。

コイツ食い物につられたか。


義経「シャロン。外はいいのか?」


シャロン「アランが命令したニャ。手を出すなって。」

尻尾をパタパタさせてシャロンが答える。

コイツは言葉が足りない。何かを説明させるには不向きだな。

アランが、兵士に命令したんだろ。手を出すなと。

意味が伝わらない片言の言葉よりもシドは、ネコ耳巨乳娘そのものが気になるようだ。エロさは健在だな。シドよ。


シド「アラン。その子は誰だ?」


アラン「ああ。コイツはヘイトの使途でシャロン。

    知らなかったか?普段はネコに化けてるからな。」


シド「あの・・バカでっかいネコか・・・。」


シャロン「バカでっかいとは何だニャ~。カワイイと言うニャ。」


義経「ネコの姿は魔力制限されてるイマジン世界だけだ。」


シド「そうだったのか、ならばゾウも人型か?」


義経「それでも長官かよ。ゾウの名前はトニー。人型だ。

   魔力制限されているイマジンでは二人とも

   周りに遠慮して動物になってるだけだ。

   ちなみにトニーとシャロンは俺の命令にも従うから

   変な気は起こすなよ。外のレールガン以外は

   こいつらの敵にもならないからな。」

こんな至近距離で使ってもレールガンから発射された弾頭は

大気圏外に飛び出すだけだが、その衝撃波で半径5㎞は蒸発するだろう。


シド「お前の命令に従うだと?それは無いだろう。

   第一に、お前には魔力がない。

   魔力無くして使途を従わせることは不可能だ。」


義経「役人になってから更に、頭が固くなったな。

   俺が使途を呼び出せば解るだろうよ、トニー!出てこい。」


トニー「お呼びでしょうか? 義経様。」

実体化したトニーはアラビアンナイトから飛び出たような姿で

ターバンを撒き刺繍入りのベストと、真っ白の絹のような

ゆったりとしたパンツに細身で筋肉質の青年。さながら、どこかの若王子のようだ。

自由奔放のネコ耳、巨乳のシャロンと正反対の従順な使途だ。

もっともシャロンも自分では従順で、ご主人さま思いの使途と思ってるようだが・・・。


義経「シドとアランに、お茶でも出してくれ。それとシャロン。

   ヘイトを起こして、ここに連れて来てくれ。

   あっ。静かに起こせよ。」


トニー「それなら、ヘイト様にも、お茶を持っていってくれ。

    ハーブティならヘイト様も心地よくお目覚めになるだろう。」


シャロン「??・・・!。いい考えニャ~。ハーブティーなら

     ヘイト様もご機嫌になるんだニャ。」

なにか、間違えてるように思えるが・・・。まあ、大丈夫だろう。


シド「そんな・・・ありえん。

   君達はヘイトの使途のはずなのに

   なぜ?義経の命令を聴くのだ?」

トニーは答えていいものか困惑し、こちらを見る。俺はうなずき、トニーに説明するように促す。


トニー「我々使途は、ご存知のように主人からの魔力供給で生きています。

    主人以外からの命令を聴いても、命令者から魔力供給を受けられ無い

    ばかりか命令を実行するために主人の魔力を消費します。

    それは魔力を無駄に消費し主人共々、自滅することを意味します。

    しかし、私とシャロンは義経様の身を守る事と

    義経様の命令に従うことでも、ヘイト様より魔力供給されるのです。」


シド「なるほど、強力な魔力を持つ、ヘイトだから出来る事か。」


義経「解ったかシド。それよりもヘイトが起きて来る前に

   もう少し話を聴こうじゃないか。

   自爆装置位にしか使えないギミックソルジャーにレールガン。

   ただ事ではないだろう。ましてや大型恐竜種やドラゴンと言っても

   イマジンで戦闘経験豊富な第三、第四世代の敵ではないはずだ。

   まあ、奴らが魔力でも持っていれば別だがな。」


シド「それが、持っているんだよ。魔力を。」

驚きで言葉が出ない俺をシドは気遣う事も無く話し出した・・・。


大型恐竜種と初めて交戦したのは第三世代と純魔族の混合部隊だった。

始めは大型恐竜種に驚き、劣勢に立たされた混合部隊だったが

純魔族の火炎雷とライゾルで大型恐竜種を壊滅まで追い込んだが

後方から現れた、新手の大型恐竜種に返り討ちに遇ったらしい。


新手の大型恐竜種はたった3体だけだったが火炎雷の中を平然と歩いて来たらしい。

しかも魔力攻撃を使う上に、小型種を統率し混合部隊を翻弄した。

トドメはドラゴンだった。大型種はドラゴンをも配下に置いているらしく、大型種の命令で飛来したドラゴンが火炎を吐き、混合部隊は壊滅状態に追い込まれる。

混合部隊に興味を失った大型種はドラゴンを呼び寄せ何事かを命令した。


するとドラゴンは防護壁を軽々と飛び越え、数千度の火炎を武器に

外縁地区に甚大な被害をもたらし、あざ笑うかのように防護壁の中えと消え去った。


小型恐竜種ばかりか、今まで姿さえ確認できなかったドラゴンをも統率する知力を持ち魔力まで使う大型恐竜種は確かに脅威だが・・・。


義経「話は分かった。だが、それだけで、お前は核弾頭代わりに亜光速レールガンを

   持ち出し、ヘイトが従わなければご近所様を蒸発させるつもりか?

