第六章 北極海沿岸諸国の思惑

第六章  北極海沿岸諸国の思惑



 ― ノルウェー政府の事情 ―


 ノルウェーは、もともと暖流の北大西洋海流によって温暖であったため、港は不凍港である。軍事的にもどちらかというと海軍力に力を入れており、現在のノルウェー海軍は北海に面したベルゲン港に本部を置いていた。二十一世紀の北極海は二十世紀の時代と異なり、地球温暖化の影響で氷が溶けて次第に氷の占める面積が少なくなっていた。また、北極海の海底の地下に埋蔵されている天然ガスなどの地下資源を巡る沿岸諸国の利権が絡み合い、ノルウェー海軍に課せられた守備範囲と責任の重さは、溶けていく氷の量とは反比例するかのように大きくなっていた。


ノルウェー海軍としては自国の調査隊の救援をUFF(国際連邦艦隊)に任せることは、自分たちの面子をつぶされたようなもので、ノルウェーの政府および国民からの侮辱以外の何物でもなかった。なぜノルウェー政府が自国の海軍に出動命令を出さなかったのかは、海軍本部にはわからなかったが、「こういう事態の時こそ自分たち海軍の力量を発揮する時なのに」いうやるかたない思いが強かった。


海軍の中でも、現場の最前線で絶えず緊張感を感じている将校クラスにとっては、「地下資源の確保のためだ」とか、「国益を守るためだ」と言って、過酷なスケジュールと、北極海沿岸諸国との一触即発になりかねない指示を政府から強いられているため、とりわけ不満が多かった。


ノルウェー政府が自国の海軍に救援出動命令を発令しなかったことには理由がある。そもそも、遭難した調査隊のメンバーは、表向きはノルウェー科学省で編成されていたが、実際には天然資源開発会社「ノイア」からの出向者を中心にして構成されていた。また今回の遭難した派遣班の中には、内密にノルウェー陸軍所属の観測隊員が一人、身分上は科学省の科学者として含まれていた。これは、北極の資源調査では、以前から海軍中心にメンバー構成されていたことに対する陸軍側からの反発が強く、ノルウェー政府の政治的判断から、陸軍出身者をそれとわからぬようにして派遣班のメンバーに加えていたからであった。


もし、海軍が調査隊を救出することになれば、救出されたメンバー全員の治療が海軍病院によって施され、各人のIDがすべて海軍側に判明されることになり、調査隊に陸軍所属の科学者が含まれていたことが分かってしまう。そうなると、政府の閉鎖的な体質が問われかねないし、海軍と陸軍の衝突につながる可能性もある。そこで、政府は、調査隊の救出の依頼を海軍でも陸軍でもない、UFFに依頼したのであった。

 

そんな事情を知らないベルゲン海軍基地の司令官は、自分たちに救出指令を出さない政府への不信感と不満を持っており、そうした感情が、遭難者の位置に最短距離にあるとはいえ、試運転中の新鋭潜水艦「フレイヤ」に救援指示を出すことにつながった。


 こうしてノルウェー海軍では、救援活動の準備にかかる者たちと、救出活動の大義名分を探し出す者たちとに分かれて、共通の目的である北極海への救援隊派遣のための歯車が動き出した。



   ― ロシア科学アカデミー ―


 モスクワにあるロシア科学アカデミーの地球探査部では、北極における天然資源の探査に向かった調査船「ヤマル」から、北極上陸班が行く手を吹雪に阻まれ、立ち往生している報告を受けていた。それと前後して、ノルウェー調査隊の派遣班メンバー六名がグリーンランド沖の北極海で遭難し、ノルウェー政府から救援要請があったことを、ロシア政府から伝えられた。


「ノルウェー調査隊が遭難か。『ヤマル』からの上陸班も吹雪で動きが取れなくなったことは本当らしいな。上陸班のメンバーの安否が心配だな」と地球探査部長が言った。


「どうします、部長。そのノルウェー調査隊には、我々の仲間も一人含まれています」と副部長が答えた。


「わかっている。しかし、我々だけではどうすることもできない。『ヤマル』に連絡して、ノルウェー調査隊の救援に行けないか確認してみるのだ」


「わかりました。『ヤマル』は上陸班の収容で手いっぱいだと思われますが、外交上の配慮が必要ですからね」


「そのとおりだ。当然、我々の上陸班の収容を最優先するが、ノルウェー調査隊に関する情報も収集し、彼らの救援にも当たるように命ぜよ」


「了解しました。『ヤマル』には、こちらへの定期的な情報提供を指示します」


「うむ、私からは政府にそのように伝えておく。それにしても、同じような日程で同じ北極海の調査に向かうとは、これは単なる偶然なのか」


「やはり、北極探査は夏季に実施するのが鉄則でしょう。日の出は早く、日の入りは遅いので野外活動に時間を振り向けることができます。その上、氷の面が後退していますから、極に比較的近い距離まで船舶で行けますからね。我が国以外の諸国も同様に調査隊を出しているようです」


