鼻ほじりしか取り柄のない俺が異世界に行ったけど何とかなった
おっぱな
第1話 鼻ほじりの天才
「お願いだ! 姫様の鼻をほじってくれ!」
「早くほじれつってんだろ!!!」
王の間と呼ばれる西洋風な建物の内部で俺はベッドに横たわる金髪の少女の鼻を今まさにほじくるように屈強なガタイをした男とエルフの少女に懇願されている。
"鼻ほじり"または"鼻糞ほじり"
それは世界から拒絶された人間の動物的な本能。
鼻糞が溜まれば鼻をほじり。
好きな人に告白して振られてしまったら鼻をほじり。
命の恩人だと思っていた師匠が実は親を殺した宿敵だと知って鼻をほじる。
鼻をほじる行為は汚らしい仕草であるが故に世俗から拒絶され、鼻をほじる者はまるで薄汚れた雑巾のように忌み嫌われる。
そんな世界の底辺にいる俺を取り巻く環境はガラリと変わった。
□ □ □
一週間前。私立オリハルコン中学。
「寒空の下、ベンジャミンは言いました。『人は皆、平等だ』と... ...」
「はい。よろしい!」
学校と言われる未成年者を隔離する施設に俺は今、囚われ、義務教育という名のもとに束縛をされている。
軍隊のように乱れなく机が並べられている様を見ると吐き気を催す。
綺麗に洗濯された制服に身を包み、将来役に立つかどうかも分からない授業を聞く事は俺にとっては苦痛そのもの。
心の中では何を考えているかも分からない大人を教師という肩書きだけで信用し、耳を貸す生徒達には恐怖すら覚える。
クラスに友達?
いや、俺には友達はいない。
やさぐれた性格が原因で友達が出来ないの?
はっ。笑える。
それは違う。
大きな間違い。
性格が問題なのではない。
この学校に入学してすでに2年7か月経つが、俺は入学してから一度たりとも教室内で言語の類を発した事がないのだ。
寝ている時に身体がビクッとして「うっ!」とか言ったり、不良に足をけられて「うっ!」と言ったりしたことは何度かある。
まあ、基本的に「うっ!」しか言っていない。
みんなも経験則から考えてみて欲しい。
「うっ!」しか言ったことがない人間を嫌ったことがあるだろうか?
「気持ち悪いなー」と思ったことはあるかもしれないが、嫌った事はないだろう。
嫌悪感と人を嫌うという行為は漢字だけ見れば同じような部類に属されるが事の本質は違う。
それはまあ、時が来れば説明するとしよう。
有り余る時間を持て余し、退屈な教師の授業をBGM代わりにして俺は今、偽物のように青々としている空と木枯らしに揺れる一枚の葉を窓越しに眺めながら己の鼻に指を入れる。
... ...ほう。
今日の鼻糞は空気が乾燥している故に粘り気があるな。
もう、そんな季節か。
鼻をほじりながら冬の訪れを感じた。
鼻から収穫した鼻糞はあるHOTなスペースに移動される。
机の裏の事を俺は”ターミナル”と呼び、鼻糞を溜めて置く場所としていた。
鼻糞は武器にも、非常食にもなる万能品。
アフリカのとある民族は鼻糞を薬として服用するらしい。
鼻糞は偉大で嘘もつかない。
裏切ることもない。
兎に角、鼻糞は溜めて置いて損はないのだ。
いつも通り、俺はターミナルに鼻糞を溜めて置こうと思い机の下に手を伸ばした。
ん?
いつもとは違う感触。
手を広げ、掌全体でその不思議な感触を確かめ机の下を覗く。
そこにはセロハンテープで止められている一枚の紙があった。
不思議に思いながらもその紙を机から剥がし机の上に広げると「放課後、屋上にて待つ」と達筆な字で文章が書かれていた。
果し状?
それともラブレター?
まあ、どちらにしても俺には放課後の屋上に呼び出されるようなことをした覚えはない。
俺はノータイムでこの呼び出しを拒否することを選択し、放課後、屋上には行かずに帰宅した。
□ □ □
今日の晩御飯は肉じゃがと白飯。
ウチは父親の方針でオカズ一品と白飯しか出さないという掟がある。
... ...掟。
と言ったが、まあ、単にビンボーで一品しかオカズが出せないといった家庭の事情があるだけだ。
俺は、副島家長男として生を受けた。
父親はバリバリのサラリーマン。
何の仕事をしているかは不明だがバリバリのサラリーマンってことは知っている。
また、家がビンボーな原因はこの父親の影響が大きい。
簡単な話、バブルの頃に地方の土地を購入し、バブルが弾けて土地の価格が大暴落。
当時1000万で買った土地の値段は今では100万円未満。
ウチは家を建てる予定もないのにその土地の固定資産税と草刈代金を毎年支払っている。
そんな土地早く処分すればいいじゃないか。
と思う人もいるかもしれないが現実問題として土地は売れない。
売りたくても買い手がつかなければ処分は出来ない。
確か、東北の方の土地だった気がする。
一度だけ家族でバーベキューをしようとその土地上で行ったが、海が見える素敵な場所だった。
普段は厳格な父親で威厳もあるが、”土地””投資”という言葉を聞くと顔を強張らせ、トイレに駆け込んでしまう。
相当辛い思いをしたのだろう。
俺も母親もトイレに駆け込んだ父親が帰って来た際に暗黙の了解で何も言葉を掛けないようにしていた。
母親はビンボーな家庭を支えようと金魚の養殖工場でバイトをしていた。
普通にスーパーのレジ打ちの仕事で良くない?
と母親に以前、質問をしたことがある。
その際、母親は「んー。そういうの性に合わないのよね」と回答。
それを聞き、「じゃあ、金魚の養殖のバイトは性に合っているんだな」と思い、少し嫌な気持ちになった。
あと、年の離れた妹がいる。
妹と言っても訳あって一緒には暮らしていないのだ。
そういえば、一年近く会っていないな。
まあ、俺はそんな家族に支えられながらこの歳まで成長していった。
晩飯を食べ終わり、部屋に戻り、ベッドに横になると疲れていたのかすぐに睡魔に襲われる。
TVを見てもつまらないし、学校の宿題もやりたくない。
俺はそのまま、睡魔に身を委ねることにした。
□ □ □
「おい! お前! なんで、放課後、屋上に来なかったのよ!」
お腹に程よい重さを感じ、目が覚めると目の前には緑色の大きな瞳をした金髪の少女が俺に馬乗りになり何やら叫んでいる。
カーテンの隙間から差す月明かりに照らされる少女はまるでサキュバスのように妖艶な姿をしている。
美少女の登場にフガフガ言おうかと思ったが、急に起こされてイラッとし、少女の言葉も鼻についたので止めた。
そして、第一声に選んだ言葉は昔から使われ過ぎて今じゃ全く言われないような言葉。
「... ...夢?」
少女に語りかけたつもりはないのに少女は俺のダサイ言葉に対して回答。
「夢? だったらいいのにね。あたしはこれからあなたを攫う。私達の国を救いなさい」
右下斜め45度から見る少女は完全なドヤ顔をかましていた。
恐らく、これが言いたくてしょうがなかったのだろう。
______これが、冒頭のシーンの一週間前の出来事。
突如現れた少女に『国を救え』と馬乗りでお願い______命令される。
正に寝耳に水、もとい、寝鼻に水とはこの事。
しかしながら、今となって思い返せばこのシーンは典型的かつ理想的なボーイミーツガールな物語の始まりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます