「東宮季紗」編④ 天使のままでいられない

 夜の東宮ひがしみや屋敷。

 東京都内ながら緑も多く残る武蔵野の、小平市の丘の上に立つ洋館。


 北欧の血が流れる白髪のロリメイド、上代かみしろふぶきと、2人でパジャマ姿の季紗きさは、名作百合アニメのDVDを観ていた。


玉青たまおちゃん天使だよぅ……私で良ければお嫁さんになってあげるのに!」


 主人公を誰より好きなのに、お姉さまに恋する主人公の背中を押してしまう……本当の気持ちを押し殺して。

 そんなヒロインに、ぽろぽろ涙を零す季紗。

 ハンカチがびしょ濡れだ。


(私も……同じタイプかな)


 季紗の胸が、ずきと痛んだ。

 片想いヒロイン。

 自分の心より、主人公の想いを考えて、優先して……身を引いてしまうタイプ。


「ねえ、ふぶきさん。玉青ちゃんはやっぱり、渚砂なぎさちゃんが幸せなら、それでいいのかな。我慢できるのかな?」


 私は、どうだろう。

 由理ゆーりと、美緒奈みおなちゃんかリズさんが結ばれて。それでも笑って、今まで通りキスできるだろうか。

 独りで泣いちゃったり、しないだろうか。


「むぅ、良いはずないのでありますよ」


 頬を膨らませるふぶきの言葉に、季紗、自分のことを言われたみたいでドキリとした。


「ふぶきは、片想いのままで終わるヒロインって好きじゃないです。健気で良い子とは思うけど、結局、自分が傷付く勇気が無いのではありませんか?」


 ふぶきさんはアニメの感想を言ってるだけ。

 アニメの女の子の話をしてるだけ。


 だけど季紗は、やっぱり自分のことと重ねてしまって……。


「恋は当たって砕けろ派ですよ、ふぶきは! いいじゃないですか、関係が壊れたって。泣いても傷付いても……自分の気持ちにフタして、苦しむよりは」


「そうかなぁ。それで、告白しちゃって……振られて。友達のままでもいられなくなったら。後悔しちゃわない?」


 友達のままでいよう、なんて、お決まりの台詞だけど。

 きっと、本当の気持ちを知られた後で、今まで通り友達として笑い合うなんて。

 無理だよ。きっと後悔する。


 でも、そんな季紗の胸のうちを知ってか知らずか、ふぶきはあっけらかんと。


「後悔すればいいのです! どうせ伝えなかったら伝えなかったで、後悔するのですから。人間なんて、後悔する生き物ですよ。後悔の1回や2回でへこたれてたら、やってけないのですっ」


「うぉぉ……ふぶきさん、大人だね」


 見た目がロリなので季紗でさえ忘れがちだけど、ふぶきは女子大生。

 色々合法な年齢なのである。


「ふふ、ちなみにふぶきは、季紗お嬢様へラブラブですよ♪ いつも言ってますけど。……ちゅぅぅー♪」


「んむぅ♪ ちゅぷぅ♪ ん、もう、ふぶきさんたらぁ♪」


 パジャマ姿、ベッドで仲良くキスする姉妹みたいな2人。

 仲良しお嬢様とメイド。


 白髪ロリのふぶきさんへ舌を挿れながら、季紗は考えるのだった。


(傷付く勇気、かぁ……)

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