第46話無双

 ゾンビへの拘束はレムによって容易く切り裂かれてしまう、いくらオレが作った剣だとしても切れ味が良すぎやしないか? いや、レムと腕いいのだろう。


「我が主様の糧として朽ちろ」


 レムは白銀の剣を背中に戻し、漆黒の両手剣を手に持つ。

 それは少しばかり女が持つには些か大きすぎると思ったのだが、レムは軽々と振り回し剣の調子を確かめている。


「あのぉ~レムさん、オレの出番ってあるかな?」


「主様の手を煩わせては下僕である私の面目が立ちませんがゆえ。

 休んでください」


 大丈夫なのだろうか? あの、ゾンビかなり強いし、でもオレの上がったステイタスなら簡単に倒せそうだし、危なかったら助ければいいか。


「うん、じゃー頑張って。

 危なかったら助けるから、自由にやっていいぞ」


「ふふっ………それは頼もしい。

 グレモリー流 剣術の力をお見せ致しましょう」


 レムの雰囲気はがらりと変わる、圧倒されるほどの魔力………いや闘気か。

 レムを中心とした空気が闘気に連動し震える。


 《ヴァァァ……ヴギャアァァァァ》


 今まで様子を見ていたゾンビは瞳を赤く光らせ歩いてくる。

 急いで歩いているのだろうが、ゾンビの動きはゆっくりとしている。


「では、主様! 見ていてください」


 レムはそう言うとオレのギリギリ視認できるぐらいのスピードで動く、いや決して速いわけではないのだが、視野にいるのだが視野から外れるように動いている。

 オレが注意して見て要約、目で追いかけることが可能だった、気を抜けば見失ってしまう。


 そんな動きをするレムにゾンビは翻弄されてしまい瞬く間に背中に切り傷を作る。

 腐った肉は煙を出しつつ再生を始める………が再生を越える速度で新しい切り傷を与える。

 その剣速は凄まじいことになっており、確実にゾンビの体を切り刻んでいく。

 ゾンビにとってレムは天敵とも言える存在だったのだろう、威光が聞かず酸を放とうが全て避けられ、凄まじい速度て切られる。

 オレの使うナイフとは違い剣だと、刀身が長い為が再生にかかる時間が倍以上かかっていた。


「あまり、深く切ってしまうと汚れてしまう。

 せっかく主様が作ってくださった剣だ。

 大事にしなくては」


 そんなことをいいながらもレムはゾンビの両手両足を切り落として地面に転がしている。

 だがもっと恐ろしいのは両手両足を切り落とされようが生きているどころか再生を始めているゾンビの生命力だ。


「なんです、このゴミ虫が。

 主様の前ですよ……やることがあるじゃないの?」


 レムはゾンビをオレの目の前まで連れて来てゾンビの頭を足で地面に押さえつけるようにしながら言う。


 こっわ! ゾンビの生命力より怖いものありましたよ………目が一切笑ってないから!

 いや、こっち見られても反応困るし、そんなことやってなんてお願いしてないし。


「………いや、速くトドメさせよ」


「これは失敬! 主様はこういうのが苦手でしたか………貴様のせいで主様に嫌われそうではないか! この! この!」


 レムは抵抗できないゾンビを遠くまで蹴り飛ばし頭を何度も踏みつけた、そして最後には全くの優しさを見せることなく首を切り落とした上に細切れにし、再生する力を残さないようにする。


「手慣れてるなぁー」


 レムを遠目に見つつ、そんなことを口にする。


「それより主様よ、フローラ殿はどうしたのでしょう」


 ゾンビの後処理を終え、オレの方へ走ってきて笑顔を向ける。

 その笑顔が今は怖いです。


「えっと……レムが心配だったから置いてきた」


「主様………嬉しいのですが、私なら大丈夫でしたのに、土人形ゴーレムは主様の魔力があればいくらでも再生しますがゆえ

 それより、今はフローラ殿が心配です、探しましょう」


 マジでか! あの戦闘能力にオレの魔力があれば再生するって………どうやって倒せばいいんだよ、チートだな。


 レムに言われるがままフローラを探すために動き出すのだが………思いの外フローラはすぐに見つかった、見つかったといつより見付けさせられたと表現した方が合っている気がする。

 悲鳴をあげながら走り回り、ゾンビに追いかけられるフローラは見付けるのは用意だった。


「………いたぞ、あっちの方向だ」


「では行きましょうか」


 オレとレムはフローラを助けるため走り出すが………レムの方が速くオレが追いかける形になってしまった。

 悲鳴が聞こえる方へ走ること数分、ようやくフローラの姿をとらえる。

 後ろには3体の犬っぽいゾンビ達………なに新しい魔物に追いかけられてるんだよ!


「いました、先に行きます!」


「全部、殺すなよ!」


 オレはさらにスピードをあげるレムの背中に言ったがちゃんと聞こえたのだろうか? あれだけ速く走る力がどこにあるんだか、やっぱり、速いってそれだけでアドバンテージだよな。

 いや、オレだって他のやつらからしたらかなり速い方なんだけど、やっぱり能力スキルで強化されている奴は速いな。


「リクトォォォォーーー」


 フローラはオレを見付けた瞬間殴りかかってきた。

 うん、避けられる。

 けっしてオレが遅いわけじゃない。


「避けんじゃねぇー」


「いや、だって痛いじゃん」


 フローラの後ろにいたゾンビ犬達はレムと戦っている最中だった。

 だが、3体のゾンビ犬達はレムに弄ばれるかのようになっていた、地力の差が分かる戦いだな。


「よそ見してんじゃねぇー。

 よくも置いていきやがったな! 私がどれだけ苦労したと思っている!

