#9 BTF

 そこまで思い出したところで僕は高校生の自分に帰ってきた。


 原因は意識の外からの干渉。認識の外より受けた外圧。


 なんて格好良いものじゃない、ただの完全下校を知らせる聞き慣れたチャイムの音によって僕の無心は遮られたのだ。


 気が付けば、太陽はすっかり沈んでしまい、その姿は微かにしか確認できない。

 僕の良く知る街には人工的な光が満ち始めている。


 ああ、もうそんな時間か…クソ、何か思い出せそうだったのに。


 ていうか寒い。冬の寒さに負けすっかり凍えてしまったみたいだ。

 くそ、流石に夕方は冷え込むな。思わず小さく身震い。

 でも、この寒さも無駄なことばかりじゃない。それで得たものもある。

 それが唯一の救い。


 どうやら、僕の空白の正体のカギは『彼女』だ。そしてそれはきっと亜希子の話にも繋がる。何故かは分からないけど、そんな気がする。それが解っただけでも収穫と言えるだろう。


 チャイムの邪魔がなければなぁ。くそ、もう思い出せない。


 すっきりしない頭を掻きながら僕は教室に戻る。

 自分の鞄を回収し、帰路に着くために。


 あぁ今日の晩飯なにかな…鯛の煮付けとか食いたいなぁ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る