終章 いつかまた、この小さな庭で㉒ そして、由理へ

「……ちゅっ」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」、もうすぐ閉店のお時間。

 名残を惜しむお嬢様たちと百合メイドに見守られる中、リズと最後にキスするのは。


「ちゅっ……んむ。はぷ、んくぅ♪ ちゅ、ちゅー♪」


 セミロングのツンデレメイド……ノンケ(旧)の西城さいじょう由理ゆーりだ。


「ふぅっ♪ んんむ、ちゅぷぅ♪ ぬぷぅ、ちゅちゅぅ♪ ちゅっ、ちゅぅぅ……♪」


「んふぅ、くむぅ♪ るぷ、ちゅぅぅ♪ ぐちゅん、ちゅ、ふぅぅ……っ♪」


 固く、固く、リズと指を絡めて。

 もちろん舌も絡めて。

 甘く魅惑的な、百合の花咲く、2人だけの世界へ。


「ちゅぅっ♪ むふん、くぷぅ♪ ちゅぷ、ちゅぅぅっ♪ ぬるっ、るちゅん♪」


「……ちゅ♪ ちゅぅっ、ちゅぷー♪ むぅんっ、くちゅぅ♪ ふぅぅぅっ♪」


 もう、多くは語らない。言葉なんて、要らない。

 貴女に会えた喜びも、2人の絆も、接吻くちづけが伝えてくれるから。


「ちゅぅぅぅぅ……っ♪」


 ……濃厚甘々な百合キスに、見てる季紗きさたちが赤くなった。


「ゆ、由理ゆーりってば、ケダモノだよぅ」


 美緒奈が頬を染めて同意。


「ね。季紗ねえ並みだよな」


「……美緒奈ちゃん、さりげなくひどいこと言ってない?」


 そんな彼女たちの会話も耳に入らないくらいに、リズと由理は、唾液をカクテルするのに夢中になっていた。


「ちゅぅっ♪ ふ……んむー。むちゅ、ちゅぶるぅぅ♪」


「ちゅぱぁ♪ くぷぅ、ふ……♪ んっ、んふぅ♪」


 唇を重ねながら、ふとリズは、由理が潤んだ瞳で見つめてくるのに気付いて。


「ちゅぅぅぅ……っ♪」


 もっと深く、舌を挿れてみた。


「ふ、ふぅぅぅぅ……っ♪ んむぅ!?」


 かーっと頬を林檎色に染めて。

 キスしたまま、目線を横へ逸らして恥ずかしがる由理。

 リズのカラダとの間、胸の膨らみを通してさえ、鼓動が高鳴るのがお互いに分かって。


「ちゅぅっ♪ ちゅぷん、ちゅくぅ♪ ふぅっ、んぷぅ♪」


「は、あんっ♪ くちゃ、くちゅぅ♪ るちゃ、るちゅんっ♪ ……ぴちゃぁ♪」


 刺激し合う舌を、加速させた。


「むぅっ♪ ちゅぱ、ちゅぅぅー♪」


 お口とお口で、吐息を吸引しながら。

 蕩けた瞳で由理が、軽く睨んでくる。


(私がこんなに、百合キス好きになっちゃったの……リズさんのせいだよ?)


 そんな気持ちが、唾液の糸を通じて……。


(ふふ。いやなの?)


 意地悪言う替わりに、口内粘膜を舐めてみた。


「ふぅ……ん♪」


 ぴくんってカラダを跳ねさせて、由理はより固く、指を繋いでくる。


(ばか。わかってる、くせに)


 禁断の扉の向こう。百合の花園に隠されていた、甘い絆は……今はもう、かけがえのないもの。

 想いを伝える、一つになれる……百合キスは、乙女の友情もしくは愛情の、最上級。

 究極幸せ行為だと……もう、由理も分かってる。


 だから、百合キス大好き、貴女が大好きの、気持ちを込めて。


「ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ♪」


「ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーんっ……♪」


 2人、世界に唇だけしかないみたいに溶け合うまで……キスをした。


 ※ ※ ※


 すっかり日も暮れて。

 店内には、閉店の音楽が。


「ううっ……やだ、私まだ、キスし足りない……!」


 唇を押さえて、欲情に必死に耐えてる由理……。


「むー。由理、ムラムラし過ぎじゃね?」


 羞じらい顔の美緒奈が、ジェラシーな視線を向けると、


「ち、違うからね? リズさんとえっちしたいとか……そんなこと、思ってないんだからっ。って、何口走ってんのよ私ぃぃ!?」


 頭を抱えて悶える由理の肩を、季紗がぽんと叩いて。


「気持ちは分かるよ。この後4人で、お風呂入ろうね!」


 百合色桃色な夜は、もう少しだけ続きそうだ……。


 ……さて。

 掛けたい言葉は山のようで、唇は離れがたくて。名残は尽きないけれど。

 お客様たちも、メイド店員たちも、最後にリズへ接吻くちづけして、手を振って、帰っていく。


 茶髪ショートカットの百合メイド、宮野りりなが、お別れのキスをしながら、


「ふぁぁ、やっぱ百合キス最高♪ 百合は宇宙を救いますね! ……私、いつも、いつまでも、百合キスできる幸せを、忘れない。この幸せの魔法を……世界中に、届けたい」


 限りない親愛を込めて、リズたちへ微笑んだ。

 そして恋人の早百合と手を繋ぎながら、彼女たちも家路へ。


 最後に、店主マスターとおるお姉さんも。


「まあ、やり過ぎかなーとか思うことも、いっぱいあったけどさ。それでも」


 照れて、頬を掻いた。


「……楽しかったよ。リズと、皆と一緒で。きっと、この日々を忘れない」


「……ええ、私も」


 目をつむり、輝いていた毎日を振り返るリズ。

 そんな彼女へ、透お姉さんが、


「え、えと、最後だからな……」


 もじもじしながら、申し出た。


「ほ、頬くらいなら……キスするぞ」


 ……ちゅっ♪

 ノンケなお姉さんから、リズの頬っぺたへ、柔らかな感触が贈られた。


「まあ……♪」


 意外なプレゼントに顔を赤らめるリズ。

 美緒奈と季紗は、


「や、やっぱり店主マスターも、こっち側……!!」


「違う。ちーがーう。私はノンケ!」


 羞じらいながら、透お姉さんは手を振る。

 ちなみに由理はと言うと、リズさんへのキスに、ちょっぴり嫉妬しつつ。


「……やっぱり自分でノンケを強調する人は、ノンケじゃないのね!」


 自分へブーメランな感想を、口にしていた。


 そんなこんなで、最後まで大騒ぎしながら。

 店主マスターも含めて、皆、それぞれの場所へ帰っていって。


 ……あとは、百合メイド4人の時間。

 残り一度だけの、夜。

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