「そうだったな。仮に『ヤマル』の上陸班が遭難したとしても、他国の調査隊も遭難したとなれば、その言い訳にもなる。これは人為的ミスではなく、自然災害であると言うことができる」


「おっしゃるとおりです」


 ロシア科学アカデミーの地球探査部では、調査船「ヤマル」に乗船している部下の安否が気になる様子はなく、まるで他人事のような会話がなされていた。



   ― デンマーク政府 ―


 デンマークの首都コペンハーゲンにあるノルウェー大使館では、ノルウェー調査隊の六名が遭難したとの連絡を本国から受けた。その六名の中にはデンマーク人が一人含まれていた。デンマーク政府への報告の言い方について、大使と駐在員との間で議論がなされていた。


「我が国の政府にはどこまで伝えればいいのだ?」とノルウェー大使は同国の書記官に尋ねていた。


「大使、落ち着いてください。ノルウェー政府からは、何か進展があればすぐに連絡をもらえることになっています。それまでは、ノルウェー政府から問い合わせがあっても対外的には何も言わないことです」


「とはいっても、本国からは隊員の安否についてひっきりなしに電話や電子メールが入ってきている。どれもカギ『すぐに安否確認して政府に報告しろ』と言ってきている。遭難地点が北極圏なので皆、悲観的に考えているのだ」と言って、書記官に再度、ノルウェー政府への状況報告を促すよう指示をした。


 一方、デンマーク国内では、ノルウェー政府からの遭難可能性の第一報を受けて、

報道機関の発表表現は一様に「デンマーク人隊員の遭難の可能性を否定できない」といったもので、新聞、テレビやネットニュース番組の取り上げ方は、不安を掻き立てないように配慮したものであった。しかし、デンマーク政府内では、なぜ同胞がノルウェー北極調査隊に参加しているのか、その人物はどんな組織に所属しているのか、いつからノルウェー調査隊に同行しているのか、などに関しての憶測が飛び交っていた。


「ノルウェー大使からは何か新しい情報を伝えてきていないのか?」と首相補佐官は外務省事務次官に尋ねた。

「いえ、まだ何も言ってきていません。こちらからは情報収集の催促をしていますが・・・」


「・・もう、こんな時刻か。この状態では今夜のニュースには間に合いそうにないな。仕方がない、マスコミには」


















 ― 捜索中のポセイドン ―


 ポセイドンはフローティングレーダーを海面に出して、ノルウェー調査隊から出されている救難信号をキャッチしながら、その発信先の所在地のエリアを狭めていった。

探索では、海中であればアクティブソナー、パッシブソナーが使えるが、今回は地上の目標であるため、潜水艦にとっては苦手な任務であった。


 私(島中佐)は、信号の発信先をモニターしているディスプレイをずっと見ていて、この海域でフローティングレーダーが使えて良かったと実感していた。これが使えなかったら、ほとんど手探り状態で捜索しなければならないところだった。


数十年前の北極海では氷塊で埋め尽くされていて、フローティングレーダーは使えなかったが、それがほとんどなくなった今の時代では、普通の海域と同様にポセイドンの機能が発揮できる。単純に考えれば、作戦行動の制約がなくなって喜ばしいことなのだが、本当にこれで良いのだろうかと思う。人間にもいろいろな人種、進行、考え方があって多様性が存在するに、地球の表面積の七割を占める海から多様性が失われていくことは、どう考えても自然ではない。


 だが、そんな事を人類全員がどれだけ唱えても北極海の氷塊は戻ってこない。氷塊を海水に戻し、海面上昇を招いた張本人は人類なのだ。殺人犯が罪を犯した後に、その行為を償い、謝罪しても失われた命は戻ってこないのと同じだ。いったんスイッチを押された溶解は砂時計の砂のように止めることができない。


「さっき聞いた音は間違いだった。もう一度やり直そう」と言えるのは人間同士の間だけで成立しうる言い訳だ。自然対人間、テクノロジー対人間の世界では、そんなあまい言い訳は絶対に通用しない。


 また、「スイッチを押したのは祖先であって、我々ではない。彼らが犯した過ちだ。だから、我々には罪はない」などといくら叫んでみても何の意味もない。

 “人類”という包括的なくくりで言えば、世代の違いなど全く意味をなさない。祖先の功罪は自然界の前ではすべて子孫に受け継がれるのだ。好むと好まざるとにかかわらず。


 通信担当のクルーは、ノルウェー調査隊から発信されている救難信号を逃すことなく、その発信源のエリアを絞っていった。


「艦長、転進要請です。今、モニターに示した座標へ転進願います。距離は現地点から約六キロメートル。今の「ポセイドン」の速度ならば十二分で到着します」


「わかった。航海長、転進してその座標に向かえ」


「了解しました。面舵十度」とドレイク少佐は障害物がないか確認しながら、慎重にゆっくりと「ポセイドン」を転進させた。


「カスター少佐、救難者の収容準備はできているのか」とティエール艦長は、保安部長であるカスター少佐に確認した。


「はい、既に救援隊のメンバーはいつでも出発できるように待機しています。浮上地点によっては氷原が広いかもしれませんので、その場合に備えて水陸両用の特務艇『メイフラワー号』の発進準備もできています」


