ジャスティス&スカーレット

貴金属

【ありとあらゆるもののプロローグ】


                 ◇


 ありとあらゆるものが形を失っていた。

 街に立ち並ぶビルの群れも、遠く郊外に伸びる山の端も、飛ぶ鳥も走る車も人々も、全て、陽炎であるかのように輪郭を無くしていた。

 光景の全てが融解し、風景の全てが溶解し、世界と言うキャンパスから色と言う色が落ちていた。形と言う形が崩れていた。理解出来るもの全てが理解出来ないものへと変貌していた。


 世界の全てが、幻に変わっていくようだった。


 どろどろに消えていく世界の中で、一つだけ確かなものがあった。

 自分の腕。自分の足。自分の体。終焉に抗う力も持たない弱々しいそれの存在に、世界に対して何も出来ない自分の存在に、悲しんで、怒りを覚えて、そして嘆いた。

 実在の根源たる存在率を失い崩壊して行く世界、彩色の滲んで行く眼前は、そのまま個人の無力の証明だった。抗う力がこの手の中にあったなら、自らの存在質量が、世界全てに匹敵していたのなら何かを変える事が出来たかも知れないのに、そんな力を持たない自分が嫌だった。ステージにあがることすら出来なかった自分を許せなかった。

 だから叫んだ。何の意味も無く、何にも影響を与えられず、そしてそれを解っていても、吐き出さずにはいられなかった。この慟哭よ何時の日か、意味を為してくれと願うように。


 叫びが誰かの耳に届くよりも、それを上回る早さで世界が溶ける。

 知っていた世界は何時の間にか全部、融けて流れて消えてしまった。

 眼下にあった大地も消えた。見上げていた空さえも消えた。

 何もかもが消え去ってしまった視界の中、墜落して行く感覚の中、

 無数の星がちりばめられた、幻想の宇宙が最後に見えた。


                 ◇


 さて、それでは物語を始めよう。


                 ◇


 都市を照らす朝日の色は、世界が変わろうと同じ暁色だ。

 午前七時二十五分。目覚めた街は動きだし、騒々しい人の波が溢れ出す。

 大通りを行き交う人、人、人。交わる事無い一人一人がすれ違い、各々の道へ歩いて行く。

 導きを受けるように交差する人の波々の中で、そこから外れた姿があった。

 少女だ。新品であろう学生服を身に着けて、肩辺りまでポニーテールを流している。

 駅口へ向かう南向きの列にも交わらず、しかしビル街中心部へ向かう北向きの列にも流されず、人の群れから離れた場所にぽつりと一人突っ立っていた。


「……迷った」


 状況を端的に表す一語を漏らし、彼女はポケットに手を差し込む。

 取り出されたのは一枚の紙切れ。地図と呼ばれる類のものだ。

 ただしその紙面は無茶苦茶だ。フリーハンドで書かれた線。判読すらも難しい文字。分岐を書かず一本道のルート案内。極めつけには裏面入り口とかボーナスエリアとか、電脳世界と間違えているんじゃないかと言うようなステージマップだった。


 ……この地図で、目的地の名前も解らず進もうとした私は馬鹿か。


 苛立ちを覚えるのも一瞬。溜息と一緒に放出し、それでもまだ残留していたので地図と呼べない紙切れを両手の指で八つ裂きにする。文字判別も出来なくなったそれを地面に叩き付け、足裏で踏みにじった辺りでようやく晴れた。

 前途多難だ。変わってしまったこの世界に一人放り出され、心細さを覚える暇もない内に自立を迫られ、やっと慣れて来たと思った矢先に常人には解決不能なトラブルに遭遇する。困ったらここに行きなさいと渡された地図はあの体たらくだし、これでは彼女の言う「助けてくれるであろう人達」も一体どれだけの役に立つ事やら。


