09:「他の女のこととかぁ、考えてたらぶっコロすぞ♡」

 「先輩、誰もいなくなったな……」

 「あ、あぁ」

 人が来るかもしれないので、念のため俺たちは柱の影に隠れていた。

 「んじゃ、いつものやつしてくれよ。先輩……♡」

 「ド直球だな、お前」

 「なんだよー、先輩だって楽しみなくせに。早く、早くっ」

 「分かったよ……んぷっ」

 水着姿でムキ出しのイクミの肩に手を置き、俺は彼女にキスした。

 「はぷっ、ンにゅっ……♡ ふぁぁっ、せんぱぁい♡ むチュッ、にゅちゅちゅ……んんっ♡」

 「せ、積極的だな……!」

 「らってぇ、先輩とキスすんの嫌いじゃねーし? ンっ……にゅぷっ、にゅるるる♡」

 はぁっ、はぁっ……と、荒い息を吐きつつ、俺たちはくちびるを重ねていた。

 「接吻奉仕キスサービス」。

 キス魔な異星人・エッチに教えてもらった、聞いたこともないような技だ。

 といっても、別に特別なことをするわけじゃない。ただ、相手への愛情をこめてキスすればいいのだという。そうすると、キスした相手にエネルギーを送り込み、元気にする効果がある。こうして、相手へ奉仕したことになるって寸法だ。「ヒーリング」というものがあるけど、あれを口でするようなものだろうか?

 このイクミに接吻奉仕キスサービスを施すようになってから、おおよそ一ヶ月ほどは立っている。この後輩は、いわば俺とエッチの最初の「標的」……もとい、奉仕の相手だったのだ。

 「なんかさぁ、先輩とすると、体が軽くなるっつーか……はむっ、ン~~~~~っ……♡ れちゅぴちゅ、ぬちゅぬちゅぬちゅっ……ぷぁ♡ なんか、スッキリするしぃ、次の日の朝、早く起きれるんだよなぁ♡ ……ぁむ、ン、ずちゅズルりゅ♡ もっと、チューさせてやるよ♪」

 「そ、そうか、そいつは良かった……って、生意気言ってんじゃないぞ! んくっ、ん……!」

 イクミのこぶりなくちびるに、俺は吸い付いた。すると、彼女も同じように吸い付き返す。

 「はぁ、先輩ぃ……♡ くちゅくちゅくちゅ、チュククっ♡ ふぁっ♡」

 「んむっ……。なんか、まだシャワーも浴びてないから、お前カルキ臭いな……はぷっ、ぬるるっ」

 「じゅぷぅ、ぷちゅチュププ……はぁっ、ちゅっ、ちゅっ、ンちゅ~~~~~~っ……♡ 先輩が、ガマンできずにしてくるからだろ?」

 と、思いっきり弾んだ声で言うイクミ。

 「はいはい、そういうことにしとくよ。ぁむ、ん……!」

 「チュっ、ちゅっ……ン、れろれろれろ♡ もっとさー、くっついてしよーぜ♡」

 イクミは、俺の腰に腕を回してきた。体が密着気味になり、ぜいにくのないイクミのお腹や胸が当たりまくる。

 「お、お前スリムだな……」

 「んんっ!? 今、あたしのおっぱい小さいって言ったな!?」

 「言ってない」

 「言った!」

 「言ってない! 被害妄想はやめとけよ。みっともないぞ。はむっ……!」

 「ふぁ、んン……はぁっ、ちゅぷちゅぷチュパっ、ンにゅぅぅぅぅぅ……♡ なんだよぉ、せんぱいって、ちっちゃいおっぱいが好きっていう、ヘンタイ野郎かぁ? ン……にゅプぅっ、れろえろニチュチュっ、グちゅぅっ♡ あ~~~~~~~~っ……♡」

 くちびるをくっつけながら、イクミはたまらなそうにうなった。ぎゅぎゅっ! と、夢中になって俺に体をくっつけてくる。いつもの乱暴さがウソみたいに、やたらに甘えん坊に見えた。

 「ぁンっ♡ んぷっ、にるるるるるっ……♡ ふぁ、じゅるじゅる、じゅるンちゅぷっ……なんかさぁ、先輩とチューすると、頭がス~~~ってするんだよなぁ……ンむ、くちゅちゅ♡ 先輩のよだれって、なんかヤバい薬とかじゃねえよな?」

 「そんなわけないだろ。アレだよ、キスの効果……だよ」

 「ンふ~っ、ぷちゅっ……にゅるニチュニチュニチュぅ、ンむむっ……♡ そっかぁ、先輩ってすごくねえ? にちゅっ、はぁ、はぁっ……ぁはっアン……♡ ァ♡ せんぱい、せんぱいっ……はぁ~~っ、ンっ……ぴちゅぴちゅ、クチュクチュちゅっ……♡」

