15:「う、うそっ、これがウチ!? うそ、ウソウソウソやんっ!」
その後、モエカの分厚い髪の毛をまとめ、後ろで束にしてまとめた。
「うーん、ポニーテールは似合わないなぁ」
「そ、そんなぁ……!?」
「もう少し、髪を結ぶ位置を下げて……髪の束を前に持ってきて……うん。これなら中々かな」
「ほっホンマに!? ウチどんな感じ!?」
「図書室で本読んでる、影のある美少女って感じかな」
「かっ、影……? でも、美少女て……そんな、ウチぜんぜん可愛ないやろ!?」
「いや、まだまだ分からないよ。『カワイイは作れる』ってネットに書いてあったし。さ、次だ次だ」
俺は、調べてきた限りのことをモエカに試した。
まず、わざと選んだんじゃないかってくらいダサい丸メガネをとってもらう。
さらに、だぶついたカーディガンを脱いでもらい、セーラー服のはしをスカートから出す。
「う、う~ん……なんか、モエカって胸が大きいから、セーラー服がひっぱられて太って見えるなぁ……?」
「ええええっ?!」
「胸が大きい」と言われたのと、「太って見える」と言われたのと。うれしいのとがっかりが重なってか、モエカは複雑な表情で叫んだ。
「安心してくれ。こんなこともあろうかと、サイズ小さめなカーディガンを用意してきたんだ」
「し、師匠っ……! すごい用意ええですね。ウチのために、そこまで……!?」
「このくらい当たり前だよ。さ、これ」
モエカは、小さめのカーディガンを羽織った。するとあら不思議。サイズが小さいため、お腹にぴったりと生地が張り付き、やせて見える。その上、大きな胸もまるく強調され、一石二鳥だった。
「おおっ、良いっ!? でもまだまだっ! モエカ、スカートの丈直して丈! スカートひざ下なんて、ぜんぜん流行んないって書いてあったぞ! それと、そのなっがい靴下も下げてっ! めっちゃださいし!」
「えええ!? で、でも……ウチみたいな女がそない肌出しても、気持ち悪がられるだけなんと違う?」
モエカは、恥ずかしそうに人差し指の先っぽをこねくり回した。そんな彼女を、俺は叱咤する。
「最初からあきらめるなよ! 可愛くなりたくないのかっ! 好きな人に告白したくないのかぁっ!?」
「は、はいぃぃぃぃっ、師匠っ!」
俺は、「サスペンダー」というものを彼女に渡し、後ろを向く。その間、ごそごそという音が聞こえて……。
「師匠、できたで!」
「うむ……おぉっ!?」
そこには、脚を多く露出した、瑞々しい女子高生が一人立っていた。今まで居た貧乏神みたいな子は、一体どこに行ったんだろう……と、不思議になるくらいだ。
「おぉ、いいじゃんっ。ねぇエッチ、エッチもそう思いますよね」
「エッチです。ええ、見違えたと言えるでしょう」
「や、やだっ……そんなっ。うち恥ずかしいし……」
モエカは、もじもじと下を向いて、ぶつぶつとつぶやいていた。
「いやいや、普通に可愛いよ。さっきまでと、ぜんぜん違うじゃん」
「ほ、ほんま……?」
「ホンマホンマ」
ぽん、とモエカの肩をたたく。
「し、ししょぉっ……うち、ウチッ!」
その時、ずるっ! とスカートが落っこちた。
「「……え?」」
おそらく、サスペンダーの挟み方が甘かったのだろう。
スカートは靴のところにくにゃりと横たわり、モエカのパンツ姿が思いっきりあらわになった。
「……し、白?」
その純白の下着を凝視して。俺は、つぶやいてしまった……。
モエカはわなわなと震え、高速でしゃがみこむ。
「いっ……イヤアアあああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!!」
約十分ほど、深呼吸をさせると、モエカはようやく落ち着いた。スカートを履きなおし、立ち上がる。
「す、すいません。なんか……お、思いっきり見ちゃって」
「い、いやっ、ウチこそお恥ずかしい所を……」
と、脇で見ていたエッチは、
「エッチです。ウフフ、二人とも、まるでお見合いのようですね」
