学園祭編③ 風紀委員は百合乙女。

 秋芳しゅうほう女学園高校の1年生、風紀委員のたつみ千歌流ちかる

 ストレートのロングヘアーにツンとした猫目の、小柄な少女。


 生徒会書記もやっている彼女には、憧れの先輩がいる。


東宮ひがしみや先輩の、お美しいメイド姿……♪」


 心の中では「東宮先輩」でなく「季紗きさお姉さま」と呼びながら、千歌流ちかるは鼻血を溢した。


「え、えっと、大丈夫? 千歌流ちゃん?」


「は、はい! こ、これはですね!? 先輩の素敵なお姿に感動したのであって、欲情とか、やましい気持ちなんてありませんでして!?」


 学園祭、前日。

 各教室を回って、風紀委員による出し物の最終チェック中。


 季紗は生徒会副会長と風紀委員長を兼ねるので、公正を期すべく、他の風紀委員が彼女のクラスをチェックしてるのだが。


「で、どうかな。スカートとか長めだし、問題は無いと思うんだけど……」


 というか「リトル・ガーデン」の制服を模した可愛いメイド服だったりするけど、千歌流は知らない。


「は、はい! 問題なんてあるわけありませんともー!」


 千歌流の返事に季紗は、ほっと胸を撫で下ろす。


「ふふ、良かった。実はね、メイド喫茶なんて、千歌流ちゃん怒るかなって……ちょっぴり心配だったんだ」


 そう話す季紗の笑顔に、千歌流はつい見とれてしまう。


(季紗お姉さま……素敵。真面目で、優しくて……メイド服姿も、似合いすぎてます♪ ああっ、お姉さまに「お帰りなさいませ、お嬢様♪」なんて言われたら、私、幸せ過ぎて死んじゃうかも♪)


「……千歌流ちゃん?」


「ひぇあっ!? な、なんでもありませんとも!?」


 季紗に顔を覗き込まれ、千歌流は顔を真っ赤にして飛び退いて、


「ふふ、先輩のクラスですもの。初めから、風紀の心配なんて、してませんけどね」


 にこっと微笑んだ。


「東宮先輩のこと、信じてますから♪」


「……ど、どうしよ。笑顔が眩しいよぅ」


 なぜか季紗が頭を抱えた。


「先輩? どうかされました?」


「う、ううん、何でもないの」


 手を振って誤魔化す季紗へ、教室の奥から由理ゆーりの声が掛かる。


「季紗、こっちの飾り付け、見てほしいんだけど」


「はーい、今行きます」


 その時の季紗の嬉しそうな顔に、千歌流は内心むっとする。


(あのクラスメート……よくお姉さまと一緒にいるけど。馴れ馴れしいですよね、私のお姉さまに)


「ふふ、じゃあ千歌流ちゃん。風紀チェックはOKってことでいいかな?」


「あ、はい。それはもちろん」


 我に帰った千歌流の手をギュッと握って、季紗が天使スマイルした。


「学園祭、がんばって成功させようね♪」


「は、はい! 先輩♪」


 手を振り、楚々と去っていく季紗を見送って。


(はぁ、やっぱりお姉さま綺麗だなー……)


 千歌流は妄想トリップ。たとえば、有るわけないけど……季紗お姉さまが、私をキスでもてなしてくれたりしたら!?


『ちゅっ♪ んぷ、ずぷぅ……♪ 千歌流お嬢様、季紗のご奉仕、ご満足頂けてますか……♪』


『ちゅ、ふぅ……ん♪ は、はい、お姉さま。千歌流は、お姉さまにでしたら、何をされても嬉しいです♪』


(って何を考えてるのよ私はぁ!? 有るわけないでしょキスで接客とか、そんなハレンチな店ぇ!?)


 自分の妄想に悶えるたつみ千歌流、16歳。

 とりあえず明日の学園祭当日は、季紗お姉さまに悪い虫が寄らないよう、しっかり監視しよう!と。

 風紀委員として誓うのだった。

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