第32話幻覚

 突如表れる男によりオレとミラは分断されてしまった。

 リーズは石化させられてしまい、ミラとアイリスとは別れてしまい生死すら不明。

 だがミラ達と別れて3日が過ぎて、ようやく悟ってしまう、ミラとアイリスは何らかの原因によりオレの所に戻れなくなったことを、いや、真実を言うと死んでしまったか石化させられてしまったと思う………いや、そう思いたいだけなのかも知れない。

 そしてオレはリーズが戦って石化するのを黙って見ているしか出来なかった、己の力のなさが忌々しくてしょうがない。

 あのとき俺にできることは一切無かったとはいえ仲間がやられているのを黙って見ているしか出来なかった自分が許せない。

 もはやオレに出来ることはないだろう、だが希望を捨ててはいけない。

 ここは異世界だ、蘇生の方法があるかも知れない。

 石化を解除できるアイテムがあるかも………いや、なければ俺が作り出す。なにがなんでも

 だがそんな希望はかなり小さな物なのかも知れないがオレは目の前で救えなかった物を救えるくらいに強くならないといけない。


「絶対に………殺す殺す殺す殺す殺す」


 いくら言ったところで現実は変わらないと分かっているが言わずにはいられなかった。

 いや、言うことによって精神を安定させようとしていたのかもしれない、今にも死んでしまいたくなる。だがミラ達の仇を取らなければ死ねない。


 死んでたまるか!


 オレの中にあった黒いモヤは全てハースグロードによって作られたものだ。

 ハースグロードさえいなくなればこの何とも言えない心の黒いモヤも無くなるだろう。

 いや、無くならないとしてもオレの仲間をあんな目に会わせておいて楽には死なせない、拷問すら生ぬるいと思えることをしてやる。

 それほどミラ達の存在はオレの中で大きくなっていた。


「オレは弱い。どうしようもなく弱い、生きていることすら罪だ。だから強くなる! この世の理不尽を全て吹き飛ばす位に」


 そうと決まれば話は速い、片っ端から魔物に挑み能力をコピーし殺す………それを繰り返すしかない。


「オレの獲物はどこだ?」


 オレは他から見ればかなり異常に写ってしまっただろう、目は血走り、うつむきながらふらふらと歩く姿はさながらイカれた男に見えるだろう。

 だが幸いなことにオレとすれ違った奴は一人としていなかった、獲物を探し始めて三時間が経過したが見つけることは出来ずにいた。


「ふざけるな。どこだ。獲物、獲物、獲物、魔獣、魔獣、魔獣、魔獣」


 オレがどれだけ必死に探そうが見付かる訳が無かった。ミラは最後に魔族が住みにくい地域に転移させてくれたようだ。

 このことがわかったのは探して1日位した時だったもはや後の祭りである

 だが最後のミラの優しさに触れ、我慢していた涙は一滴落ちていく、それがきっかけだったのか涙は滝のように流れ落ちる。


「あぁーぁああああ~ー!!」


 出来るだけ考えないようにしてきた思いがみるみるうちに飛び出していきオレの涙腺ほ崩壊するのだった。

 ミラとの出合い、一緒に行った町、冒険者ギルド、一緒に笑いあった日々、色々と思い出すことがあり泣き止むのに時間がかかるだろう。


「あのぅ~大丈夫ですか?」


 突如話しかけられ、驚くが涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔など見せるに値しない。

 だが反射で顔をあげてしまう、そこにいたのは可愛らしい女の子だった。

 いやどちらかと言うと可愛いと綺麗の中間のような容姿だった。綺麗とも言えるし可愛いとも言えてしまう。

 肩からは草の入ったバックを下げ、黒色の髪の毛を綺麗にまとめている。


「なぜ泣いているのですか?」


 オレの涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔を見ても物怖じせずに話しかけるとはなかなか凄い子だな、だが今のオレは人間としてのミヤマ リクトなのか。

 半吸血鬼ハーフヴァンパイアとしてのミヤマ リクトなんだろうか?

 どっちで接したらいいのか分からない、ミラと離ればなれなった今、人間と偽る意味も必要もない。


「オレが大丈夫に見えるか?」


「い、いいえ。」


 突然のオレの問に戸惑うこの子はいったい誰で何が目的なのだろうか?

 オレに話しかける利点はなんだ?

 後からなにか恩返しでも求めるためなのか?

 それとも己の自己満足か?

 分からない。オレはどうしてしまったのだろうか、そんなことを考えてなんになる?

 もう、いいや。全てが嫌になる、己の無力さ、何も出来ない心の弱さも、そして何より人の優しさに触れても信じられなくなっていた自分がとてつもなく嫌いだ。


「オレに関わらないでくれ。オレなんて………」


 オレは突然何を言おうとしているのだろうか?

 目の前の子に今までの経緯を話してなんになるって言うんだ? ダメだ、オレはとてつもなくバカになってしまっている。


「話してください。少しは楽になるかもしれませんよ」


 オレがどれだけ冷たくあしらった所でこの子はオレの前からいなくなることはないだろう。

 この子の優しさにオレは甘えてしまっても良いのだろうか。


「何も………何も出来なかった。目の前で仲間がやられた。やられたのを見ているしか出来なかった。オレは弱い。今も見ず知らずの女の子の優しさに甘えてしまっている。こんなオレはもう………」


 女の子は何も言わずうずくまるオレにそっと近付き背中を優しく撫でてくれる、オレはさらに涙が出て来てしまった。

 涙と共にずっと言えなかったことも自然と出ていく、言葉にすることによって心にのし掛かっていたものがスッと軽くなったように思える。


「ありがとう。もう大丈夫だ、でもなんで見ず知らずのオレを?」


「えっ!?………笑いませんか?」


 何とか立ち直り涙を拭い女の子と向き合う、質問すると女の子は少し焦っていた、それに笑う? なぜ笑うのだろう?


