18:宴会でキス天国
「ど、どうも、ご馳走になります」
「いいのいいのっ! 私のところに来てくれるのなんて、君たちだけなんだから! ほらっ、早く座って座ってぇ♡ お姉さん、寂しいよぉ~っ♡」
「は、はぁ」
友達とか、いないのかなぁ……?
モモさんの脇に俺が腰掛け、さらに俺の隣にエッチが続く形となった。
「はいこれ、まずは一杯どうぞ!」
と、ビール缶を差し出される。
「ちょ、ちょっと! だから高校生に酒はっ!」
「冗談じょうだーん。ちゃんと、ジュースとか用意してあるわよ」
「ほっ……。いやぁ、良かったですねエッチ」
エッチは、ビール缶を開けてごくごくと飲み始めていた。缶の傾きの角度がヤバいことになっている。豪快だ……!
「ちょっ……エッチさん!? 俺ら高校生だよ!? 酒なんて――」
「エッチです。貴方がたの国家の法律で、20歳未満は飲んではいけないようですが……私は、貴方がたの時間尺度で言うと、現在約16000歳です。したがって、問題はないと考えますが」
「そっ、そうか……ていうかこの人、人間じゃなかったし……! そんなに歳食ってるなら、飲めないほうがおかしいですもんね。……じゃ、じゃあ、飲めないのって俺だけっ!?」
「よく分からないけど、エッチちゃん飲めるなら良かったじゃな~い! はいっ、二人とも、かんぱ~~いっ!」
ごくごくごく、と俺はジュース、他二人は酒を飲み干す。
「ぷは~~~っ! 隣に少年をはべらせて飲むお酒はサイコーだわ!」
と、口元を豪快にぬぐうモモさん。
「エッチです。前頭葉が軽度に麻痺しています……目の前がクラクラしますっ」
少々、目を回しているエッチ。
なんだろう。一杯目からすごく不安になってきた……。
「もう君たちぃ、ちょうどいいタイミングで来たわね! もうお肉もお野菜も食べられるわよ!」
たしかに、テーブルのなべの中のお肉は、火が通って茶色くなっている。家庭的な匂いが、部屋の中に充満していた。酒臭ささえなければ、最高だったんだけど……。
「ほらほら、二人ともお箸もってお箸」
「あ、ありがとうございます」
箸を渡される。
その時、モモさんはなぜか、俺の手にやたらとじっとり触れてきた。な、なんだ……?
はっ……!? これって、「ボディタッチ」というやつなのでは!?
「ねぇねぇ少年、私にあ~~んってしてくれない?」
モモさんは、こっちに口をかぱっとあけて見せた。
「ええええ!?」
「ふぇ~え~、おねがぃぃ~~っ!」
「……し、仕方ないですね」
これも他者奉仕の一環だ、と割り切って、俺はお肉を箸でつかんだ。モモさんの口に、そっと入れる。
「う~ん、美味しい! ねぇねぇ、次はお野菜食べさせてぇ♡」
モモさんは、ネットリとした声で言った。
「ま、またですかっ」
「だってぇ、うらやましいんだも~んっ、同僚のアイツ、結婚式が終わって……今頃、めちゃくちゃ男とイチャついてるんでしょうね……あぁぁっ、くやし~~~~っ! だから、お願いよ少年! 私さびしいのっ。だめぇ?」
ずずいっ、と美人なモモさんに近づかれ、俺はドギマギした。どうも、モモさんは化粧しているらしく、くちびるも頬もほんのりピンク色に染まっている。成熟した大人の色気が、ムンムンと漂っていた。
そんな人に顔を近づかれると、かなり刺激がきつい……!
「うっ……。わ、分かりましたよ。じゃあ、どうぞ、あ~んしてください」
「ンふふっ、うれし~い♪ あ~~~~っ……んっ、もぐもぐもぐ……んン~っ、さいこぉっ♪」
咀嚼しつつも、モモさんは俺を流し目でじ~~っと見つめてくる。なんとなく気づかないふりをして、俺はやり過ごした。
「うふふっ、アハハハ、あははははっ♪ ねぇねぇ~っ。えっちれすぅ♡ ねえアナタぁ、私にもあ~~んって、してくださいぃ♡」
急に、横から声をかけられた。
「え、エッチ!? なんか、ろれつが回ってないですけど……!」
あまりにヘニョヘニョな声で、一瞬、エッチじゃなくて別人かと思ってしまった。顔を真っ赤にし、目の焦点も合っていない。一人でさえ大変なのに、もう一人面倒なのがふえてないか!?
