私が勇者を殺すまで

飴屋スガネ

プロローグ

「サヤ お前は字が読めたか?」


「はい。多少ですが」


黄色に近い強い黄金の長い髪を光らせた男。同じ色をした切れ長の瞳はどこまでも神経質を極め、品のいい顔だちや高過ぎる鼻も薄い唇も高慢さが滲み出て仕方がなかった。


男の名はアリスティア=マリー・ブラッド

ノーデル国の北方のごく一部の地域の領主をしている。ごく一部と言っても、彼の持つ金や権力はそのへんの貴族とは比べ物にならない程では有るのだが…。



アリスティアは自分のすぐ下、床に座っていた少女の頬を持っていた新聞紙で勢いよく叩くと、そのままそれを床におとした。


「読んでおけ」


パチパチと暖炉から音がする、アリスティアは機嫌良さげに目を瞑り繊細なメロディの鼻歌を歌う。

そこに少女が出す紙をめくるおとが重なった。


少しばかり皺の寄ったものの、アイロンがかけられパリッとしている新聞紙には、キリル文字や漢字の部首、アルファベットのような文字が美しく並ぶ。


「どうだ?サヤ」


サヤ、少女サヤはアリスティアの言葉と同時に、弾かれたように顔を上げて困惑したように黒のように見える深い深い茶色の瞳を揺らした。


「意見を許可するよ、どうしたい?」


サヤの腕を引き自らの脚にしな垂れさせるようにして、もう片方の手でサヤの肩にも付かない程の長さの髪を撫でた。黒いその髪は青にも緑にも見えず、ただ光を反射させた。アリスティアは「やはり長い髪は似合わないよ」そう言ってから片眉を上げる、早く答えろとサヤを急かしているのだろう。


「お会いしたいです、勇者様にお会いしたいです」


強い意志を持ったサヤの声にアリスティアは嬉しそうな顔で不機嫌そうな声で笑った。

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