 「んんっ……!」

 俺は、唐突にくちびるを離した。とろぉ~……と、唾液が俺とイクミの口の間に橋をかけている。

 「っ!? おい、何急に離してんだよ、せんぱいぃっ!」

 「み、みんなも帰っただろうし、そろそろ行こうぜ。シャワーに」

 シャワー室は男女別だ。が、みんなが帰って人目がないのを良いことに、俺はイクミについて行って、女子側へとやって来た。

「おいお~い、なに女の方にノコノコ来てんだよ~。今見つかったら、先輩、停学じゃね?」

「うるさい。……内心、他のやつに見られたらどうしようってビビってるんだぞ、俺は」

「ぷっ、小心者じゃん。だいじょぶだいじょぶ、誰も来ねえっつーの! みんなとっくに帰ったよ。そんなことよりさ……早く、チューしようぜ? せんぱい……♡」

 イクミは俺にしなだれかかった。スイムキャップを脱ぐと、彼女の濡れた長い髪が、こっちにピトッと当たる。そして、大きな瞳でじ~っと見つめられた。

「普段はアレだけど……けっこう可愛いところもあるんだな、お前」

「っ……!? ひっ、ひとこと余計だばか! いいから、早くチューしろよーっ! ていうかもう、あたしがするからなっ!」

 イクミは少し背伸びをして、俺に勢いよくキスする。

「はむっ、ン……にゅるっ、にるにるニュルん……はぁっ、せんぱい♡ ンッ……プチュくちゅちゅ♡」

「んぷぷっ……! やたら積極的だな? ぁむ、む……っ!」

「ンじゅるリュっ、くちゅちゅゥ♡ だってさぁ、せんぱいとチューしたかったんだもん♡ な~んか、元気になれる気がするし♡ 今日だって、ずっとさぁ……ンにゅにゅっ、ぷちゅっ……ガマンしてたんだからぁっ♡ はプっ、ぁむっ、れろれろれろれろ……ふぁっ♡」

 普段はムカつくイクミの顔が、今はやたらに可愛らしい。

 接吻奉仕キスサービスは、相手に精神的・肉体的エネルギーを提供する効果があるのだという。イクミが積極的なのは、そんな良い効果を、無意識に感じ取ってのことかもしれない。

 ……単に、ほかに相手にしてくれるやつが少なくて、寂しいだけかもだけど。

「はぁ、はぁっ……ぴちゅぴちゅ、んちゅ、ぺろぺろぺろ……♡ ン……♡ せんぱぁい、っ、何キメェ笑い方してんだよぉ♡ 超美人のあたしとチューしてるくせにさぁっ……ンむっ、べろべろぉっ……ふぁ~~~っ……他の女のこととかぁ、考えてたらぶっコロすぞ♡」

「っ……!? 考えてねぇよ。そ、そうだ。一応シャワーは浴びたほうがいいよな。ほら」

 コックをひねる。俺とイクミに、心地よい温度の水がそそいだ。

「ん、そだな。んじゃー、水着脱ごっと」

 おもむろに、イクミはぴちぴちした競泳水着を脱ぎ出す。すべすべの白い肌が露わになり、俺は耐えきれずそっぽを向いてしまった。

「あれ? どこ向いてんの先輩? チューしてくんねーの?」

「いや……女の子が着替えてるとこなんて、見れないだろ」

「ぷっ、そんなんでビビってんの? もうチューまでしてんだし、関係なくね? それにさぁ、あたしシャワー浴びるから脱いでるだけなのによー? いったいなに想像してんの? 妄想と現実の区別くらいつけよーぜー。ったく、先輩ってガキだなぁ」

 いやらしい笑みを浮かべるイクミ。くそっ、言ったな!

「じゃ、じゃあ、俺も脱ぐわ! パンツの中が気持ち悪いしな! シャワー浴びるだけなんだから、気にしないよなっ!?」

 と、水泳パンツに手をかける。

 「きゃぁっ!?」

 と、黄色い悲鳴をあげて、イクミは後ずさった。肩が、思い切り上がっていた。ビビりすぎだ。

 「おい! 人を煽っておいて、そっちのほうがよっぽどガキじゃないか」

 「だ、だって……そそそそそんなとこ見たことねぇし!」

 「わかったよ、しょうがないな……俺は着たままでいてやるから、こっち来い」

 「あ……っ♡」

 水着を脱いで、裸になったイクミを抱きしめる。イクミって、こうして抱きしめたらけっこう小柄だな。細くて、肩が折れちゃいそうだ。

 「ふはは、あはははっ……! く、くすぐってーよ、ケツとか触ってんじゃねーよっせんぱいっ♡」

 「触ったんじゃない! 偶然、指先が当たっただけなんだっ」

 「……ん? あれ、先輩なんで目つぶってんの?」

 「やばいところが目に入るとまずいからだよ。……お前素っ裸だろ」

 「ぷーっ……! あのさー、そんなんでどうやってキスするわけ? やっぱドーテー的思考だよなー、マジうけるー!」

 「う、うるせー! んんっ、ぷ……っ!」

 「んン!? やァっ……♡ んっ、ン♡ ちゅっ、チュゥゥ~~っ……♡」

 薄目になって、キスをする。イクミのくちびるは、なめらかな味がした。

 「んっ、いくみ、イクミ……!」

 「ふはぁっ……♡ じゅるじゅるじゅるじゅるっ、ニュルるるるるっ……あン……♡ んくちゅっ、クチュずるりゅ♡ ふぁっ……せんぱい、せんぱぁい……♡」

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