「え、えっと……」
「ンにゃぁぁ~~~っ……♡ モモさんにだけなんて、ずるいですよぅ♡ はやく、はやくぅっ♡」
「しょ、しょうがないですね。はい、あ~~んっ」
ヤケクソで、お肉を差し出す。
「えっちれすぅ、いただきますぅっ♡ ン、あ~~~~んっ♡ ふぁぁ、美味しいですぅ……♡」
「おっ、何よ何よっ、しょうね~~んっ! エッチちゃんと、ずいぶん仲良くしてるみたいねぇ? まぁこの子カワイイし、優しそうだもんねぇ……んくくっ!」
「は、はぁ……まぁ」
仲良くしてるのは否定できないし、いちおううなずいておく。
「……それにっ! ……っカァ~~~~っ! おっぱいも、すっごいおっきいわねぇ! 私よりあるんじゃないのぉ?! あーぁ、いいわねぇ男の子って、単純で! でっかくて可愛けりゃ、それでいいってぇのぉっ~!?」
モモさんは、語調激しく詰め寄ってくる。若干、酔っているようだ。
「!? ちっ、ちがっ! 別に、胸目当てで仲良くしてるわけじゃっ」
「え~~~っ、ほんとにぃ!? あやしいぞっ、少年っ♡ じゃあさ、じゃあさぁ~~~っ、んぐ、んぐっ……ごくごくごくっ!」
さらに酒をのどに流し込んで、モモさんは、
「私とエッチちゃん、どっちの胸が好きぃ? ねぇねぇっ、教えて教えてぇ♡」
「そ、そんなこと……分かりませんよっ! 人の胸なんて、そんな細かく観察してませんから!」
「ええ~~っ!? それじゃあさぁ……分かるでしょぉ? ほら、こうすればぁ……っ♡」
ぎゅうううっ! と、モモさんは俺の腕にしがみついた。胸がひしゃげて当たる感覚がし、とたんに俺の体が硬くなってしまう。
「う! ちょっと……モモさん!?」
「え~~? ナニ動揺してんの少年? カワイイぞ~、ほら、ほらっ♡」
ムニュ、むにゅっ……と、胸が何度も押し付けられた。や、やめてっ……!
「ねぇねぇエッチちゃぁん、アナタもやってあげたらぁ? そしたら、彼の好みが分かるじゃない?」
「あふっ、ンふぁぁ……っ♡」
エッチは、完全に酔っ払っている。目のハートマークが、チカチカ点滅し始めていた。や、やばい……っ!
「えっちれすぅ♡ ぜひ、そうさせてくださぁ~~~いっ♡ ふへっ、えへへへへへ……♡ それではアナタっ、失礼しますね……♡」
もう片方の腕に、今度はエッチがしがみついてきた。モモさんのものより、かなり重量感のある胸が、たっぷりと押し付けられる。
「ううううっ……!?」
目をつぶってもだえる俺。両側から、女性の胸を押し付けられるだなんて、未知の体験だった。
「ねぇーっ、しょうねぇん♡ どっちぃ? どっちが好きなのさぁ♡ 言ってみなさい、ホラホラ♡ ほっぺたを~っ、つっついちゃうわよ~♡」
つんつん、とマニキュアの塗られた爪が、俺のほっぺたをつついた。
「んくっ……そ、それはっ!」
「えっちれすぅ♡ アナタの好み、私も気になりますぅ♡ ンふっ、ンふふふふふ~っ♡ 分からないようでしたらぁ、も~~~~っと、押し付けてさしあげますよぉ♡」
ぎゅっ、ぎゅっ……と、エッチはしきりに胸を俺に押し付けた。
す、すごい……何をどうしたら、こんなに成長するんだろう?
どちらが大きいか、と言われたら「エッチのほう」と言わざるを得ないけど……。どっちが好きとか言われても……そんな、選べるような立場じゃないし。強いて言えば、どちらも好きだった。
「ううっ……! そ、そうですね、二人とも充分おおきいと思います。すごいですよっ」
「もぉ~少年ったら、八方美人なんだからさ~っ♡ ほんっと、口がうまいよねぇ♡」
エッチのほうを贔屓にしなかったことが、気に入ったらしい。モモさんは、俺の頭をなでた。
「は、ははは……」
「えっちれす♡ そうれすよ、彼はとても優しい方なんれす♡ ねぇ~っ、ア・ナ・タ?」
二人とも、俺の顔のすぐ近くでしゃべっているが……。
めちゃくちゃ、酒臭い! こっちまで、酔っ払ってしまいそうだ。
「そ、そう言ってもらえると、うれしいけど……んんっ!?」
「ンふふ、んちゅっチュ……♡」
エッチは、俺の頬にキスしてきた。
「ちょっ、エッチ!? こんなとこでそれはっ……!?」
「やぁンっ、アナタったらい・け・ず・さん♡ んむっ、ちゅっ♡ チュっ♡ チュゥ……♡」
と、エッチはついばむようにキスしてくる。
「えぇ~~~っ、ナニよもぉっ! 貴方たちぃ、やっぱりそういう関係だったんじゃないっ! く~~~っ、にくたらしいっ!」
モモさんは悔しそうにビール缶をめりめり言わせている。
「い、いやっ……これはですね、その、そういう意味のキスではなくって」
「ならどういう意味よっ。結局、少年も若い子しか眼中にないのね? お姉さん悲しいぞっ、グスン……」
若い子しか眼中にないのは、あなただろうに……。
「そ、そんなことはないですよ! モモさんは、じゅうぶん魅力的だと思いますけど? 何も、そんなにふてくされなくったって」
すると、彼女はぱっと明るい顔になった。どんより曇っていた瞳が、若干輝いている。
「それ本当?! 君みたいな若い子から見てもさぁっ、私って魅力的かなあ~~~っ?」
「そ、そりゃもう! も、モモさんが結婚できないなんて、きっと周りの男性の見る目がないだけですよっ……! ……たぶん」
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