「そうか、準備がいいな。出発したら外は吹雪だ。ほとんど視界は利かないだろう。そうなれば、臨機応変で対応してくれ。頼んだぞ。少佐」と艦長は少し頬笑みを浮かべながらカスター少佐に話しかけ、彼への信頼感を伝えたかった。しかし、内心はこれまでの任務では経験したことのない状況下で、救援活動をしなければならない難しさを十分理解していた。実のところ、艦長も不安なのである。そんな艦長の心情を見透かすようにカスター少佐も微笑んで艦長に答えた。


「お任せ下さい。全員を救出します」と頼もしげなカスター少佐の答えが返ってきた。


ポセイドンは確実に救難信号の発信ポイントへ接近していった。海流が急に変わっても自動航行システムによって自動的に進行方向へ転身し、発信ポイントとの距離を縮めていった。


「少尉。ソナー反応に異常はないか?」


航海長のドレイク少佐は、ソナーを担当し、ポセイドンの周囲に障害物がないか確認しているキャサリン・ヒックス少尉に尋ねた。


「ソナーに異常反応は見受けられません。海上及び海中の船舶の反応もありません。氷塊と推定される反応があるだけです。救難信号の発信ポイントの周囲二km以上は氷で覆われています。あと五分で海面が氷に覆われている地域に入りますので、できりだけ発信ポイントに近づいて海面の氷を突き破って浮上するか。もしくは、氷の手前で浮上し、水陸両用艇のメイフラワー号を発進させますか?」


 ヒックス少尉は航海長のドレイク少佐と、今の会話を聞いていたティエール艦長に柔らかく決断を促したのだった。


「救難信号の発信ポイントの氷の厚さはどれくらいだ?」


「場所によって氷の厚さにはバラツキがありますが、おおむね二mから三mと思われます」とヒックス少尉は艦長からの質問に答えた。


「ドレイク少佐。どうだろう。ポセイドンの浮力で氷を突き破ることはできるか?」


「ポセイドンのチタン外郭をもってすれば、確実に氷を破壊して浮上可能と計算結果が出ています。多少、外郭には損傷があるかと思いますが」


「・・・わかった。フローティングレーダーからの観測情報によると海面はかなり吹雪いているようだ。できるだけ救難信号のポイントまで近づいて、海上の氷を割って浮上する。よって、発信元に正確にポセイドンを誘導してくれ。航海長、ヒックス少尉。腕の見せ所だぞ」


 ティエール艦長は二人を初めとするクルーの技量を信頼しているとでも言いたげに微笑んで、ブリッジの中のクルーを見渡した。


 艦長のこの判断は、私(島中佐)からすれば、かなりリスクのある選択にも受け取れた。仮に、海面の氷の厚さがこちら把握していたより厚く、浮上時にポセイドンのブリッジ上部の外郭に大きな損傷を発生させる可能性がある。北極は南極と違って大陸がなく、氷塊そのものが大陸のように二十世紀まではなっていた。しかし、島の時代では“氷の大陸”ではなく、“氷塊の浮かぶ海域”と言ったほうが実態により近い表現といえる。ティエール艦長はその辺も考慮して、リスクを認識しながらもあえて救難信号の発信ポイントにできるだけ近づくことによって、吹雪の中での救出活動をより確実にするためにあまり遠くない場所での浮上作戦を選択したのだろう。


 ポセイドンは航海長のドレイク少佐の指示のもと、確実に救難信号の発信ポイントに近づいている。ソナーで海上の氷の厚さが薄い場所を探索しているのはキャサリン・ヒックス少尉である。氷塊のない場所が見つかればいいが、氷の厚さがどこも大した差がない場合、どこまで浮上ポイントに近づいて誘導すればいいのか、その判断はソナー担当の彼女の判断にかかっている。


 航海長のドレイク少佐は完全に彼女を信頼している。その証拠に、振り返って彼女の様子を見るわけでもなく、ただ、彼女からの浮上地点の座標の報告を待っているようだった。


 フローティングレーダーは、氷塊が少ない海域では機能していたが、次第に氷塊の多い海域を進むにつれて、氷塊にぶつかり、その衝撃のせいで救難信号の受信が途絶えがちになってきた。ドレイク少佐は艦長に進言した。


「艦長。フローティングレーダーが氷塊にぶつかる頻度が多くなってきました。救難者のいる場所に近づいている証拠ですが、いつまでフローティングレーダーがもつかわかりません。フローティングレーダーの収納をお願いします。現時点での救難信号の発信場所の座標は大まかではありますが抑えています」