   ヘイトが従わなければ人類は死滅するから半径5㎞くらいなんでも無いと?

   ならば、防護壁の中でぶっ放せばいいだろうよ。

   確かに知能と魔力を兼ね備える大型恐竜種にドラゴンは脅威だが

   暴走も良い所だ。考えなお・・・。」

俺の話の途中でシドが話し出す。


シド「もっと早くに、お前に相談しておけば良かったと後悔しているよ。」

表情が曇った。何をそれ程まで後悔している?短い沈黙のあと、シドは続けた。


シド「半年前に粗悪タイムマシーンの向こう側をサーチすることに成功した。

   サーチ結果を信じろとは言わないが、恐竜種の生体反応は300億を超える。」


義経「馬鹿な!人類の最盛期でも90億だぞ!間違いはないのか!」


シド「間違いない。・・・但し、サーチ出来たのは、こちらから確認できる

   半球だけだ。サーチ出来なかった裏側には、同じ数の恐竜種が居ても

   おかしくない。」


義経「600億・・・。」

それ以上言葉が出なかった。600億。そのすべてが民間人などいない戦闘員。

狭すぎる。それだけの数が生き延びるだけの食物は地球サイズでは賄えない。

ならば、彼らは殺し合うのが日常になるのも頷ける。

増えすぎた人口は、容易に殺し合いを起こすだろう。原因は子供でも解る。食うためだ。少ない食料を奪い合い、殺し合いが始まる。それでも、600億が生存すると言うのか。ならば、この世界と繋がった途端に食い物を求め弱者は逃亡するだろう。

・・・??? 弱者だと。


シド「察しが良いようだな。

   我々の世界と繋がった時にあふれ出した恐竜種は

   あちら側の世界では弱者に過ぎないだろう。

   ドラゴンまで操る3匹の大型種でも

   弱者の部類に属するのは容易に想像できる。」


そんな・・・。

小型種だけでも手を焼いているのに、こちら側に来た恐竜種は弱者だというのか?

だとしたら、ヘイトでも手に負えない化物がゴロゴロしている可能性は大きい。

俺の思考を遮り、今まで黙って聴いていたアランが思いつめたように話し出す。


アラン「義経爺さんよ。問題はそれだけじゃないんだよ。

    親父はヘイトと義経爺さんがこちらの要求をのまなければ、

    と言ったはずだ。」


義経「・・確かに、そう言ったが・・・。俺になんの関係がある?

   俺は粒子論を齧った技術者でしかない。戦闘とは無縁だ。」


アラン「3匹の大型種は剣を持っていた。魔力制限がない現実世界で使途が変化した

    生体ソードもウルツァイト窒化ホウ素の盾でさえ、あっさり切り裂く剣だ。

    その剣は振り回すだけで光を発した。剣や盾を切り裂く時も同じだ。


    振り回すだけで輝き、ウルツァイト窒化ホウ素の盾さえも

    あっさりと切り刻む剣。もう・・・解っただろう。爺さん。」


義経「アルゴノートだと? そんな・・・馬鹿な・・。

   ありえん。原子を構成する三個のクウォークを引き剥がすアルゴノートを

   恐竜種が持っている・・だと。」


「うぎゃ~あ!アッチ!なんだ? シャロン~。・・・・」


突然の悲鳴。しかも、ヘイトの声だ。あいつの悲鳴なんて何十年ぶりだ?

シャロン・・・何をした?


シャロン「ゴメンなさ~い。トニーが・・トニーがぁ!

     ヘイト様が喜ぶと言ったからぁ~ニャ。

     ハーブティーを持って行ってあげたニャあ。」


言訳をしながらシャロンが勢いよく走り込んでトニーの後ろに素早く隠れ、少し遅れて上半身裸のまま、毛布をタオル代わりに耳に当て、ヘイトが入ってくる。逃げ込んできたシャロンとは対照的にヘイトは、逃げるシャロンを追いかけようともせずに、ゆっくりと歩いてくる。その顔には怒りは無く、憐れんだようでもあり、あきれ果てたようでもある微妙な表情が伺える。なんだ?揉め事はもうごめんだ。何をした?


