鈍感少年 side昴



オレの名前は白河昴しらかわすばる

それなりの容姿と頭脳を持って生まれたオレは女の子に困ったことはない。



「白河くんおはよう〜」

「おはよう!白河くん!」

「みんな、おはよう」



そう言って笑顔を向けてくる女の子達にとびきりのスマイルで返す。



「これ作ってきたから食べて?」



そう言って差し出されたのは手作りと思われるクッキー。



「へ〜、すごいね。ありがと♡」

「えへへ、でしょ〜?あ!おはよう藤永くん!良かったら食べて」

「おはよっ、藤永!」

「おはよう〜」



そう言われているのはオレの幼馴染で親友の藤永玲。この男は超が付くほどに硬派で鈍感だ。



「ああ、おはよう」



せっかくのお菓子も受け取らず、女の子の方も見ずに挨拶を返して自分の席に向かう藤永。



「今日もクールでかっこいい〜」

「本当だよね!」

「次こそ貰ってもらおう〜」



女の子達もめげないなぁ、と思いながらオレはその子達に手を振ってから藤永の後を追う。



「お、玲に昴。おはよう」

「おはよう。かける

「おはよ」



教室に入って席に着けば、前にいるのは天野翔あまのかける

席が近くなったことで仲良くなったが彼には可愛い彼女がいる。



「翔っ…」

「お、しずく。どうした?」



教室の前から噂の彼女がやってきて、翔はそのまま教室を出て行った。



(グッドタイミングか…)



そう思ったオレは体ごと藤永の方に向き直った。



「藤永はさ、詩春ちゃんのこと好きなの?」



まどろっこしいことが嫌いなオレは直球で聞いてみる。



「は?」



返ってくる言葉は予想通りだけど…。

何というか面倒なんだよなぁ。



「いや、珍しいじゃん?女の子に自分から話したりするの」



その言葉を受けてか、少し悩んだ様子をしてからオレを見つめてくる藤永。



「……好きってなんだ?」



まさかの答えに、



「は?」



オレの口から出たのは先程の藤永と同じ言葉。



「好きって…どんな感じかわからないから何とも言えない」



あー、そうだった。藤永ってこういう男だったよな、と思って記憶にある藤永への告白劇を思い出す。



————————————……



『私、藤永先輩が好きなんです!』

『ごめん。好きってよくわからない』



後輩の子からの告白もあっけなく振って女の子は泣いていた。



『藤永!付き合ってほしいの!』

『え…と。付き合うってどういうこと?』



同級生の子からの告白にも疑問で返して女の子は呆れていた。



『藤永くん!チョコ受け取って!』

『いや、あの。…ごめんなさい』



先輩からの告白には理由も言わなかったことから女の子は怒っていた。



————————————……



その度に藤永が言っていたのは



『女の子って難しくてわからない』



という台詞。

オレからしたら藤永の方がわからなすぎるけど、告白だけならまだしも藤永が好きすぎて怖い行動に走った子達もいたからそうなっても仕方ないか…と納得する。


そんなことを考えていると藤永が言葉を続けた。



「でも…」

「んー?」

「—…特別だと思ってる」



藤永からの予想不可能の言葉に驚きを隠せなかったオレは目を丸くしたままフリーズしてしまった。



「何だよ、その顔」

「いや、青春だなと思って…」

「意味わかんねぇよ」

「何でこんなに鈍感なんだろうね?」



オレがそう言いながら皺の寄った眉間を突くと、バシッと腕を叩かれた。



「とにかく、水瀬さんに変に絡んだりするなよ」

「えー、やきもち?」

「勝手に言ってろ」



こんなやり取りから始まるオレの日常に、何だか面白い展開が訪れそうな予感がする。


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