「わかった。フローティングレーダーは一基だけだからな。壊れてしまっては元も子もない。慎重に収納してくれ」


「了解しました。ただちに収容します」


 ドレイク少佐は収納操作を行い、収納したフローティングレーダーを点検し、損傷個所がないか確認するよう保安部のクルーに指示した。この収納によって、ポセイドンは盲目状態になった。これからは、救難信号の場所の座標に近づき、ソナー担当のヒックス少尉の判断で氷の薄い地点で氷を破って浮上するしかないのだ。

 

いよいよヒックス少尉の判断がポセイドンの浮上位置を決めることになる。彼女は緊張感で身体の血が引いていくような感覚に陥ったが、気を取り直して「私がやらなくて誰がするのよ」と自分を奮い立たせて、ソナーの反応により集中した。



 ― ノルウェー海軍の潜水艦「フレイヤ」 ―


「艦長。次第に海面上の氷塊の数が増えてきました。そろそろ上陸したほうがいいかと思います。これ以上進むと確実に氷塊の数と大きさが増してきますから、本艦が浮上した際に、艦の外郭に損傷を受ける可能性が高まります」と航海長が艦長に行った。


「うーん。救難者との距離はどのくらいだ?」


「約十㎞です」と航海長が計器を見ながら答えた。


「十㎞か。・・・ジェットボートで何㎞まで近づけるかな。その後は徒歩で救難者のところまで行かなければならない。天候が安定していればさほど問題ない距離だが、吹雪に巻き込まれると二次遭難になりかねない」と艦長は独り言を言うようにつぶやいた。


 しばらくの沈黙がブリッジの中に流れた。


 それを破るように航海長は言った。


「艦長。天候はますます不安定になり、ブリザードになるとの予報が出ています。今なら、ジェットボートを出して救難者を救出させることが取るべき方策ではないかと思いますが」


「そうだな。天候はいつ急変するかわからない。・・・よし、エンジン停止。ジェットボートの出動準備はできているか?」と艦長は航海長に尋ねた。


「はい、整備はできていますのでいつでも出せます」


「よし、これより本艦は浮上する。すぐにジェットボートで救難者の場所に近づける場所まで行って、後は徒歩で救難者の場所を探し出し、救出しなければならない。できるか?」


「できるも何も。UFF(国際連邦艦隊)のポセイドンが救出に向かっています。彼らを出し抜かねばならなのです。・・・答えは一つしかないでしょう」と航海長は艦長に半ば指示するような口調で答えた。


 ノルウェー海軍の潜水艦は浮上し、海面を目指してゆっくりと、慎重に深度を下げていった。


 彼らのジェットボートは有効に機能するだろうが、ジェットボートが進めなくなった後は、徒歩で救難者の居るところまで果たして無事にたどり着けるだろうか。たどり着けたとして、救難者を救出して再びジェットボートまで戻ることができるだろうか。


 ポセイドンもノルウェー海軍と同じような悩みを抱えている。一方は、仕事、義務、責任感で。もう一方は名誉と面子を重んじた緊張感の中で救出作戦を遂行しようとしている。立場、置かれた境遇は違うものの、救難者うぃ救い出そうとする意思には変わりはない。

 両者を区分できる概念は何か。それは積極的な責任感と、受動的な緊張感に集約さるだろう。


 その両者を比較したところで、救難者を救出するという共通事項が存在することには変わりがない。概念上、共通項が存在するとなれば、最後に両者を区分するものは何になるのであろうか? 共通事項に向かっていく過程における人間の判断、技術、道具の差が両者を非常にも分けることになる。

ある意味ではスポーツと同じだ。ただ、スポーツと異なるのは、たとえ勝者となったとしても、裏舞台での活動なので、メダル、表彰状、名誉、世間からの賞賛は彼らに与えられない。


 しかし、両者はそれらを得るために活動しているわけではない。個々のレベルでは違いがあるだろうが、共通しているのは“信念”である。彼らの“信念”が実行に移される時、おそらく両者の間に衝突が発生するだろう。予測ができるのはここまでだ。その先は誰にもわからない。



 ― グリーンランド沖のノルウェー調査隊 ―


 ノルウェー調査隊の派遣班は、依然として悪天候のため動きが取れなかった。


「誰かこの救難信号を受信してくれているかな」と調査隊員が不安そうに言った。それに対し、隊長はすぐに反応し間髪入れずに言った。


「必ず誰かが聞いている。言語は違えども、救難信号は万国共通だ。通信機のトラブルはないから必ずどこかの受信機に引っかかるはずだ。それを期待するしかない」


 こうした極寒の地において悲観主義は禁物である。一人の何気ない一言で、チーム全体に張りつめていた糸が切れてしまうかもしれない。個々の人間が糸の切れた凧のようにバラバラになり、利己的な行動に走りかねないことを隊長はよく知っているからだ。