ヘイト「義経爺さん。新しい端末くれ。

    シャロンのやろ~のせいで壊れちまった。」


シャロン「シャロンは悪くないニャ。トニーが差し上げろって言ったニャあ。」


???解らない。ただでさえシャロンの説明は意味不明なのに、パニック状態では尚更不明だ。ヘイトは怒りもせず呆れ、トニーを盾に隠れているシャロンを目で追っている。一応、侍従関係にある2人だが、その関係は微妙でチョコチョコ揉め、その争いは何の前触れもなく巨大化する。

前に、この二人の痴話喧嘩で家を破壊されたし。あの時の事は今でも腹が立つ!


家ネズミを捕まえようと、家中を駆け回るシャロンに、イラついたヘイトがまるで近所の子供に軽く注意でもするかのように『シャロ~ん!うるさいぞ~。』と、にこやかに注意しながら、あの野郎・・・さらっとボム(小規模爆裂魔法)を食らわせやがった。サラッとボムを食らい驚き、一旦はおとなしくなったように見えたシャロンだったが・・・。プルプルする事数秒。・・・あのバカ猫!腹いせにギガドム(手加減なしの爆裂魔法)を放ちやがった。


ワシはトニーが作った防御のおかげで難を免れたが、さすがに無傷とはいかず勿論、家は柱数本と床を残しバラバラ。野原と化した我が家のリビングに黒焦げになったヘイトと俺。目がテンになったいたヘイトがやっと切り出した言葉がこれだ。

『それ・・・やりすぎだろ。』この一言にシャロンは逆切れ。まさかの、ギガドム二発目を繰り出しやがった!その衝撃でわずかに残った柱も吹き飛ばされ、あっけに取られる俺達にシャロンがまともな事を言った。「家ネズミは、絶滅危惧種ニャ!保護しないといけないニャ。」・・・シャロンにとって俺達よりネズミが大切なのか?その言葉を聞いたヘイトが切れたようでユラリと動き、悪意に満ちた半笑いでミラーウォール(防御と攻撃、威嚇を兼ねた対人戦闘用万能魔法)を発動し戦闘態勢に入るが、シャロンの一言で腑抜けになった。「ご主人様には愛がたりないニャ!」


まあ~なんだ。今の様子だったら、家を壊される事はなさそうだな。


       ****5分前からの回想 シャロンとヘイト****


トニー「シャロン。お茶が入ったぞ。ヘイト様に持っていってくれ。」


シャロン「お茶?・・・?違うニャ!シャロンが持っていくのは

     ハーブティーにゃ!お茶じゃあヘイト様は喜ばないニャ!」


トニー「・・・。悪かった。これはハーブティーだ。」


シャロン「さっき、お茶って言ったニャ!」


トニー「うっ。しまった。でっかいネコ並みの脳みそしかシャロンにはない。

    ヘイト様はシャロンの脳みその半分は、やさしさで出来ている。が、

    あとの半分はキャラメルだ。と、言っていた・・・。

    アホのシャロンにハーブティーとお茶が同じだと、教えるのに3日は

    掛かる。」


シャロン「何か言ったニャ!」


トニー「・・・。!。すまなかった。

    このお茶は義経様達に持っていってくれないか。

    その間に、ヘイト様用のハーブティーを準備しておくから。」


シャロン「解ったニャ!」


義経様達に、お茶持ってったニャ。ヘイト様のハーブティは出来たかニャ~。おおっ!さすがトニー!さっき義経様達に持って行った、お茶とは格段に違うニャぁ。特に香りが違~う!。これならヘイト様も喜んで、ご機嫌になるニャ!


トニー「いい所に戻ってきた。今できた所だ、熱いから気を付けるように。」


シャロン「さすがトニーニャー。さっきとは格段に匂いが違うニャー。」


トニー「・・・同じものだが。・・・あっ。冷めないうちに持って行ってくれ。」


わかたったニャー。


シャロン「ヘイトさま~。ハーブティですニャぁ~。

     起きるニャぁ~。」


・・・。ハーブティー持って来たのに起きないニャ。???なぜ?

シャロン閃き!解ったんだニャ~。ハーブティーを持っているだけじゃダメなんだニャ!ヘイト様にあげないといけないんだニャ。でも、このハーブティー熱いニャ。そいえば・・・さっきトニーが熱いからゆっくりと言ったニャ。ヘイト様に、ゆ~くり~とかければいいんだニャぁ。最初は優しく・・・。


シャロン「ヘイトさま~。と~っても熱いハーブティーニャぁ~。

     熱いから、少しずつ耳から行くニャあ!」


ヘイトはシャロンに熱々のハーブティーを耳に注がれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る