「 」
陸 巴夜
競わないひと
とある祭のとある屋台の一角にあなたはいた。
誰にでも参加できる祭は開催初日というだけあって賑やかな声が聞こえてくる。
通路は人でごった返しているがあなたの店に足を止める人はいない。
参加自由な祭の話を聞いて数か月前から準備した店だったが、無理もないとあなたは思う。何しろ店が多すぎる。あなたは店番を諦めてほかのお店を見に行く事にする。
この祭の参加者は籠いっぱいのお花と屋台が貰える。店を気に入るとお花をお店の看板につけていってお花の多さを競うらしい。
祭の会場は数え切れない店で埋め尽くされている。
好みの店を見つけることはすぐに諦め、店が並ぶ一つの通りを見て歩く。
あなたは気になる店に応援の気持ちを込めてお花をつけていった。
そうしているうちに自分が花をつけたお店にはいつも同じ人が花を付けていることに気がついて、きっとこの花をつけている人は自分と同じ趣味なのだ、と気になって、その人の店を探しに行った。
手掛かりを元に見つけ出したその人店はあまり好みではなく、花を付けなかった。
すべての店を見ることなんて出来ないし、例え一つの店でも数か月かけて作りこまれた店内をじっくり見るのは大変だ。なんとなく店を見て回り、そしてあなたは気がついた。
先ほどの花の人は多くの店に花をつけていて、あなたと同じ店に花があったのは沢山の花の中のうちの数軒だったのだ。きっとその人は目に付いた店にはほとんど花をつけていったのだろう。
同じ趣味の人に会えたと思っていたあなたはすこしがっかりして自分の店に戻った。
すると今度は自分の店にお花が付いていることを発見してあなたはとても喜んだ。
あなたの店を見つけて花を置いて行ってくれた人はどんな人だろうと、あなたはまたその人の店を探しに行った。
そしてまた、がっかりした。
先程人とは違うが今度の人も色々な店で花を見る様な人だった。祭が始まってから半日ほどで、ここまでの花をつけているのだから自分の店は目に付いたぐらいできっと特別なものではないのだろう。
あなたは自分の籠の中の花を見て考える。自分の花の付け方は間違っているのか?
そんな風に思っていると誰かの声が聞こえてくる。
「宣伝代わりに花をつけやがって……」
忌々しそうな声にあなたは思う。なるほど、店が多過ぎて見つけてもらうことすら出来ない状況の中、花をつけることで自分の様に花の主を探す人がいる。宣伝にはなるだろう。考えたものだと。
しかし、何ヶ月も掛けて用意した店だ。宣伝のつもりで多くの花を配っていると知ったら、もらった人の中にがっかりする人だっているだろう。あんまりいい方法ではないだろうと。
無数にある花はきっと全ての店につけても余るのだろう。どんなに安売りしても問題はない。でも花の数を競うのに安売りしてどうするのだろう。
数日後、あなたは行列を見つけたので並んでみた。行列の先には随分と過激なお店があり、とても沢山の花を集めていた。祭はとても盛り上がっている。
あなたの店にも少しは人が来てくれて、その人達の伝手をたどってほかの店を見て回ったが、何となく花をつける気にならなかった。
そして数日後、花の数の順位を見て、あなたは宣伝の効果が有ったこと知った。見覚えのある店が上位にいたのだ。
花の数を競い合うお祭で自分の持つ花を大安売りすることは、結果として花を集める事になったらしい。
「お礼の花が集まったんだな」
順位を見ていた誰かがいうのを聞いてあなたはまた自分の思いつかない花の使い方があることを知った。
あなたは花を渡された時にいい店につけるものだと思った。だがどんな店につけるのかを聞いた訳ではない。どう使おうが自由なのだ。
そしてあなたは順位の上に張り出された『優秀な店に賞金!』の文字を眺めて思った。賞金が欲しい人には花の数が全てなのだ。
貰えるものなら賞金は欲しい。順位の上に張り出されて多くの人に店を見てもらいたい。でもあなたは花を使って店を宣伝したり、花を集めるために花を使おうとは思わなかった。あなたの花は特別な物だったから。
そして色々なお店を見て回っていると本当にあなた好みの店に出会った。あなたは自分の店への評価と同じかそれ以上に嬉しくなった。
量より質が大切だ。例え自分以外の人には分からなくても。きっと無数にある店の中には自分と同じ様な人もいるはずだと。目立つ必要はない。自分の店が誰かの特別な店になれればいいと思った。
こうしてあなたは、量より質の競わない人になった。
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