第6話 早く!

 黄昏時。俺たち三人はテレビに見入っていた。史上最も売れた某魔法使いが活躍する作品の、スピンオフ作品の映画のCMである。たった数十秒のCMだが、見入っていまうほど作品に引き込む力があった。


 CMを見終わりリュツィに目をやると、予想通り瞳をキンキラさせている。そして俺にバッと向き直ったかと思うと、


「トオル! わたしあれ見たい! ナントカ・ビースト! すごく面白そう!」


 半ば立ち上がるようにして欲求を飛ばしてきた。イナズマボール並みの勢いで。そんなに見たいなら名前くらい覚えましょうねリュツィさん。


「……そうだな。実は俺もすごく見たい。なにせ前作見てるし本も一応最後まで読んだからな」


 何度も見直すほどファンというわけではないが、やはり映画も原作も一通り楽しんだ身としては見たいと思わざるをえないの。しかし俺は重大な作品を見逃してしまっている。ストーリに影響するわけではないが、重大な作品を。そう、ウィザーディングでワールドなかのアトラクションである。


「じゃあ見に行こう! いま見に行こう! 見に行こうトオル!」


 テーブルを両手でバンバンたたくリュツィ。近所迷惑だからやめましょう。


「リュツィ様。私たちはトオル様に厄介になっている居候の身。あまりわがままを言うのは道義に反するのでは……」


 湯呑みを口から話して至極真っ当なことを言うアリス。その言は的を射ている、ように思えるが当の本人は顔に見えずともかなりくつろいでいらっしゃる様子。さすがアリスさん、言ってることとやってることがそこはかとなくズレてます。あと聞きたいんですがウチをインベイドしたことは道義に反さないのでしょうか? ああそう、そうですか。


 アリスの諫言を聞いたリュツィは、「ぐぬぬぬぬぬ……」と腕を組んで考える素振りを見せ、だが、


「やっぱりムリだー! なあいいだろー!? トオルぅ~!」


 手を上げて我慢ならないと叫んだ。


 俺は「ふむ……」と顎に手を当て格好つけてから、


「いいだろう。だが……条件がある」


 と交渉をするルル様みたく言った。


「条件……?」


「ああ。それは……」


 と俺は溜めてから、


「前作七作品を全部見ることだ!」


 とトリックを明かすゼロみたく言った。フフフフフフッ! 


 リュツィはそれを聞き、しばし固まっていたが、やにわに、


「わかった! 全部見る! それで見に行けるなら! さあ見よう!」


 シュビッと挙手をして宣言した。


「そうか。わかった。リュツィがそこまで言うなら、やってやろうじゃないか」


 と微笑を浮かべて言ったはいいのだが……、


「じゃあ今からTATSUYA行って借りてくる。帰ってくるまで待ってろな」


 最後はあまり格好がつかなかった。


「わかった! 待ってる!」


 と言ったリュツィは、玄関でいそいそと外履きに履き替える俺を見て。


「早く早く! トオル! 一分で戻ってきてくれ! 一分でな!」


 ……いやいや、どんだけ早くても一分は無理だよ。たとえ家の前に店があったとしてもな。

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