「あ、あぁ。笑わないよ」


「あの~、ですね………兄に似ていたものですから」


 え、兄? そんな理由なのか!? 見ず知らずの男に話しかける理由がそれなのか。

 とたんに笑いが込み上げてくる。


「フッ……ハハハ………アハハハハハハ。そんな理由かい。見ず知らずの男に話しかける理由が兄に似ているって。アハハハ」


 今まで抱えていた辛い気持ちが吹き飛ぶ思いだった、だが心にあるハースグロードへの憎しみだけが消えずに渦巻いている。


「ちょ! 笑わないって言ったじゃないですか」


「いやいや。これは無理だって! 知らない男に話しかける理由が兄に似ているって、変わり過ぎていて笑っちゃうって」


 目の前の女の子は両手を上下に振り怒っている。だが怒っていると言っても恥ずかしさからくる怒りのせいか顔が紅潮している。


「もう! 知りません」


「ごめんって、それよりさ魔獣が出るところって知らない?」


 女の子はオレに背を向けてしまった

 だがオレの問いかけに少し嫌そうな顔になる


「なぜですか?」


「オレは強くなりたい。このオレに振りかかる理不尽を全て吹き飛ばすくらいに。いや……なりたいではなく。なるの方がしっくりくるな」


「そ、そうですか。残念ですが私は魔獣のいるところは知りません」


 知らないという少女の顔には幾つかの不自然なところがあった。

 一つは少しだけ曖昧な顔になった所

 二つ目に視線が色々な方向に泳いでいた

 だがオレはあえて追及しないでおいた。


「そっか。残念だ」


「えぇー。もう大丈夫そうですね。私は家に行きます、良かったら来ますか?」


 女の子は上目遣いで誘うように言ってくる、なぜそんなに優しくしてくれるのだろうか?

 改めて考えてみても分からない。兄に似ているからって普通そこまでするのだろうか。


「一ついいか、なぜそこまでする?」


「それは…兄に似ているからと言ったはずですが?」


 女の子は視線を泳がせ、冷や汗を流し始めた

 ん、何かおかしいぞ? 嘘を言っている?

 魔眼を使って見てみるか。オレの魔眼を使えば色々な疑問が真実になるだろう。


 《個体名:フローラ・クロウリィー

 種族:幻魔 忌み子(幼体)

 種族能力:幻覚魔法強化 B 近接戦闘脆弱 S

 行使可能魔法 幻覚魔法 火炎魔法 闇魔法


 注意点、1度幻覚魔法をかけられてしまうと抜け出すことは非常に困難、また精神か安定していない相手には幻覚を見せて助けようとする優しさもある(個体差あり)

 人を幻覚を見せることによりレベルが上がる特異な種族でもある


 獲得可能能力 幻覚魔法強化 幻覚魔法 闇魔法》


 とりあえずオレは幻覚魔法をコピーしておいた。

 あぁーあ。

 この子の不自然さはコレが原因か………女の子の優しさに触れて喜んだらコレが現実か。

 もう、全てが嫌になりそうだ、何もかも壊してしまいたい。

 ………でも注意点に幻覚を見せて助けようとする奴もいるって言ってたな。

 オレは目の前にいるちょっと変わった女の子を信じてみたくなった。


「何が目的だ?フローラ」


「え…? まだ名前教えて…ないのに」


 女の子はオレが魔眼を使い種族を見たことに気付いていないようだ。

 名前も教えてないのに知っているということに不思議そうにこっちを見る目は悪意がなく戸惑う、コイツは優しい個体なのだろうか?

 それとも自分のレベルアップが目的か?

 または、他に理由が?


「それは…この魔眼のお陰さ。この目はお前の情報を読み取る目なんだよ。幻魔さん」


 オレの言葉を聞き、女の子は突然不思議そうな顔をやめ雰囲気をガラッと変える。


「んだよ。下手にでてりゃー調子に乗りやがって。テメェーがガキみてぇーにキャンキャンうるせぇーから幻覚を見せてやろうとしただけだろう」


 今までの可愛らしい女の子は消えてしまい目の前には口調の荒い女の子が表れる。

 突然の変わり振りに驚きで開いた口が塞がらなかった、だが妙に雑な口調が妙似合っていた。


「そっちが本当のお前ってことか………驚いたけどそっちの方が可愛いと思うぞ」


「なっっ! ……何が可愛いだ………バカ」


 フローラは顔を真っ赤に紅潮させうつ向いてしまった

 最後に何か言っていたがオレの聴力では聞き取れなかった

 だけど聴力鋭敏化の能力を使えば何とか聞き取れたかと知れないがもはや遅いだろう


「それよりさ。オレに幻覚をかけた理由は?」


「そ、それは。うるさいから」


 とたんに女の子は顔をあげ視線が右往左往している、コイツ嘘をつくとき視線が泳ぐ癖があるな………分かりやすいな。


「嘘をつくなよ。オレの魔眼は嘘を見抜くからな」


 もちろん嘘だ。

 だが見るからに悪い奴には思えないから何か事情があるのだろう。

 力になってやれるなら力になりたい


「それは………」

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