第16話偽装の指輪

 ダンジョンから転移し、出た場所は森の中だった、それにしても空気がうまい。

 今さっきまで、息苦しいダンジョンの中で生死を分ける戦いをしていたとは思えないほど爽快な気分になる。


「すーーー........はぁー、あぁ~外の空気がうまい!」


 めちゃくちゃ、おっさんみたいだが本当に美味しく感じた、アイリスもオレと同様、深呼吸している。

 ダンジョンの空気は湿っていてカビ臭く生暖かい、まさに最悪の空気だった。

 場所によっては硫黄の臭いもしたりした。その場所ではアイリスの鼻が使えなくて苦労したな。


「それでリクトよ! お主のレベルは上がったのか?」


「あぁ~かなり強い相手を倒したからな! レベルは上がっていると思うぞ」


「強い相手とは? そこのダンジョンにそこまで強い相手はいないはずですが?」


「いたって。ミノタウロスなんて正面から戦ったら勝てなかったぞ」


「ミノタウロス? 今のお主では少しばかりキツイ相手かもな」


 ミラはオレの体をジロジロと見ながら言っていく。

 オレの体を見たって分からないだろう………もしかして分かるの? いや、オレだっておおよそなら分かる、ミラくらいならば正確にステイタスが分かるんじゃないか?………十分ありえるな。

 またミノタウロスに勝てるかって言われたら分からないとしか言えない、だがステイタス的には勝てるのだが戦闘となると分からない。


「ステイタスでは勝っているが勝てるイメージが湧かないんだよ」


「それはそうじゃろう、ステイタスどれだけあっても使える技術がないと使えないのは道理だろう?」


 だろうな、最近いきなりステイタスを上げすぎて頭が追い付いて来なかった。

 敵に近付こうと踏み込むと勢い余ってタックルになってしまったことが多々あった、後半はなんとか力の加減が分かり戦闘に集中できたがリーズの斬り込みに比べると雲泥の差がある。


「そうだな。ステイタスが高くてもあまり使う機会が少なかったしな」


「では私が訓練に付き合いましょう。リクト様には速く強くなって頂かないと」


 リーズ不敵な笑みを浮かべながらオレの訓練の相手に志願してくれた、ありがたい、仲間って感じがするな。

 ………でも少しだけ不安だ、あの不適な笑みが。


「死ぬなよ」


 ミラは一言だけ呟く、ちょっと待てぇーーーーなにその言葉オレ死ぬの? やめて! ただの訓練だろ?………そんなに厳しくないよね? ダンジョンから帰ったばっかりだしさ。

