ギルティ・アビリティ
皐月 遊
プロローグ 「崩れる日常」
何もない日常。 平和な日常。 退屈だと思うけど、退屈だからこそ安心出来る、そんな普通の日常。
ーーだがそれは、何か”異常な事態”が起きた時、突然崩れ去る。
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「なぁ
ここは何処にでもあるような普通の喫茶店、そこで飲んでいたコーヒーをテーブルに置きながら、目の前にいる男…
「そんな簡単に作れるんだったら、とっくに僕達はリア充ライフを満喫してるよ。 カイ」
ブラックコーヒーを飲んでいるカイとは違い、僕…
ちなみに”カイ”と言うのはアダ名だ。
「そうだけどさ! 悔しくないのか⁉︎ 先輩や後輩、そして最近まで普通に話してた友達まで彼女作ってんだぞ⁉︎」
「知らないよ、僕が学校で話す人ってカイしか居ないし。 友達に彼女が出来たんなら祝ってあげればいいじゃないか」
「祝ったさ! 俺の家でパーティ開いて祝ってやったよ! だけどな、そいつ彼女と一緒に来やがったんだぞ⁉︎ なんだ⁉︎ 自慢か⁉︎」
カイは涙を流しながら言った。
そしてテーブルをバンバン叩きながら言うもんだから周りのお客さんも店員さんもこっちを見ている。
めちゃくちゃ恥ずかしい…
「うわっ……」
「うわっ……ってなるよな⁉︎ だからこうしてお前に愚痴ってんだ」
「なんで僕なのさ…」
「長い付き合いだろ? 愚痴ぐらい聞いてくれよ〜」
確かにカイとは長い付き合いだ。
僕が小学2年生の時に
それからなんだかんだ高校2年生まで一緒に居る。
ちなみにここ、空海市は東京程ではないがそこそこの都会だ。
「はぁ…で? 言いたいのは愚痴だけ?」
「な訳ないだろ。 愚痴はおまけだ」
「おまけ?」
「そう。 今日お前を誘ったのは……ある作戦を実行するためだ」
「嫌な予感しかしないけど、一応聞こうか」
カイはコーヒーを飲み干し、真顔で言った。
「明日、駅前で女の子をナンパするぞ」
「………………は?」
きっと今の僕の表情は面白い事になっているだろう。
ナンパ? ナンパとはアレか、男が女に話しかけるというアレか。
………何を考えてるんだカイは……
「カイ、それ本気で言ってる?」
「な、なんだよ! 本気に決まってんだろ! 明日俺達はリア充になるんだよ!」
「僕が人と話すのが苦手なのを知ってて言ってるの?」
「うぐっ……な、ならせめて一緒に来てくれ! 流石に1人は…」
カイが頭を下げる。 なんだ、そこまでして彼女が欲しいのか。
まぁ、明日は土曜日、予定は無いから断る理由は無いか。
「…分かったよ。 一緒に行けばいいんだろ? 言っとくけど、僕はナンパはしないからな」
僕がそう言った途端、カイが顔を上げた。
その顔は満面の笑みだ。
「本当か! ありがとう我が親友ー‼︎」
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そして次の日の土曜日、僕とカイは駅前に来ていた。
空海駅の前には大きな時計台があり、そこはよく待ち合わせの場所として使われているらしい。
僕とカイは今その時計台の前にいる。
「よし…やるぞ……頑張れ俺」
「本当にやるの? 不安なら予定変更してゲーセンでも行かない?」
「ふざけんな! 今日俺はリア充になるんだ。 ……狙うのは他校の女子だな」
あ、同じ高校の奴だと噂になるから他校の女子にしたなカイの奴。
カイは決意したのか、僕から離れて人混みの中へと入って行った。
カイとはぐれた僕はやる事も無いので近くにあったベンチに座ってココアを飲んでいた。
そしてカイと逸れてから5分……10分……15分と経ち、僕は時計を見るのをやめた。
「はぁ…カイの奴、意外と粘るな、30分くらいで諦めると思ったのに、もう1時間だ」
駅前にある時計を見るともう午後の2時を過ぎていた、カイからの連絡はないのでまだナンパの途中なんだろう。
「はぁ…退屈だなぁ…」
「……あの…」
突然、横から声を掛けられた。 声からして女性の声だ。
「はい?」
どうせ道を教えてくれ〜とかだろう、さっさと済ませてカイにもう諦めろって電話しよう。
「退屈なら…私とお話しませんか?」
「…………へ?」
「あ、私サラっていいます」
「…………え?」
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「え、雷斗さんって空海第一高校に通ってるんですか! 私そこの卒業者ですよ! 」
「そ、そうなんですか…」
「はい! 偶然ですね! 今雷斗さんは二年生って事は…今私は大学一年生なので、2歳差ですね」
「そ、そうですね」
な、なんだこれは。 なんでいきなり話しかけられたんだ?
しかもこのサラって人、凄い美人だ。 長い黒髪が良く似合っていて……なんでこんな人が僕に…?