 穴に落ちたり!

 ゾンビに狙われたり!

 ゾンビ犬に襲われたり!

 あいつら、惑わしてても効かねぇーんだよ、追っかけてくるんだよぉぉぉ」


 最後の方は泣きながら座り込んでしまった。

 レムの方が1人にしたら危険かと思ったけどフローラの方がダメだったか。

 こんな男っぽい口調してる癖にホラー系統の魔物が苦手って………ギャップありすぎだろ。

 おっと! それより、レムに全部殺さないように言わないと、死体だと能力スキルのコピーが出来ないんだよ。


「おぉーい! レム、全部殺すなよ」


「分かりました、主様よ!」


 レムはそう言うがもう既に一体のゾンビ犬の首を跳ねていた。


「もう嫌だ! 許さないからな」


「オレが悪かったって………お前なら大丈夫だと思ったんだよ。ほら、このとおりだ!

 許してくれ」


 オレはフローラに向かって頭を下げるが当の本人であるフローラはこちらに見向きもしない。


「絶対許さない! 嘘つき! 隣にいるって言ったのに!」


「許してくれって! なっ! う~ん。じゃあ、何をしたら許してくれるんだ?」


 フローラはいっさい見向きしなかったが最後の言葉を言うとフローラの表情が変わる。

 おっ! これはなかなか、いい反応だ!


「何でもするって言うまで許さん!」


「何でもって………まぁ~いいや。

 何でもするから許してくれ」


 オレがそう言うとフローラは不敵な笑みを浮かべ立ち上がる。


「しょうがないなぁ~許してやるよ」


「おう、良かった………それより何をさせる気なんだ?」


 何でもするって言った以上、無茶苦茶なこと以外ならやるつもりだが何をやらせるつもりなんだ?


「う~ん………今はいいや。あっでも忘れんじゃねぇーぞ」


 フローラはかなり上機嫌になりレムの方へ歩いていく。

 レムの方はとっくに戦闘は終わっており、一体のゾンビ犬がレムによって拘束されていた。


「まっいいか………それよりゾンビ犬の能力コピーしなくちゃ」


「主様よ! ご命令どおり生かしておりますが何に使うのですか?」


 レムは不思議そうに動けなくなっているゾンビ犬を持ち上げ聞いてくる。

 平然と触ってるけど、それ腐ってるぞ。


 オレはレムが持っているゾンビ犬に能力閲覧を使う。


 《個体名:パラライズドッグ

 魔物ランク A~S

 注意点、非常に高い嗅覚を有し、如何なる状態でも獲物を追い詰める。

 群れで行動することも多く、素早い動きは敵を翻弄し得意の痺れ毒を使い獲物を仕留める。


 獲得可能能力 超再生 痺れ毒生成 痺れ毒付与 瞬脚 自動HP回復 自動MP回復 集団戦闘 翻弄 見切り 咆哮 打撃耐性 毒耐性 斬撃耐性 刺突耐性 幻惑無効》


 ステイタス平均値 3000~4300


 平均ステイタスはゾンビより低いのか………だが群れで移動するという点をとったらゾンビより強いんじゃないか?

 すこしくらい弱くたってこれだけの数でやられたらゾンビだってキツイはず。

 いやそんなことより、今は能力コピーだ、見たところコピーしておきたいのはたくさんある。


 1つ目に瞬脚、これはレムが持っていて有用だと実証されている。

 ステイタスで勝っているはずのオレより速く走っていたし。


 2つ目に集団戦闘、レムが増えたことにより集団戦闘となるだろう。この能力は恐らくだが集団戦闘をする際になにかしらの良い効果が見込めるのではないだろうか。


 3つ目に翻弄、名前的に敵を翻弄する際はいい効果が見込める。


 この3つの中から選らばなければ………他の能力も魅力的なのがある、例えば幻惑無効だ………だがこの能力を身に付けてしまうとフローラの幻惑魔法が効かなくなり、フローラのレベル上げが遅くなりそうだ。

 初めての無効という耐性系統なのだが、コピーできないのが惜しい。


 まぁ~いいか、それよりどれにしよう………どれも捨てがたいが今回は安全に能力がわかっている瞬脚をコピーしておこう。

 またあったときに残り2つを覚えておこう。


「よし! レム、もういいぞ」


「何をしていたのだ、主様よ?」


「あっレムは知らなかったか………オレの左目は魔眼でな、魔物の能力スキルをコピー出来るんだよ、まぁ~死んでたら意味ないけどな」


 レムは驚き、再生しているゾンビ犬を地面に落としてしまった。

 ゾンビ犬はまだ、ぎこちない動きのまま逃げようと必死になっている。

 レムが逃がすわけがなく、すぐさま追いかけトドメをさす。

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