 キャンプファイヤーの時のように、明るく、歌や手拍子をするまでにはいかないが、無駄な動きをせず、寡黙を貫き通すことが、ここで生き延びるコツである。それを彼らはよく理解していて、誰一人としてその場の空気を乱す者はいなかった。ただ、デジタル電波時計だけが正確に時を刻んでいくだけだった。それが砂時計でなかったことがせめてもの救いだ。デジタル電波時計も砂時計も時を知らせる点では同じだが、ひっくり返さない限りは、砂時計には必ず終わりが訪れるという点で、大きな違いがある。

 彼らは冷酷なデジタル電波時計の虜になった。何かをしゃべることもなく、何かを聞くこともなく、蝋人形になったように同じ場所で同じポーズでかろうじて命の灯だけは消えないようにひたすら我慢しているのだった。



 ― ノルウェー海軍潜水艦「フレイヤ」 ―


 全速力で浮上地点に向かっていたノルウェー海軍の潜水艦「フレイヤ」は予定通りに海面に浮上した。海面にはあちらこちらに氷塊が浮かんでいたが、「フレイヤ」の艦体には傷一つ付けることなく、その浮力で押し上げられ、海上に拡散していった。

 天候は曇り空であったが、風速は毎秒五m程度で、今のところは天候に不安材料はなかった。また、海軍本部から送られてくる天気予報でも、これから悪天候になるような気圧配置ではなかった。


「フレイヤ」のハッチが開けられると、一気に冷気が艦内に入ってきた。しかし、普段からよく訓練された海兵は規則正しく、すばやくブリッジから甲板に出て、船外機付きのゴムボートの離艦準備作業を、無駄な動きなく、一人一人の役割分担に従ってメカニカルなほどに効率的に進めていった。

上陸班の責任者である大尉は、離艦作業が終わったことを確認してから、上陸班の海兵を整列させ、彼らに向かって大きな声でゆっくりと呼びかけた。


「我が同胞の救難者の場所はここから約十㎞先だ。長い移動距離になる。天候はいまのところ安定しているようだが、これから先はどう変化するかわからない。しかし、救難者を救出することが我々の使命だ。一刻も早く彼らの極寒のテントから救出するのだ。海軍本部からの情報によると、UFF(国際連邦艦隊)の潜水艦も彼らの救出に向かっているそうだ。UFFに負けるわけにはいかない。ノルウェー人はノルウェー人によって救出されるべきで、UFFなど関係ない。よって、時間の勝負になる。彼らのテントまで強行軍になるが、同胞が生死の境を彷徨っているのをこちらの世界に引き戻すのは、我々ノルウェー海軍でしかない。決してUFFに先んじられてはいけない」と大尉は上陸班のメンバーを前にして訓示した。


 上陸班のメンバーは、大尉のいつもより厳しい口調を感じ取って、ナーバスになったが、同胞を救出するという義務感も同時に生じ、彼らの士気は高まったのだった。

 上陸班を乗せたゴムボートが離艦し、一定の距離に遠ざかったことを確認して「フレイヤ」の副長は言った。


「全員、出航体制。早くしろ」


 搭乗員はすぐさま各自の役割に従って、持ち場に散っていった。最後の搭乗員がハッチの中に消えた数秒後には、潜水艦はゆっくりと前進し、北極海に向かって進んでいった。潜水艦の動きは見た目には規律正しく、無駄のない動きであったが、一方のゴムボートに乗った上陸班は、極寒の氷原を片道十㎞にも及ぶ行軍に耐えられるのであろうか。上陸班に選ばれたメンバーは雪中行軍の経験がある者から選抜されたわけではなく、単純にシフトについていた保安部員から年齢の若い者を選んだのだった。


 上陸班が望むように無事に救援隊を救出できればいいのだが、同じ使命を帯びたUFFポセイドンの存在はどう位置づけられるのだろうか。二頭政治が陥りやすい相反命令に似た状況になりかねない。


 ノルウェーの潜水艦「フレイヤ」は潜水地点で次第にその艦体を海中に沈め、溶け込むようにその影は北極海に消えていった。ゴムボートの上陸班を収容する地点に向かったのだ。海面は潜航によって波が激しくぶつかり合い、白色の泡が踊るように上下左右していたが、時の経過とともに次第に本来の穏やかさを取り戻し、何事もなかったように北極海の凍りつきそうな波をたてていた。海中には「フレイヤ」が潜航しているのだが、海面を見ているだけでは、まったくそんな事はわからない普通の海原が広がっていた。



 ― 同時刻のポセイドン ―


 UFF(国際連邦艦隊)ポセイドンは、ノルウェー海軍の潜水艦「フレイヤ」が遭難したノルウェー調査隊の救出に向かっていることなどまったく知らなかった。そもそもノルウェー海軍だけの判断で救助に向かったわけだから、UFFにもその情報は伝わることはないわけである。