ま、まさか……! モテ期って奴か⁉︎
「ソワソワしてますけど、どうかしましたか?」
サラさんは首を傾げながら言った。
「い、いえ! なんでもないです!」
「そうですか? あ、雷斗さんってこれから時間あります?」
「え? なんでですか?」
「えっと…もっと雷斗さんとお話したくて…一緒にお散歩したいなと思いまして…」
ぼ、僕と話したい…⁉︎ これは本当にモテ期到来って感じか⁉︎
………でも僕はカイを待ってる身だしな…うーむ、どうするか…
「だ、ダメですか…?」
「っ!」
よし、行こう。
だってそんな言い方されたら断れないし…
何より僕はカイに1時間も待たされている、このまま待つよりは良いだろう。
「分かりました、行きましょうか」
「…! 本当ですか⁉︎」
悪いなカイ、僕は先に行くよ。
………一応カイに散歩して来るってメールしとくか。
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サラさんとの散歩はとても楽しい物だった。
喫茶店で話をして、本屋で本を買い、ゲーセンで遊び……
あれ? これデートじゃないか?
カイはまだ粘っているらしく、『まだまだ俺は諦めないぞ! 暇だろうけど帰らないでくれよ!』とメールが来た。
「もう5時ですか、随分遊びましたねー」
「そ、そうですね」
今僕達はたまたま近くにあった公園に入り、話しながら歩いている。
っていうか、こんな公園あったんだな。 ここら辺は来た事ないから知らなかった。
「あの…最後に1つ良いですか?」
サヤさんが振り返り、モジモジしだす。
「はい? 」
「この公園、遊具も花も何もないでしょう? 」
「そうですね」
「でも木に囲まれていて、外からは全然見えないんです」
「そ、そうですね」
確かに、公園と言う割には滑り台もブランコもない、しかも周りには囲むように木に囲まれている。
そのせいか不気味な雰囲気だ。
なんだ? サラさんは何が言いたいんだ?
「雷斗さんとのお散歩、とても楽しかったです」
「ぼ、僕も、サラさんと一緒で、楽しかったです!」
この会話……これは流石に僕でも分かる、これは俗に言う”良い雰囲気”って奴だ。
こ、告白したらサラさんOKしてくれるだろうか……
「だから…私が言いたい事は……」
いや、迷うな僕。 サラさんが僕に言いたい事を言ったら、告白しよう。
よし、決めたぞ。
サラさんは下げていた顔をゆっくりと上げ……
「これからも、私を楽しませてくださいね?」
ニコリ。 と微笑んだ。
「っ!」
な、なんだ? 今の笑顔は、さっきまで見てた笑顔とは決定的に何かが違う。
だって……さっきまでと一緒なら、サラさんの笑顔を”怖い”と思うわけがない。
「さ、サラさん…?」
「雷斗さん、貴方の恐怖に歪んだ顔は、どんな顔なのかしら。 私、すごーく楽しみ」
サラさんが笑顔でゆっくりと僕に近づき、僕の右肩に手を置く。
な、なんだ? 足が動かない…?
「サラ…さん?」
「なーんだ、追いかけっこも楽しみにしてたのに、足がすくんで動けないのね。 つまらないわ」
つまらない。 彼女がそう言った瞬間、急に僕の身体が痺れ出した。
「があああっ…!」
耐えられなくなり、そのまま地面に倒れこむ。
口の中に砂が入って嫌な感じだ。
……今…何が起きた? なんで身体が痺れて…
「驚いた? 驚くわよね? 」
サラさんは心底楽しそうに微笑みながら両手を開いたり閉じたりしていた。
見た所スタンガンなどは持っていない。 なら何故僕は痺れているんだ?
………怖い。 何が起こってるのか分からない。
「もっと私に、苦しそうな表情を見せてね」
「があああああああああああっ‼︎‼︎」
サラさんが倒れ込んで動けない僕の背中の上に手を置いた途端、また先程の…いや、それ以上の威力の電流が僕の身体を流れた。
怖い、嫌だ、苦しい。
「あら、いい悲鳴。 もっと叫んで、もっと苦しんで! もっともっと‼︎」
「ぐっ…! ああああッッ‼︎ 」
息が……出来ない…苦しい……
なんで…なんで僕がこんな目に…
「苦しみながら聞きなさい」
サラさんが電流を流しながら、話しかけて来た。
こんな状況で何を…?
「なぜ何も持ってない私が貴方を痺れさせる事が出来たのか、教えてあげましょう」
徐々に意識が薄れて行ったが、彼女が最後に言った言葉は、はっきりと聞こえた。
「それはね、私が能力者だからよ」
そして、僕は意識を失った。
何もない日常。 平和な日常。 退屈だと思うけど、退屈だからこそ安心出来る、そんな普通の日常。
ーーだがそれは、何か”異常な事態”が起きた時、突然崩れ去る。
そしてこの空海市には、ある噂がある。
それは……
ーー死んだはずの人間が生き返り、超能力者となる。
と言うものだ。
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サラ視点
「さて…この子はどうかしら」
完全に黒神雷斗の息の根を止めた後、私は彼の死体をジーッと見つめていた。
ざっと30秒くらいだろうか、それぐらい見ても彼は動かなかった。
「はぁ…彼も”ハズレ”か。 まぁそうよね、死んだ人間全員が生き返る訳ないし、私の運が良かっただけよね」
私は彼の死体を見下し、一言呟いた。
「私を楽しませてくれない人には、興味が無いわ」
そして私は彼の死体を処理するでもなく、公園から出る為に歩き出した。
また次のターゲットを探さなければ、組織の為に、能力者を集めなければ。
「あーあ、でもやっぱり人の死に様を見るのって、快感だわ♪」
その時私は彼に背を向けていた為気づかなかった。
完全に死んだはずの彼の指が、ピクリ…と動いた事に……
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