「やっぱり、頼れるのは自分だけってことか……」


 呟く。だがその自分がどれだけこの世界で頼れるかなど、自問するまでもなく解っていた。

 とにかくも、まずはまともな地図を手に入れよう。

 そう決めて、気分を切り替えに頬を叩いた。

 周囲、街の風景を見回す。

 対面のビルに設置されたモニターは、今日の天候予定を流している。

 眼前の道路では地下道から車がひっきりなしに出入りしている。

 人の群れは途切れずに南北へと交差して流れていく。

 普段通りの風景だ。

 彼女が知るものと同一ではなく、しかし多くの人にとっての日常ルーチン。


 その中に、彼女は目的のものを発見する。

 三〇センチ四方のモニターディスプレイだ。右手、北側の方向に二〇メートル程。バスの停留所に備え付けられて浮かぶ情報窓インフォメーションは、観光用の地図を映している。

 早足で駆け寄る。

 半実体のビジュアルデバイスに映し出された地図には、赤いラインが記されていた。

 丁寧にも、彼女の望む目的地までの道筋がそこにはある。

 最新技術でつくられたそれは、少女の思考を読み取るぐらいは容易く成すのだ。

 少女は目的地の名前を見る。


星輝市せいきし・風紀治安部・第九十六支部』


 ……随分と世界、変わっちゃったなぁ。

 まだ十五歳になったばかりのはずなのに、老人のような事をふと思う。

 自分の知っている世界では、観光用の地図はこんなにハイテクではなかった筈だ。立体映像と呼ばれていたものは空中に実体を持って浮かびはしなかったし、モニターディスプレイだって魔女の水晶のように思っている事を映し出しもしなかった。


 いや、情報窓だけではない。

 街を見渡せば、そこかしこに、まるで間違い探しの答えのように変化の証が溢れている。

 都市の地下道を走る車は、音速を超えたスピードを叩き出す。

 空の上にある気象衛星は天候の支配を成し遂げて、天気予報を予言に変えた。

 街を歩く人の顔からはニキビや染みは根絶され、外見は年齢を計る尺度では無くなった。


 誰かが望んだ近未来。

 幻想が現実となった理想郷。

 日常に満ちる細かい違いに、どうにも居心地が悪くなって。

 街を歩く人々は自分の悩みなど気にかけずに流れていき、この身が異邦人であることを否が応でも思い知らされる。

 襲いかかってくる孤独感。

 誰とも共有できない孤愁感。

 倒れそうになるような孤立感。

 それら全てを振り払おうと、最初の一歩を踏み出して、


「――え、」


 そして彼女はそれを見た。

 路面を割って現れた、鋼の巨体の群れ達を。


                 ◇ 


「なに、これ……ロボ?」

 全長およそ十メートル。黒地に白のラインが入ったそれは、人型をした二足歩行機械。

 張りぼてでは無い。実像として地を砕き、両腕を広げ天へと駆動音の雄叫びを上げている。

 そして一体だけでも無かった。

 爆砕の音を立てながら、路面の亀裂が広がって行く。

 五メートル程の機体が連続して地上へ這い出して、朝日の下に巨体を晒す。

 平べったい体に六本の肢。一対のハサミと触覚のように突き出した二本の砲台。

 装甲に覆われたその姿は、太古に生きた甲殻類をイメージさせた。


 大地の震えが伝わってくる。大気の震えが伝わってくる。

 それと裏腹に、走り出す人々の興奮は、全く心に伝わってこなくて。

 気付けば一人、取り残されていた。


 ……何が起きてる? どうすればいい?

