04:「私のなかぁっ、もっとかき回してくださいぃっ……❤」

 「ンぁ、ふぁぁっ……やァん……❤ あなたっ、アナタぁっ♡」

 「う、うぅ……!」

 もだえるエッチのクチの中に、それでも歯ブラシを突き立てる。

 ごしごしっ、ぐちゅぐちゅ。ごしごしっ、ぐちゅぐちゅ。 

 「いや、あ、ぁァ~~~~~っ……すっごォい~~~~っ❤ 私のおクチのなかぁっ、もっとかき回してくださいぃっ……♡」

 エッチは、天にも昇りそうな悲鳴を上げる。

 「んァ、しゅごっ、しゅごぃのぉ♡ ぁぁっ、あンっ、アナタぁ……♡」

 さらには、はぐきと歯のスキマに、ブラシを滑り込ませていく。

 あぁ……ほんとに大丈夫かな?

 にぢゅっ、にぢゅっ。にちゅっ、にちゅっ。ぐちゅ、ぐちゅ。

 「ひぃ、ぃぃっ……♡ はぁ~~~っ……んぁぁ……っ! ンくぅ、はぁ、ァんっ……♡ らめぇ、らぇなのぉっ♡ やぁ、んァっ……ふあぁぁぁ~~~~~ンっ……❤」

 「よし、あと少し、あとほんの2、3センチですよ! がんばってください!」

 「はっ、はひぃっ……はいぃっ……♡ ね、ねぇ、アナタ、アナタぁ……っ♡」

 「な、なんですか? さすがに、これ以上力を弱くするのは――」

 「ち、ちがいますぅ……っ♡ アナタ、愛してますぅ、愛してますよぅ……♡」

 トロットロのタレ目を俺に向けて、エッチはささやき声で言った。

 「う、嬉しいけどっ、でもなんで今そんなこと言ったんです!?」

 ぐちゅぐちゅっ、ぐちゅぐちゅっ、じゅくじゅくじゅくっ。

 「ンぁっ……あぁぁァ……♡ らめっ、らめぇ、アナタぁ、ふぁぁぁぁァ~~~~~っ❤ んぐ、くはっ……やっ……♡ いやぁぁ……っ♡ ンく、くぁっ、ぁァ~~~~~~~~~ッ……❤」

 「……よしっ! 終わった! 終わりましたよエッチ!」

 余計な刺激を与えないよう、歯ブラシをそぉっ……と引き出す。

 その時、エッチは歯ブラシを、逆に口の中に押し込んだ。

 「いやァんっ♡ そんな、中途半端なところで止めちゃらめれすぅぅぅぅぅ~~~~~っ❤」

 「えええええっ! ちょっ、何やってるんですか!?」

 舌の裏側――口の中でも、かなりやわらかそうなところへ、ぐにゅぅぅぅぅっ! と、歯ブラシがめりこんでしまう。

 「ひゃぁぁぁぁ~~~~~~ンっ❤ ふぁぁぁっ、ああァァっン、あっ、あなたァっ、アナタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~ッ❤」

 エッチは、ビクビクぅっ! と震えて、俺に抱きついた。シスター服ごしなのに、めちゃくちゃ体が熱いのが分かる……。

 「ちょ、ちょっとエッチ!? なんで自分から……っ!?」

 「ふぁっ、ァ……ぁぁっ、ン……えっち、れすぅ……♡ はぁ……はぁーっ……♡ だって、だってぇ……んン♡ 貴方の歯磨き優しすぎてぇ……んくっ、ふぁぁっ……ガマンできなくなってしまいましたぁ……♡」

 「そ、そうですか」

 俺に体を押し付け、熱い吐息を吐き出しているエッチ。

 敏感にもほどがある! でもこんな色っぽい彼女と、あんまり会話したくないな。ちょっと気持ち悪いし……。

 「あ、あの……。きっ、近所迷惑かもしれないんで。朝から盛り上がり過ぎるのは、なるべく止してくださいね」

 「エッチれすぅっ……分かりましたぁ、アナタ♡ 貴方の手つきとっても優しくてェっ、すごぉ~~~くっ、愛情感じてしまってぇっ……うふふふっ、はぁァ……っ♡ ついつぃ、気持ちがぁ……はぁっ……高ぶってしまったんですぅ……キャッ♡」