 ポセイドンは「フレイヤ」とは違って、できるだけノルウェー調査隊の近くまで本艦で近づき、浮上して本艦から救援隊を送り出す作製を選択した。よって、氷原の深部まで入り込むことになるので、慎重に潜航していた。


 航海中のポセイドンのドレイク少佐は、北極海を含めて世界中の海中を航行した経験はあるが、これほど北極海の深部にまで入り込んだ経験はない。北極海の深部はまだ海図データがそろっているわけではないので、いつものようにコンピューターに頼りっきりにしてはいられない。もちろん、艦内から外部の状況が見えるわけでもなく、まさに限られたデータと経験と勘で操舵しなければならないのだ。ドレイク少佐はとても緊張しているのが見て取れ、声をかけにくい雰囲気であった。


 北極海のある地点にポセイドンは近づいていた。ソナー担当のヒックス少尉はさっきから神経質そうな表情でソナー音を聞き取っていた。一方で、通信担当のモントゴメリー大尉は浮上地点の座標をデンマーク政府に打電した。


「航海長、ポセイドンと海底との距離はどれくらいだ?」


「今はまだ二百mぐらいあります。ソナー反応から割り出したデータをそちらに随時送ります。ただし、このまま進めば、まもなく海嶺の頂にさしかかりますので、海底との距離は五十mくらいにまで接近します」


「う―ん。この先は急に水深が浅くなっているようだな」


「どうした、少佐。ここから先は進めないのか?」


「いえ、速度を落として慎重に進めば問題ありません」


「事前にわからなかったのか」


「はい、このあたりの詳細な海図データは未調査のためか、コンピューターのデータバンクにありません。海図データがある地域は限られていますので、どのコースを取っても、海図データのないところだらけです。そのため、ノルウェー調査隊の位置に最短距離のコースを選択しました。よって、転進しても目標地点に到着するまでの時間は遅くなるとと思われます」


「そうか、わかった。では、このままのコースを進もう。・・上には氷原。下には海底。まるでサンドイッチ状態だな。ヒックス少尉、ソナーでポセイドンの上部の氷塊の突出部と下部の海底の突出物の間の距離を計測してくれ。モニターしたデータはオンタイムで航海長に送るように」


「了解しました」とヒックス少尉は艦長に答えた。


「速度を四分の一まで落とします」と航海長のドレイク少佐は艦長に告げた。


「よし。ゆっくりと慎重に進もう」とティエール艦長は言った。


キャサリン少尉は少しの気の揺みも許されなかった。ソナーの反応をモニターして突出物との接触を避けなければならなかった。


「航海長、海底との距離が五十mまで迫ってきました」


「わかった。このまま海底との距離を五十mに保っていこう。ヒックス少尉、特に上部の氷塊の突出物に注意してくれ」


「了解しました」


 海底との距離を一定に保てば、下部より上鵜の突出物に注意を払えばよいからだ。しかし、氷原といっても地上に出ている部分は風などの天候によって、見た目には平らな形をしていても、海中に沈みこんでいる部分は凹凸だらけだ。いくらソナーで探査しても、正確な場所特定には至らない。今のところ、上部の氷塊とは距離が十分に

あるのでよいのだが、この先、さらに水深が浅くなると、安全な航海を確保できない。だからといって、航行コースを安易に変更するわけにもいかない。このまま最短距離のコースを進まなければならない。


 リスクを承知でしなければならないのだ。過酷な状況下におかれている者は、そのリスクに立ち向かわなければならない内在した任務があるのだ。



 ― 数時間後のポセイドンの司令塔 ―


「艦長、浮上地点の座標に津着しました」と航海長のドレイク少佐がティエール艦長に報告した。


 航海長のドレイク少佐とソナー担当のヒックス少尉の見事なコンビネーションプレーで、ポセイドンは無事に浮上地点にたどり着くことができた。


それまで、ずっと腕組をしたまま、うつむいて目をつむっていた艦長はパッと目を見開いて航海長に歩いて行った。ヒックス少尉はホツとしたのか、大きくため息をしてずっと耳に当てっぱなしだったイヤホンをそっと計器の上に置いた。


「よし、逆進懸垂、艦を停止させろ。航海長、上の氷の厚さを計測してくれ」


「艦は停止しました。・・・でました。氷の厚さは約二mです。ポセイドンを中心点にして、半径五百m以上はほぼ同じ厚さが維持されています」と航海長は報告したよし、それならいけるぞ。HY150チタン外郭の強度をもってすれば氷を破って浮上できるぞ。航海長、艦へのダメージを最小限にして浮上するための、発進地点の座標と速力、それと浮上仰角を算定し、発進地点へ艦を移動させてくれ」


「了解しました」


「コースセット完了。後は自動航行とします」


「よろしい。艦内全員に耐衝撃体制を発令。では、発進。それから、キャサリン少尉。計器が氷との衝突警報を出すが、君もアクティブソナーで計測して、衝突のタイミングを教えてくれ。過去の事例があまりない運行だから、コンピューターといえど、データベースに一抹の不安が残る。アナログかもしれないが、君のソナー解析の方が安心できるからな」