 少女の問いに、答える誰かは既にいない。

 戸惑う彼女に追い討ちをかけるように、次なる異変が顕現した。


「空が――」


 彷徨わせた視線の先、晴天の空が、急速に色を失っていた。

 朝日と青は消え去って、暗く、昏く、宵闇の色に染まっていく、

 光を失って視界が闇に閉ざされるという訳ではない。

 視界に映る景色は明瞭なまま、ただ空の色だけが黒く塗り替えられていく。

 日常の朝の残滓は拭い去られ、不気味な空気だけが空間を満たす。

 まるで世界から切り離されたようだと、自然に少女はそう感じた。

 先程まで聞こえていた雑踏の声はない。

 先程まで聞こえていた車の音もしない。

 機械の駆動音。建物を壊す砲撃音。耳に届くのは暴力的な響きだけ。


 いや、違う。一つだけ暴力の無い音が残っている。

 それは子供の泣き声だ。

 暴力的ではないけれど、それでも心の芯に突き刺さってくる強い音だ。

 視線を向ける。

 十メートル程離れた場所に、一人うずくまる姿があった。

 転がる黒のランドセル。少年の姿を彼女は見た。

 年齢は自分の半分程。足を抱えているのはくじいた為か。


「、――」


 思わず駆け寄りたくなる足を、怯えの力が引き止めた。

 視線を逸らす。目を閉じる。震える体を小さく縮め、両腕でもって押さえつける。

 生き延びたいなら隠れていろ。生き延びたいなら無視をしていろ。

 見つかったのなら殺される。迂闊な真似など愚の骨頂。死にたくないなら見捨ててしまえ。

 正論を脳裏で繰り返して、弱者の論理で自己武装して、少女はビルの影へと身を隠す。


「は、……はぁ、……はぁ……」


 逸る鼓動を抑えつつ、少女は耳をそばだてる。

 相変わらず聞こえてくるのは機械の立てる破砕音。

 相変わらず聞こえてくるのは子供のあげる嗚咽音。


「見捨てたんじゃない見捨てたんじゃない見捨てたんじゃない……」


 自分に言い聞かせるようなそれが、隠しようもない震えに満ちて口をついた。

 だって自分に何が出来た。この世界のことも良く解っていない、ただの十五歳の小娘に。

 いやそもそも、あの子に助けが必要だったというのも怪しいじゃないか。

 あの子が足をくじいたように見えたのも気のせいだ。

 きっとすぐに立ち上がって泣きじゃくりながら走って逃げて行く筈だ。

 希望的観測を確かめようと、彼女はおそるおそる、ビルの角から顔を出した。


 少年は、一歩も動いていなかった。


 罪悪感。絶望。それらで暗転しかけた視界の端、駆動音を立てて機械が動く。 

 機械で出来た甲殻類が、生やした触覚を少年の方へ向けていた。

 間違いようも無い。砲撃の用意だ。

 標的は既に定まっている。数秒もせずに放たれるだろう。

 走れば手が届く位置だ。走ればつかみあげられる距離だ。

 走れば助ける事ができるのだ。

 だから、


「――――っ!」


 思わずその場から駆け出して、少年の矮躯を押し倒していた。

 ふぇ、と言う幼い声が耳に届く、擦りむいた己の右足に痛痒を感じる。

 それら全てを吹き飛ばす砲撃が来る一瞬後を、無我の状態で待ち構えて、


「――え?」

 しかし、その瞬間はこなかった。


 代わりに響いた爆発音。

 それは、甲殻機械の断末魔だった。


                 ◇


 朦朧とした意識の中で、少女は眼前の背中を意識する。


 ――紅。


 まず認識出来たのはその色だった。爆風に靡かせるショートカットヘアの深紅色。

 その持ち主は女性だった。外見だけで見るならば、自分より二つか三つ程上に見える少女。

 異常なまでの軽装だった。両手は何も握っておらず、服装は緑色のシンプルなカットソーに、膝丈の半分も届かないミニスカート。変わったものと言えば、頭につけられた髑髏の髪留めと、首からさげた通信機ぐらいか。