 大丈夫ですよね? リーズさん。


「そんなミラ様、帰ってきたばっかりのリクトさんにそんな厳しい訓練をするわけないじゃないですか!」


「だよな! びっくりしたぞ、まったくミラは大袈裟だな」


 ミラは何も言わずただ心配そうな顔でこちらを見ていた………やめて! 不安になるから! いやマジで。


「あのぅー訓練は明日からにしませんか? 私とリクトさんはダンジョンで疲れているので」


 アイリスはオレの後ろから顔だけだしミラとリーズに言う、良く言ったぞ、アイリス! 正直疲れで倒れそうなくらい疲れた。


「そうじゃな、リクトのことも考えると明日からの方がいいじゃろう」


 ミラはオレの心配をしてくれるようだ。

 優しいな………ん? まてよ、この原因作ったのミラじゃないか! 優しいと思ったのは撤回じゃーーー。


「そうですか? 私は今日からでも大丈夫なんですがリクトさんの体調も考えるとそちらの方がよろしいですね」


「良かった。まぁーお手柔らかに頼むよリーズ」


「えぇ、わかっております」


 リーズは爽やかな微笑みを浮かべながら言う、めちゃくちゃキレイだ。

 さすがエルフだハーフとは言え破壊力が凄いな、そんなことよりバルムンクはどうするのだろう? 一緒に来るのか。


「バルムンクは今後の予定とかあるのか? 無ければ俺たちと行かないか?」


「う~ん、我も行きたいのだが少し力不足だ。我は陰ながらサポートするとしよう。アイテム作りは得意でな。近くの町でアイテムショップでも経営するさ」


 バルムンクは片手で後頭部を掻きながら言葉を発する、その声には決意の意思がある。

 これ以上は聞かない方が良さそうだ、でも町でアイテムショップをやると言っても魔族では町で店を出すなんて出来ないはずだ。


「それは無理だろう?、ここから近い町の奴らは魔族を嫌悪しておる。やめておいた方がよいぞ」


「そうなのですか、ではあの指輪を作りましょうか」


 バルムンクは右手を胸の高さで握りしめ始める、とたんにバルムンクの右手は光を放つ。


「なんだ!!」


 光が収まるとバルムンクは一つの質素な指輪を持っていた、飾りはまったくなくただの指輪にしか見えないものだ。


「それはなんだ?」


「随分と質素な指輪だな」


 ミラは指輪を手にとってじっくりと見ている、アイリスは興味津々なのだが遠慮しながら見ている。

 人見知りなのか! まぁーあれだけ強かったバルムンクがペコペコする相手だもんな怖いのだろう。

 まぁー正直オレもミラの見方が変わった。

 怒らせないようにしよう! オレは心の中で決心するのであった。


「これは種族隠しの指輪です。これを付けていれば種族がバレる心配は御座いません。まぁーMPの消費はしますけど消費は少ないです」


「なんだそれは! そんなことも出来るのかお主!」


 ミラは凄い勢いでバルムンクに詰め寄る、バルムンクは驚きの余り後ろへとよろめいてしまう。


「えぇ。元々このマジックアイテム製作の能力は希少ですから知らないのも無理ないかと」


「お前そんなことも出来んのか! スゲーな」


 くそ! コピーするならマジックアイテム製作の能力にすれば良かったか? でも自動MP回復はかなり優秀な能力だ。

 長期戦のことを考えると………うーん、難しいな。

 まぁ~今さら考えたところで変わらないか。


 今までのMP回復の速度はかなり遅く回復するのに手間取っていた。

 毎回、毎回ドレインタッチをさせてくれるほど魔物達は甘くない、本当に隙があるときしか使えない能力だからな。


「なぁーみんなオレ達の分も作ってもらわないか?」


「出来ればそうしていただきたいですね」


 リーズさんは指輪に興味があるようだ、まぁー普通にオレも指輪の性能は気になる。


「えぇー構いませんよ。元々1回作った物ですと複製は可能ですので。少し待ってくださいね」


 そう言うとバルムンクの両手は光輝く、先程と同様に突然の光に目が眩んでしまう。


「またかっっ!」


 両手から溢れだす光は徐々に収まっていく。


「出来ましたよ。種族隠しの指輪です」


 両手には合計4つの指輪が出現していた、どれも質素な指輪だが性能は凄まじいのだろう、魔眼で確かめてみよう。


 《アイテム名:偽装の指輪 

 製作者 バルムンク フォード

 効果 対象の相手からの認識を変更する。種族を見破られたりしなくなる。高位の鑑定能力を所持している物には効果を発揮しない

 獲得可能能力 偽装》


 あれ? またなんか新しい能力がコピー出来てしまった。なんかオレってチートじゃね、まぁー便利だからいいけど。

 でもオレの能力ってレベル差があるとコピー出来ないんだよな。

 でもまぁーいい能力なのは確かだな。


「すまんな、ありがとう」


「いえ、大丈夫です! 他に何か欲しい物があれば言ってくださいね。今日はもう作れませんが明日なら作れますので、では我はこの辺で失礼します」


 バルムンクは指輪をみんなに渡していくと早々と町へ走っていってしまった、みんなはそれぞれ指輪をはめていく。

 というか、バルムンクのやつミラの前だとめちゃくちゃ緊張していたな。


「あやつは騒がしいな、緊張しないでもいいのに」


「それは無理な相談でしょう。前のミラ様を知っている者からすると畏怖の対象ですから」


 リーズはオレの近くに来てミラに聞こえるように言う。


「ぐっっ! リクトの前でそれを言うな!!!

