第25話蛮勇カインと拳者の石9
「それで怪物をどうやって生け捕りにするおつもり何ですか?」とセルフマン。
「そうだぜ、兄貴。相手はネバネバドロドロした奴なんだろう?網で捕まえるってわけにゃいかねえよ」
鼻の下を指でこすりながらアルムがカインを見上げていう。
アルムの言葉を受け、カインは頷きながら説明を始めた。
「ブロブの捕まえ方は、火で炙るか、熱湯でも掛けて弱らせ、そこを容器に押し込むか、
あるいは凍らせるか、それとも電流を通すか、酸で焼いて削っていくか、
ぶん殴って衝撃を与えてやるのもいいし、細かく切り刻んだり、
いっそのこと大量の塩を撒いてやるのもいい、ただ、どれも加減が必要になる。やりすぎると死んでしまうからな」
「それに費用の問題も出てきますね。熱湯を作るには大量の水と大釜、それに薪や炭も必要になってくるでしょうし。
それだったら、手間を掛けずにそのまま火で焼いたほうがいい。
凍らせるにしても電気を流すにしても魔法の心得がない限りは、マジックアイテム頼りになるでしょうし。
そのマジックアイテムだって、タダではありませんからね。
ここで一番安上がりに済みそうなのが、炎で直接、ブロブを燃やすか、大量の塩を撒くかでしょうか。
今年は塩の値段が安くなってますからね。
それに誤って殺してしまったり、そのどちらにも失敗した時のことも考えないと」
ここら辺のセルフマンの意見は、商人ならではと言えるだろう。
商人の基本は安く仕入れて、高く売るである。
どれだけコストを抑えて、儲けを出すかというのも商人にとっては重要だ。
生け捕りにすれば金貨五十枚、そのコストを金貨五枚で済ませれば、儲けは金貨四十五枚になる。
だが、金貨十枚の費用を払えば、利益は金貨四十枚だ。
それに失敗してブロブを殺してしまえば、受け取れる賞金は金貨で二十枚。
そうなると、金貨五枚の経費ならば、手元には十五枚の金貨が残る。
これならば儲けとしては悪くない。
だが、金貨十枚の失費になれば、報酬の半分が消える。
そして生け捕りも殺すことも出来なければ、掛かった経費分、こちらが損を被るだけだ。
そこへ言葉を継ぎ足すアルム。
「だったら塩が一番良さそうだぜ。だってよ、こんな街中で火なんか使ったら、それこそ火事になっちまいそうだしよ」
「ふたりの言うことももっともだな。となると、塩が良さそうだ。
他の賞金狙いの連中もすぐに塩を思いつくかもしれんぞ。早めに買っておくとするか」
「確かに。では今すぐにでも買いに行きませんと」
他の連中に塩を大量に買われ、値上がりしてはたまらないと、セルフマンが少々急かすような口調で言う。
需要と供給が物の値段を決める。これも商売の心得の基本の一つだ。
「まあ、待て。そう、急かすな、セルフマンよ。もう少し俺は調べておきたいのだ」
灰色ブロブが現れたという川の水面を眺めるカイン──この蛮人は川に漂う藻を調べていた。
ブロブは雑食性であり、このモンスターが通った跡は川藻がごっそりと無くなっているのだ。
そこでカインは事件現場に戻ると、ブロブが這いずり出てきたという川辺の箇所を調べ始めたのである。
「なあ、何かわかったか、兄貴?」
畔(ほとり)にしゃがみ込んでいるカインにアルムが声をかけた。
「大きさは人を三人ばかし飲み込めるくらいだな。となると、少々計算が合わん。
転がっていた人骨はもっと多かったからな」
立ち上がったカインが畔を一周する。すると、ある箇所で立ち止まり、水面を指さした。
「ここにも藻がごっそりと食われている。となると、ブロブは少なくとも二体はいるだろうな」
「二体ですか。となると、上手く言えば金貨百枚ということもありますね」
「両方とも同じ灰色ブロブであればな」
そこへ石畳を踏みしめる音が聞こえてきた。カインが後ろを振り返る。
見るとあの時の衛兵が立っていた。
「この前の衛兵か」
「そういうあんたもあの時いた戦士だな。賞金目当てか?」
「ああ、そうだ。灰色ブロブをどうやって生け捕ろうか、思案していた所よ」
「生け捕りか。だが、あまり無茶はしないほうがいいぞ。命あっての物種だ」
「ふむ、忠告痛み入る。所で今回のようなことはいつも起こるのか?」
そこで衛兵は首を横に振ってみせた。
「いいや、このカルダバの街は、比較的治安が良いほうだ。
外では野盗やモンスターが出没するが、街中にまでモンスターが入り込むことは極めて希だよ。
衛兵を務めて、もう八年になるが、街でモンスター絡みの事件に遭遇したのは、数える程しかない。
それよりも強盗殺人や泥棒、物取りなんかの人間絡みの事件の方が格段に多いな」
「下手なモンスターよりも人間のほうが面倒で厄介か?」
カインの言葉に衛兵が頷き、肯定した。
「まあな。俺が見てきたモンスター達が人を襲う理由は、単純に腹が減っていたからだ。
それで目の前に食えそうな人間がいたから襲った。それだけだ。
人間は違う。金銭欲や憎しみ、妬み嫉み、あるいは自らの快楽の為に殺人を犯す。
俺はこの街で、そんな連中を何人も見てきたよ」
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