終章 いつかまた、この小さな庭で③

 秋芳しゅうほう女子学園高校、生徒会室。

 1年生で書記を務める、小柄でツリ目の少女……たつみ千歌流ちかるは、肩をわなわな震わせていた。


「か、会長たち……学校は、イチャつく場所じゃありません!?」


 がーと怒鳴る彼女の席の前では、季紗きさ由理ゆーりの手をにぎにぎ、さわさわしていた。


「だ、だって……由理の手がすべすべで♪」


「も、もうっ。プリント渡して、指が触れただけなのに。恥ずかしいってば」


 頬を赤らめて、指を絡ませ合う先輩たち……生徒会長の季紗と、冬に副会長になった由理。

 見守る生徒会のもう一人……会計の女の子が、ついていけずに呆然。眼鏡がずり落ちてる。


(季紗先輩も由理先輩も、百合メイド喫茶のこと、隠すつもりあるのかしら。もうっ)


 千歌流は膨れっ面。


「わ、私だって、触ったり触られたりしたいのに……あわわ、じゃなくて!?」


 危うく心の声が漏れかけたのを、机をバンバン叩いて誤魔化した。


「今日は、卒業式の話し合いでしょう! 真面目にやらないと、3年生の方々に悪いですよっ」


 千歌流に怒られて、季紗と由理は反省の様子を見せる。


「でも、3年の先輩たちが喜ぶことっていってもさ……特別なのは、思いつかないかな」


 由理が首を傾げる。

 秋芳学園生徒会、今日の会議で、式次第も送る言葉も決まっていて。

 後は、なにか卒業生たちへ、嬉しいサプライズを仕掛けられないか考えてるところ。


 季紗、形の良いあごに人さし指当てて、つぶやく。


「……キスとか?」


 会計の子の眼鏡がピシッとひび割れた。

 替わりに千歌流がツッコむ。


「な、なに言ってるんですか会長!? こ、ここ女子高ですよ。っていうか卒業式でキスとかありえませんからー!?」


「で、でも……素敵な想い出になるかも?」


 由理がぽっと頬を染めるので、千歌流のツッコミが忙しくなる。


「副会長まで!? 目を覚ましてぇぇ!」


 声を出し過ぎて、ぜはー、ぜはーと肩を上下させる千歌流へ、本来のツッコミ役だった由理が、


「お、お疲れ様……千歌流ちゃん」


 なんて、ずれた声を掛けるので、ぎっ!と睨んでやる。

 あはは……と困った顔で笑う由理だけど、季紗の方はまだ、真剣にキスのことを考えていた。


「うん……でもキスって良い案かも。卒業生へ感謝を込めて、後輩から百合キス……すっごく綺麗な卒業式だよぅ!」


「……由理先輩。季紗先輩は本気で言ってるんですかね?」


「……季紗はいつだって本気だよ、千歌流ちゃん」


 一人ついていけない会計の子がかわいそうなので、千歌流は話題を変えようとするけれど。


「うん! 試してみようよ!」


 季紗生徒会長が先に動いた。


「ね……由理。キス、してみよう?」


 頬っぺたを掌で包み込んで、潤んだ瞳で視線を絡め取って……。


「ば、ばかっ。2人が見てる……!?」


 真っ赤になる由理へ、唇を近付けて。


「こ、これは確認よ。卒業生の皆さんに、キスがプレゼントになるか……ドキドキするか、確かめてみるだけ。だから、恥ずかしがらないで」


 そういう季紗も、頬を染めて、そのまま……。


「……ちゅぅぅ♪」


 会計の子の眼鏡が割れた!


「先生ー!? 会長たちが学校でキスしてますー!?」


 運悪く教頭先生に、生活指導の先生が通り掛かって。

 騒がしくなって慌てる季紗を見ながら、千歌流はため息をついた。


「……季紗先輩。百合のこと、隠すつもり有ったの?」


 ……最後の敵?は、PTA。

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