 違うのじゃ、若気の至りというか………周りに流されて………。」


 ミラはかなり焦りオレにしがみつき過去の汚点を訂正しようと必死になっている、あっ、、可愛いな、じゃない。

 つかそんなに怖かったのかミラってそれはそれで見てみたい気もする、アイリスはオレの後ろで怯えていた。


「嘘ですよ。リクト様、フフフ」


「そうじゃ! 嘘だぞ。リーズは冗談がうまいなぁーアハハ」


 絶対嘘じゃないよな、ミラの焦り方から見て真実だろ、でもこんなに可愛いミラが怖いなんて想像出来ないな。


「あのぅー、そろそろ町に行って。指輪の性能を調べてみませんか?」


 アイリスはオレの後ろに隠れながら本来の目的を言ってくれた

 そうだよ!指輪の性能を調べないと。


「そうだな。冗談はさておき町に行かねばな!

 さぁーいくぞ!ほら行くぞ集まれ。」


 ミラはものすごい勢いで準備を始めた、そんなに聞かれたくない過去なのか………少し興味が出たな。

 ミラがいない時にリーズに聞いてみよう、そんなことを考えながらミラに近付く。


「準備はいいな? では行くぞ!」


 そう言うとミラを中心に光が輝く、光が収まると視界が瞬時に切り替わる。

 切り替わった光景は町の門の前にある森の端に転移していた。


「町に入ってみるか? 門番の反応で分かるじゃろう」


「だな、指輪の性能はどれだけ効果があるかオレとアイリスで行ってみるから待っててくれ」


「分かりました、お気を付けて」


 ミラは森の木に隠れながら門番の様子を伺っている、オレとアイリスは門へ近づいていく。


「ようこそ! ファサナの町へ。冒険者の方ですか? 違うなら町入金が必用となりますが大丈夫ですか?」


 門番は爽やかな笑顔でオレとアイリスを歓迎してくれた、笑顔が少し嘘っぽかったが今までの反応と比べたら天と地の差だ。


「あっすいません。ツレが森にいるのでつれてきますね」


「わかりました」


 うっわ~スゲー効果あるじゃんこの指輪、なんか新鮮過ぎて笑っちゃったよ。

 門番に優しくされるなんて無かったからな、この世界に来て。


「おぉーい、ミラーこっち来いよー」


 少し走りミラに近づく、アイリスは今までの反応の違いを見て思考が停止しているがちゃんとついてきた。


「スゲーぞ、この指輪! ちゃんと話してくれるし

 すげー親切だ。だけど冒険者じゃないとお金がかかるらしいぞ」


「遠くから見てたがそのようだな。ほんとに凄いなこの指輪は。バルムンクには感謝せねばな」


 ミラは右手の小指にはめた指輪をじっくりと見ながら言った、オレはミラとリーズ、アイリスを連れて門へと再度向かう。


「早かったですね。先程申し上げましたが冒険者でない場合町入金が必用になりますが大丈夫ですか?」


「あ、あぁー構わん。これでよいか?」


 ミラは門番に数枚の金貨を手渡しする、門番は金貨の量に驚き焦り始める。


「そ、そんな多いですよ。金貨1枚でも多いですのに」


「構わん、やる!お主の家族にうまい飯でも食わせてやることじゃな」


「えっ? あっはい! ありがとうございます。」


 門番の人は凄い勢いで頭を下げている、凄い変化でみんな戸惑っている。

 前までは、行くだけで攻撃してきたり、多く金をとられたりしていたのがこんな風になると戸惑ってしまう。


「何かあれば言ってください。出来るだけ助けになるようにします! ではお通りください」


 門番は門をあけてくれる。

 重々しい木の門がゆっくり開いていく、俺達は町へと入って行くのであった。

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