「こちら深紅ミアカ。遮断空間内への突入成功。

 ついでに逃げ遅れを二人確保したから応援とっととよこして頂戴」


 通信機に向け、紅い髪の少女が声を投げた。

 うんざりしているかのような、飽き飽きしているかのような、どちらにせよ緊張感とはほど遠い口調だった。


「敵戦力はメガマキナが十三体。司令塔っぽい巨人型が一体と、昆虫型のドローンが十二体。いや、ドローンの方は今一体ぶっつぶしたから残り十一体ね。合計十二。

 形状からして反世界政府組織【アブラクサス】の量産機体よ。ったく、三日前にも十日前にも蹴散らしたのにまた性懲りもなく出てくるなんて、いい加減飽き飽きするっての」


『向こうだって。そろそろ。後がないんだと思う』


 通信機から響くのは女性の声だ。

 滑らかに響く耳通りのいい声は、しかし合成音のように感情に欠けている、


『十日前の掃討は。アジトを三つ。一度に一気に潰したんだし』

「それでも生き延びてるってまるでゴキブリみたいね。ねえ知ってる熾遠シオン? あの昆虫、この世界でも未だにしぶとく滅びてないらしいわよ」

『蚊と蠅は。旧世界と一緒に。絶滅したのにね』


 こちらを無視して楽しそうに語り合う彼女達。

 それについていくことが出来ず、答えをすがるように、腕の中の少年へ目をやった。

「………、」

 気絶していた。


「んで、そこのポニーテール」


 紅い髪の少女が振り返る。

 まるで何もかもに挑みかかるような、しかし何もかもを楽しんでいるような、何もかもがおかしくて仕方ないような笑顔を向けて。

 何故だか解らないがその顔に、人を引きつけ焼き尽す、太陽のような印象を受けた。


「一体何でまだここにいるのかしら?」


 強い語気に、少女は思わず顔を背けた。

 何を言われるのかという恐怖で、彼女は両目を閉ざしてしまう。


「どうせ空間閉鎖の時に気付かずにボケーっとしてて取り残されたクチでしょ? 黙って人についてけとか馬鹿な事は言わねえけどさ、非常事態になったら周りを確認するぐらいはしなさいよ。この世界、一瞬の油断が本当の本当の本当の意味で命取りになんだから」


 紅い少女は溜息を一つ。


「ったくそれにさ、自分の実力とか状況とか考えてから行動しなさいっての。逃げるんだったら逃げるで、助けに行くんだったら助けるで、最初からキッチリ決めて動けって感じよ。何で途中で撤回して行動変えるんだっつーの。危険度は倍じゃすまないわよ。ばっかじゃないの」


