Episode弐〜不思議な少年と鮮血の狼〜

*ある村の残骸跡地にて*

「………………緋狼フェイロウ、此処、は……?」

「グルルルルッ……」

「………………村……? 俺が最初はじめに壊した、あの……?」

「グルルルル……ッ」

目の前には赤茶けた土が剥き出しになり、元は綺麗だったのだろう屋敷の鮮やかな瓦や、煌びやかな装飾物が目を引いた。屋敷の傍には元々ヒトだったのだろう、白い骨の残骸と骨の上に覆い被さる様に生えた、一本の白菊。

「………………死の象徴シンボル・オブ・デス……」

人間離れした白銀の髪と銀色の瞳、雪花石膏アラバスターの肌をした少し痩せ型の少年がソッと、骨に被さる白菊を摘む。

「………………白菊の花言葉、は……『誠実シンセリィティ』と『真実トゥイスゥ』…………」

「グルルルルッ」

「………………誰も俺をこわそうとはしなかった。だから代わりに俺がこわした……」

「グルルルル……ッ」

グシャッパラパラパラ……ッ

少年は寂しそうな顔で白菊を握り潰した。

「………………他人ヒトを信じた俺が、馬鹿だったんだ……」

少年は哀しそうに呟くと深紅に染まった巨狼に跨る。

「………………行こう緋狼。此処にもう未練なんか、無い……」

「グルルルルッ!!」

主であろう少年の言葉に、巨狼フェイロウは一回嘶くと地面を蹴って真っ黒に染め上げられた夜空に、駆け上がっていった。


*巡察にて*

「だぁぁぁぁぁぁ! 暇だ! 暇で暇で暇でしょうが無い!」

「…………………………相ッ変わらず騒々しい……」

「なんや賑やかやね〜」

うららかな春が終わり、暑っくるしい夏が始まりを告げ始める、今日此頃。

『七つの大罪』メンバーの三人は巡察に来ていた。

大声で『暇だ』と叫んだのは『強欲の罪グリード・シン』を司る、アラモス・ラビアで、ソレを顔を顰めて聴いていたのは崇牢籠、関西弁風の軽い口調で笑ったのは同じ組織の『怠惰の罪レイズィーネス・シン』を司る、骸鳭からつきレンだ。

「ヒーマーだー!!」

「…………………………平和だ……」

「アラくん元気エエなァ〜?(笑)」

「アラくんと呼ぶなよ!?」

「…………………………ラビア五月蝿い……」

「えー? エエやん減るもんでも無いやろ〜(笑)」

巡察中とは思えない程暢気に会話する三人は慌ただしい声に一瞬で目つきを変える。

三人の前に騎士団の団員が倒れそうになりながら騒ぎの現状を教えてくれた。

「た、大変です! 紅い毛並みの狼に乗ったガキが……!」

「解った。……紅い毛並みの狼、ね?」

「…………………………面倒臭ェ事に……」

「あはっ仕事が増えたな〜?(笑)」

三人の中で暢気に骸鳭だけは笑っていたがその眼は三人の誰よりも鋭くなっている。

骸鳭は『怠惰の罪』だけあって本気を出せば恐らく『憤怒の罪』や『傲慢の罪』よりも強いかもしれない。それだけに彼は滅多に本気を出す事が無い。彼曰く『本気を出すまでも無いやろ?』という事らしい。

ドゴォンッ

「うわぉうごーかいだぁ?」

「…………………………今すぐ帰って良いかな……」

「駄目に決まっとるやろロウ君?」

牢はフード下の顔を顰めて使役獣が入った管を袖から取り出す。ラビアは背中から巨大な槍を嬉しそうに抜く。骸鳭は何も取り出さずに笑っているだけだが、彼には武器は必要無いのだろう。人呼んで『歩く鬼神ディマン・ウォーキング』なのだから……。

「さぁさぁ狼あーそびーましょー!」

「…………………………仕事増えた……」

「あっは! 楽しゅうなってきたやん?(笑)」

三人が騒ぎのあった方へ向かうと其処には鮮血に染まった巨狼とその背に跨った小柄な子供が騎士たちを圧倒的な力で押さえ付けていた。

「おぉ豪快だァ〜?」

「…………………………アレが……」

「お〜ホンマに真っ赤やな〜?」

「…………次はお前ら?」

子供が口をきく。フードで隠れた顔からは何も読み取れないが、身体から憎悪と嫌悪、殺気が溢れている。血色の狼も子供の意見に賛同するかのように『グルルルルッ』と嘶く。

ジャキッ

ラビアが巨大な槍を構える。

キュポンッ

牢籠が管の蓋を開ける。

骸鳭は髪を押さえて子供を見る。

グルルルルッ

子供を乗せた鮮血の狼が嘶く。

「…………血祭りに上げてあげるよ」

そう子供の冷たく凍り付いた声が響き渡った。









──こうして俺らは彼、夜月響鬼と出会った。

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