第9話 青き靴下の息子

「大丈夫でごぜえやすか若旦那!」 

 店から駆けだしてきたクレルヴォ、震えながらつぶやきます。

「よくも若旦那を……」

 そこで脱ぎ捨てましたのは、あの青い靴下。

 お忘れかとも存じますが、クレルヴォの二つ名は「青き靴下の息子」。

 これこそが、身体に流れる戦闘部族のたぎる血を抑えておりましたリミッターで。

 外れますとただでさえいかつい身体がいつもの5倍増しほどに膨れ上がります。

 しかし真の力はそこではございません。

「ただじゃ済まさんぞババア!」

 暑苦しい巨人が吼えますと、ロウヒ様を守るために駆けつけましたのはポホヨラの警察やら軍隊やら。

 コテコテに武装した面々が次々に倒れます。

 一方、どこから取り出したのか、ガスマスクを装着いたしましたのはイルマとレミンカ様。

 実はクレルヴォ、この宇宙に足の臭さで右に出るものはおりません!

 興奮するとこの通り、ガスマスクなしでは立っておられないほど。

 たまりかねたイルマが作りましたのが、超強力なインソールを仕込んだ青い靴下というわけでございます。

「アタシの星を汚すんじゃないよ!」

 ロウヒ様が一声叫びますと、肥えた身体で眩ゆいオーラが炸裂いたします。

 爆風が超音速で街角を吹き抜け、辺り一帯の大気を汚染していた悪臭が弾き飛ばされました。

 四方八方から吹き戻されてくる突風。

 イルマとレミンカ様のガスマスクが引き剥がされます

 クレルヴォはといえばごろごろごろ~っと転がされ、店にぶつかってやっと止まりました。

「若旦那、無駄に強いですぜこの婆さん!」

 似合わない泣き言を垂れております。

 片やロウヒ様。

 よろよろ立ち上がる巨漢に向かって大見得を切ります。

「これがポホヨラの力だああ!」

 ロウヒ様、ポホヨラの母よと男たちの歓声が上がる中、オカマの床屋さんだけはまだ店の中で震えておりました。

「これじゃあお客さんが……」

 そんな迷惑など気にも留めないレミンカ様、光の刃をぷしゅうと収めまして。

「倒しがいがあるぜ婆さんよお!」

「なあんのおおお!」

 エールの交換のごとき叫びが発せられますと、風か嵐か、路面がばっくりと裂けました。

 レミンカ様とロウヒ様、お互いのフォースが衝突して、衝撃波が襲ってきたのでございます。

 こうなってしまいますと、警察でも軍隊でもどうにもなりません。

「退避~! 退避~!」

 土煙上げて去っていく皆々様を、後ろからペコペコ頭を下げて見送っておりますのは「永遠の匠」イルマでございます。

「すみません、ほんと~によそでやります!」

 やがて、睨み合う女帝と若旦那、立ち尽くす兄をきっと見据えたイルマ、天に向かって叫びました。

「コトカ!」

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