 艦長はヒックス少尉の方を見て、少し微笑みながらそう言った。警報音がブリッジ内でも響き渡った。


「はい、了解しました。衝突の少し前に『あと何秒で衝突』と言います。少佐、コンピューターの示すタイミングと違ったらごめんなさい」


「なに、構わんさ。私も艦長と同じ意見だ。コンピューターといえど、そのデータベースが今回のような極めて稀な浮上に対し、正確なプログラムを組み立てているかどうかはブラックボックスの中だからな」


 それを聞いたヒックス少尉はコクリとうなずいて、計器の上に置いたソナー用イヤホンを再び手に取り、耳にセットして、目の前の計器の波形、数値を見逃すまいと身構えた。


「司令塔内の警報音を切ってくれ。集中できん」と艦長は指示した。


警報音が鳴り止むと、いつものブリッジより静寂な空気が周囲を支配した。こんな分厚い氷を破って浮上するなど初めてのことなので、クルー全員が神経質になっていたのだ。


ポセイドンは自動航行システムによって、浮上するための発進位置に移動していた。艦内にいるクルーには移動している実感は感じ取れなかったが、ブリッジ内の計器はゆっくりとしたスピードで動いているポセイドンの艦影を表示していた。そいて、氷にぶつかった時の衝撃に備えて、司令塔内のクルーは身近な所にある手すりなどにつながった。その手には、まだ、力は入れていなかったが、手の平からかすかな汗がにじんでいた。


 ポセイドンは旋回を始めた。いよいよ発進する時が近づいてきた。艦首の回頭が止まってから、数秒間の停止状態があった次の瞬間、ポセイドンの内部磁場式超伝導電磁推進システムが一気に前進加速に切り替え、艦は緩やかに仰角をつけながら加速していった。ついに海上の氷をめがけて浮上していった。この場合、浮上というより衝突を自ら選んで全速前進しているといった方が正確だ。


「現在の速力二十ノット。なおも加速中。衝突まであと十五秒」と航海長は言った。


この音声は艦内すべてに伝えられていた。クルーの中には、神に祈りを捧げるポーズをする者、自分のベッドにしがみつく者などみんなそれぞれ衝撃に備えていた。また、艦首に近い場所にある魚雷発射室では、チーフがもう一度、魚雷の固定フックのロック状態を確認し、すぐに他のクルーと同様に配管を抱きしめるように体を密着させた。


「衝突まであと十秒」


「・・・・・」


 それを聞いた司令塔内のクルーは無言だった。その沈黙を艦長の言葉が打ち破った。


「ヒックス少尉、ソナーの反応はどうだ?」


「衝突まであと百二十m」


「距離ではなく、時間にしてどれだけかわからんのか?」


「ソナーの能力には時間単位のアルゴリズムは定義されていません」とヒックス少尉は大声でしかも早口で艦長に訴えるように言った。


「衝突まであと五秒」


 この時点になると口を開く者は誰もいなかった。ヒックス少尉もそれまでイヤホンを両手で抱えるように手を当てていたが、今はその両手をソナーの装置をつかむようにして衝突に備えていた。


 航海長は自動航行システムに操艦を委ねている責任感からか、泰然自若の姿勢で計器の数値、表示を自分の目で確認していた。


「衝突!」


航海長とソナー担当のキャサリン少尉がほぼ同時に叫んだ。


「ゴゴゴーーッッ」


ポセイドンの艦首が北極海の氷の壁に突き刺さった。衝突の衝撃がポセイドンの外郭全体を覆いつくし、クルーは経験したことのない衝撃に見舞われた。それは魚雷の爆発衝撃とも感覚的に異なる衝撃であった。クルーの中には、衝撃によって翻弄され、まして通常の浮上とはことなり、仰角のついた衝突であったため、低い場所に放り出される者もいた。艦内は騒然となった。航海長は衝撃によって椅子から転げ落ちたが、椅子に掴まりながらすぐに座席に戻った。


ポセイドンは氷を突き破り、艦首がいったん空中に出て、重力によって氷の上から艦体を氷の上に押しつけるようにして前方の氷を破壊した。遠くから見ていると、まるで巨大なクジラが海面からジャンプしように見えた。


「報告ッ」とティエール艦長は叫んだ。


 次々と各部署からブリッジへ報告がなされた。各所で浸水が確認された。しかし、クルーの俊敏な対応によってすぐに浸水は止められた。海面上で艦体が安定するのを待って、「ポセイドン」から救援隊が出動した。救援隊のメンバーは、保安部長のカスター少佐、ドクターのグスタフ少佐、との他では、保安部のキース軍曹とセラピ少尉の四名だった。四名は二台の雪上車に分乗し、先頭車にはカスター少佐とキース軍曹、二号車にはグスタフ少佐とセラピ少尉が