 しかられてる、と思いながら恐る恐る顔を上げる。

 しかし、見上げたその表情は笑っていて。


「だけど最後のその行動、あたしはそんなに嫌いじゃないわ」


 優しく言われたそれに、少女の体から力が抜ける。

 安堵の気持ちに包まれて、彼女は意識を手放した。


                 ◇


「ったく、無茶しちゃってさ。まあ人の事言えるような人生送って来てねえけど」


 眠る二人にそっと手を当て、深紅はうっすらと微笑んだ。

 触れられた二人の輪郭がかすみ、姿がぼやけて消えていく。

 彼女達が隔離空間から消えたのを確認して、深紅はすっくと立ち上がる。


「さてと、敵の方の状況確認を済ませた所で」


 【紅い髪の少女スカーレット】、龍原深紅タツハラ・ミアカは不敵に笑う。

 空の両腕をぐるりを一周。準備運動のように回転させ、彼女は眼前の敵を睥睨。


「どうしたものかしらね、コレ?」


 彼女を取り囲む機械。機械。機械機械機械機械。

 十一対の砲塔と一体の巨人が、彼女に視線を向けていた。

 唸る駆動音は殺気の代わりか。視認出来る程の熱気を纏い、少女へ狙いを付けている。


「対話も無しに武力恫喝、ね。全くやることが酷いわね。流石テロリストって感じかしら?」


 似たような事。よくする癖に。と言う通信機からの声は聞こえないフリをした。


「周囲三百六十度からの集中砲火。ドローンは同士討ちを防ぐ為の光学反射加工済み。

 成る程、確かにあたし一人じゃ面倒だわ」


 ――だけど。


「生憎あたしは、一人じゃない」


 直後。破砕音が響き、ドローンの装甲に亀裂が入る。

 強制的にパージされたそれは重力に引かれて落ちていき、路面に当たって音を立てる。

 中身を曝け出した甲殻類達は慌てたようにもがいたが、収束したエネルギーは止まらない。

 一斉放火が放たれる。

 ぶちまけられた光達は互いに交差し合い、対面の仲間を融解させた。

 ボコボコと沸き立つような音が聞こえ、それも爆発の断末魔に呑み込まれて消えていく。

 熱と爆音の渦の中、その中心にいた筈の深紅は、


「ナイスタイミングね茜ちゃん!」


 上空。爆心地を見下ろすように、虚空の上に立っていた。


「何度言えばいいんだ貴様。葵坂茜アオイザカ・アカネなんて名前は知らない」


 彼女の隣。同じく足場も無いような中空に、少年が一人立っている。


「僕の名前は竜鳳司鏡夜リュウホウジ・キョウヤだと何時も言っているだろう」


 見た目の年齢は十八歳程。

 何の変哲も無い白いカッターシャツ。何の変哲も無い黒革の指抜グローブ。

 茶色がかった髪の毛も、ハーフリムの眼鏡でさえも、特徴的なものは何も無い。

 ただ一つ、眼鏡の下の表情だけが、不機嫌の色で濁っていた。

 底知れない闇を湛えた瞳だと彼は言う。

 万物に飽いた瞳だと彼は言う。

 自分でそんな風に言うな思春期めと深紅は言う。

 【正義ノ味方ジャスティス】竜鳳司鏡夜と人は呼ぶ。

 彼は意味ありげに髪を掻きあげて、その手を横に大きく振った。

 そのままそれを振り下ろし、眼下の相手に目掛けるように、銃を撃つように指を向ける。


「テロリスト達に宣告する。こちらは世界政府所属、旗下最高戦力の一角だ。

 僕が出て来た以上、貴様に勝機は一切無い。覚悟を決めて死を想え」


「そうね。あたしたちは優しいから降伏勧告してあげる。とっとと降りて来て全裸土下座するっていうのなら、全国報道で許してあげるわ」


「まて。その程度だと生温い。軽く拷問を施して仲間の情報も聞き出すべきだ」


「おおう、今日も茜ちゃんは容赦ないわね」


「だから竜鳳司鏡夜と呼べと言ってるだろう」


 緊張感の抜けそうな会話に割り込むように、一台だけ残った巨人型メガマキナが弾を放つ。

 鉄板を貫くだけの破壊力を持って撃たれたそれは、しかし彼らに届かない。


「残念、弱いわ」


 龍原深紅が振る腕の先。紅色した障壁が、破砕の弾丸を止めていた。

 彼女は銃弾を払いのけると、呆れたように鼻で笑った。愉快の感情を込めながら。


「交渉決裂ってことでいいのかしら? 自殺志願はバカみたいよ?」


「しかし最後通牒は終了した。――さあ、断罪ダンザイ時間トキを始めよう」


 そして彼らの戦いが始まる。

 二人はそれぞれ構えを取って、虚空を蹴って飛び出した。

 風を斬り、銃弾を躱し、落下して行く過程の中。深紅が高らかに叫びを上げる。

 風斬音にも、銃声にも、負けないぐらいに大きな声で告げる言葉は名乗りだった。


「耳に刻んで覚えときなさい? あたしたちの名前は――」


 ――極大級災害【大非在化ランダマイザ】によって、世界の全ては変わってしまった。

 百億人が存在を失い、惑星はその形を大きく歪ませ、物理法則の絶対性は消え去った。

 代わりに人類が手にしたのは、世界すら作り替える力、人の手に余る超常技術【幻思論エアリアリズム】。

 実用化された幻思論は、超能力を、人型機械を、あらゆる夢を実在のものとした。

 しかし、文明の急激な発展には弊害がある。

 超常技術を悪用する、通常の人間では対処不可能な犯罪者達の誕生だ。

 それに対抗する為に組織された、【世界政府オーバーロード】が旗下最高戦力のチームの一つ、

 名実共に世界最高と囁かれる、彼らの名は――


「――【ジャスティス&スカーレット】!」


 己の異名を叫び上げて、彼らは笑う。彼らは戦う。彼らは己の力を発揮する。

 何時ものように、思うがままに。


 ――それでは物語を始めよう。

 最強達の、気楽で愉快な蹂躙劇。

 役者は上々。望むは狂乱。求めるものは莫迦騒ぎ。

 彼らの日々にとっては大したこと無い事件の一幕が、

 拍手の音も無く、静かに始まった。



【NeXT】

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