 エッチは、俺に頬をこすりつける。そして、

 「エッチです。常に奉仕を心がけている優しい貴方を、私は愛していますよ。ンちゅっ♡」

 「っ!?」

 しまいには、頬にキスしてきた。

 やわらかいキスの魔力に有頂天になる……けど、こんな刺激の強い生活、いったいいつまで耐えられるんだろう? ルンルンと食卓の席に着くエッチを尻目に、俺は頭を抱えた。

 

 「……今日は、遅刻確定ですね」

 「誰かさんのせいで」、と、俺は声にせず付け加える。

 とうに、掛け時計は8時を指してしまっている。とくに急がず、落ち着いて食卓の椅子を引いた。

 「まぁ、もう焦ってもしょうがないので、ゆっくり飯食いますか」

 ふたりで「いただきます」と言う。

 朝食の皿には、食パン、ウインナー、バナナ、目玉焼きが乗っている。エッチの皿には、種類は同じで、分量だけ二倍(!)にしたものが乗っかっていた。トーストした食パンを手に取り、もぐもぐやりはじめる。

 「エッチです。私のせいで、申し訳ありません。この三次密度サードデンスィティーは、非常に感覚が濃厚なもので……私のような四次密度フォースデンスィティー存在にとって、この世界は、すさまじい刺激の洪水なのです」

 「いや、謝らないでください。エッチのことを、宇宙なんて超遠くから呼び出したのは、俺なんですから。まぁ……現地に着いて、うまくいかないことだってあるでしょう? 俺だって、修学旅行ん時迷子になって、涙目になったことありますからね。はははっ」

 それにしたって、できればもうちょい加減して欲しいけど……。という本音を隠しつつ、俺は苦笑いした。

 「エッチです。優しいお言葉、痛み入ります」

 「ところで、エッチ。ええっと……『なんたら密度』って、なんでしたっけ? なんか、言葉が混乱しちゃって。耳慣れない言葉なもんですから」

 「エッチです。三次密度サードデンスィティーとは、貴方がた人類が体験している物質世界――すなわち、自我と社会性の世界のことです。他方、四次密度フォースデンスィティーとは、私たちが住む非物質的世界であり、愛と共感をつかさどる世界のことです」

 「あぁ、そんなことも言ってたっけ」

 人類よりひとつ上のステージから、わざわざやってきた異星人。と思うと、目の前でがつがつパン食ってるシスター服の少女が、急に神々しく見えた。

 見てたら、目が合う。するとエッチは、ニッコリ微笑んだ。

 「私はエッチです。私たちは、天体同盟スフィア・アライアンスに属する、四次密度フォースデンスィティー類魂グループソウルです。私たちが、貴方がた人類に伝えたいことは、ひとつです。それは創造主クリエイターの無限の愛、すなわち万物に対する愛ユニバーサルラブです。貴方は……平均的な地球人に比べ、愛のなんたるかについて、見識が深いようですね」

 「えぇ、そりゃもう……」

 朝から異星人にキスで起こされたり、歯磨きしてあげたりしてれば、そりゃそうなるよ。

 「エッチです。ごちそうさまでした」

 「早っ!?」

 エッチのお皿は、すでに空になっていた。

 「俺の二倍の量があったのに……相変わらず早いっすね」

 「エッチです。私たちは三次密度サードデンスィティーに顕現するため、物理的肉体を活性化しています。通常の人間より大量のエネルギーを消費しますが、ご了承ください」

 「あの……昨日、サバ缶の賞味期限切れそうだったんだけど……食べる?」

 「エッチです。貴方の奉仕に、感謝します♪」

 エッチは顔を傾けて笑った。かわいい顔して、俺よりも多い量をペロッと食べてしまうようだ。まあ、食事くらいいいけどさ……。

 俺は、缶詰をエッチに渡す。

 と、エッチは、食欲に焦りすぎたらしい。手をすべらせてしまった。

 「きゃぁぁっ!?」

 「ちょっと、エッチ……!? 手切った?!」

 「エッチです、あ、指が、指がっ……!」

 指をかばって、アワアワ目を回しているエッチ。見れば、指先に赤いものがぷっくりと膨れ上がっていた。

 「……ほっ。大した出血じゃないな。とりあえず、指貸してください」

 「エッチですぅ、あぁっ……ど、どうやって取ればよいのですかっ!?」

 「指は取れないですよ! ほら、こっちに。んぐぐ」

 「あっ……♡」

 俺はエッチの指先を口にふくんだ。むぐむぐ、と唾液を塗りつけて消毒する。

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