乗り込むことになった。


 ティエール艦長はカスター少佐に向かって言った。


「少佐、天候が悪いので肉眼による捜索には制限されそうだ。クレパスには十分気を付けて捜索に当たってくれ」


「はい、外の気象データからするとしばらく吹雪が続きそうですから慎重に進みます。しかし、早く救出してやらないとノルウェー調査隊の生命が危険にさらされます」


「確かにそのとおりだ。時間との勝負になりそうだな」


「救援隊のメンバーも同じような認識を持っているでしょう。では、行ってきます」



 ― ポセイドンの救援隊 ―


 ポセイドンの保安部を中心に、医療活動のための救出隊がポセイドンから、遭難したノルウェー調査隊を目指し、出発していった。彼らは人数をできるだけ少人数に絞って、第一義に彼らの場所確認、そして、医療行為が必要な場合にはそこで応急処置を行い、本格的なノルウェー軍による救援に委ねる作戦を取ることとした。調査隊全員をポセイドンに連れ帰ることになると、搬出用の車両や医療器材を持っていかなければならない。よって、調査隊の場所を探し出す前に自分たちが消耗してしますことになりかねない。


 ポセイドンからの救援隊には保安部長のカスター少佐が隊長となり、厚生部長のグスタフ少佐が副隊長になって、最小限の四名で牽引車付きの雪上車二台で極寒の北極海の氷原に向かって出発した。現在の天候は曇天であるが、いつ吹雪になるともわからない。気象衛星技術が発達した今でさえも天気予報など無きに等しい。ただ、現在位置の気圧の変化には絶えず注意を払っていた。この場所においては、それくらいしか頼るものがなかった。


 ポセイドンのクルーにとって、北極海の深部での任務は初めてだという者が多かった。よって、経験による天候の異変の察知など望むべくもなかった。ただし、一人を除いては。


その一人とはカナダ人ではあるがエスキモーの末裔で、少年時代までは両親と氷原で暮らしてきた経験を持つ人物だった。彼の名はジャン・キース。階級は軍曹である。彼は少年の頃から勉学において優秀で、中学校時代にオタワにある高校に編入したくらいの頭脳明晰な青年だった。


彼はオタワの高校を卒業し、大学へ進学する道もあったが、授業料とアパートの家賃を払う目途が立たたないため、UFF(国際連邦艦隊)の募集に応募し、難関を突破してUFFに入隊した。その後の配属で、最初の任務が潜水艦での勤務だったにで、彼はそれを従順に受け入れ、以来、ずっと潜水艦の勤務に就いていた。ポセイドンに配属されてから二年経っていた。


 北極海での任務は彼にとって初めての経験であったが、彼が感じ取る感覚は少年時代に過ごしたあの頃と同じものだった。ノルウェー調査隊の捜索活動に向かううちに、彼の感覚は研ぎ澄まされ、エスキモーの血が彼を次第に支配し、野生の感性を取り戻していったのだった。


 彼は感じていた。間もなく天候が悪化することを。しかし、その感覚に自信があるわけではなく、科学的な証拠もないので他人を説得するだけの自信はなかった。胸につかえたものを抱きながら、キース軍曹は雪上車の中で揺られていた。


 カスター少佐らを乗せた雪上車は、氷原の上を慎重にルート選択しながら、ノルウェー調査隊の遭難場所を目指していた。クレバスや氷の突起物を避けて走っているため、大きく迂回せざるを得ないこともたびたびあった。よって、ノルウェー調査隊までの直線距離の数倍の距離を踏破しなければならなかった。これも出発時から織り込み済みであったが、実際に雪上車に乗っているクルーはなかなか目的地に着かないことにいら立ちを感じていた。


踏破中の安全を最優先にしなければならないことは十分理解していたが、時間が経つだけでなかなかノルウェー調査隊に近づけないでいる自分たちが歯がゆかった。カスター少佐も「到着まであとどれくらいかかる?」という質問を雪上車の運転手にしていたが、こんな状態ではその答えを出せる者はいないことはわかっていたので、グッとこらえて、無言に徹するようにしていた。時々、視線が合うドクターのグスタフ少佐も同じ気持ちでいた。


 ポセイドンのティエール艦長をはじめ、すべてのクルーは、同じ目的でノルウェー海軍が救援隊を出動させていることなど知る由もなかった。


その頃、ノルウェー海軍の潜水艦「フレイヤ」から出発した救援隊は、ポセイドンより遠い場所から出発したが、出発当時は天候に恵まれ、また、クレバスなど障害物にも遭遇しなかったので、順調にノルウェー調査隊との距離を縮めていった。彼らはポセイドンの救援隊が同じ目的地を目指していることを知っていた。彼らの頭の中にあるのは、ポセイドンの救援隊が到着する前に、ノルウェー調査隊を救出してしまうことであった。ポセイドンの後に到着したのでは意味がなかった。

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