「……!? い、いやっ、そんなお見合いやなんて……絶対ありえへんしっ」
ぶるぶるっ、と激しく首を振るモエカ。
「……そうだよな。モエカだって、俺みたいな軽く見られてる男とお見合い扱いされたら、いやだよな……」
「いやっ、ちゃうねんっ! そういう意味ちゃうって! ウチみたいなのが、他の男の人となんて――っちゅう意味やねん!」
モエカは、俺に顔を近づけた。
珍しいことに、他人の目をしっかり見れている。さっきより明らかに見栄えがよくなっていて、ぶっちゃけカワイイ顔なので、ちょっとビビってしまった。
「そ、そうか……ありがとう。ところでモエカ、ちょっと鏡見に行こう」
モエカが「変身」したまま、三人で学校の廊下の鏡の前に行った。大きな鏡で、全身を見ることができる。
「う、うそっ……!? これがウチ!? うそ、ウソウソウソやん……っ!」
モエカは、自分のほっぺたを両手で抱えるようにした。自分の姿が信じられないらしい。
「ほら、これだけでもけっこう違うだろ」
「しっ師匠! ウチ、今までで一番可愛いと思う! ホンマおおきに!」
「!?」
モエカは、急に俺に抱きついた。カーディガンで強調された胸が俺に当たってしまい、ぎくっとする俺。
「でっ、でも! まだだ、まだやれることはあるんだ」
「えっホンマに? でも、何をやるん?」
「まずモエカ。あんたは、姿勢が悪い。背筋をしっかり伸ばして、胸を張って」
「……! は、はいっ」
「それから、表情がなんか暗いんだよな。もうちょっと、目を開けて、ほっぺた上げて、笑顔できないか?」
「え、えっ……!? なんや、恥ずかしいなあ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、告白できるかどうかの瀬戸際なんだぞっ。このまま、告白できなかったら、きっと一生後悔するんじゃないか?!」
「い、一生……!」
モエカは、胸の前できゅっと手を握った。
「わ、分かった……。こ、こう? こう!? こうやんな?!」
少々引きつりながらも、モエカはいい笑顔になる。
「うん、まぁいいんじゃないかな。じゃあ、次が最後だ。しゃべり方な、しゃべり方! モエカはなんかぼそぼそっとした感じで、何言ってるんだか分かんないし。もうちょっとハキハキしゃべろう!」
「は、はいいぃっ、師匠!」
「エッチです。アナタ、非常に腰の入った指導になってきましたね」
「あぁっ、モエカが自信をつけるためなんだ、俺はなんだってするよ!」
「し、師匠……!」
モエカは、感動したように両手を握り合わせた。
「よし、それじゃあ、今からモエカのことを撮影するから」
「……え?」
サーッ! と、モエカの顔が一気に青くなった。
「スマホで動画取りながら、簡単な質問をしていくからさ。それに、答えていってくれ。なるべく、ハキハキした明るいしゃべり方でな」
「え、ええぇぇぇぇ……! さすがに、それはちょっと」
「やらないのか?! なんだ……せっかく見た目は可愛くなったのになぁ。あーあ、もったいない……! これでしゃべり方まで可愛くなったら、もう最強だし、寄ってこない男なんていないんじゃないか? そしたら、モエカの好きな奴だって振り向いてくれるかもしれないのに。あーぁ、あーあっ……ざーんねん……!」
「やれやれ」と、俺は両手を上げた。
「うっ、うっ……!」
モエカは十秒くらい、うなっていた。やがて――
「やっ、やります、師匠! ウチ、絶対変わりたいねん!」
「よっしゃあ、その意気だ! じゃあ、動画まわすぞ。心の準備はいいか?」
「うぅ……お、オッケーやで!」
モエカは、引きつった笑顔を向ける。俺は、そこにスマホのカメラを向け、撮影を開始した。
ぴっ。
と録画開始音が鳴ると同時、モエカの肩が震える。少しかわいそうだが、これもモエカに自信をつけさせるためなんだ。わかってくれ!
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