第2話『イワセ家の朝』
「タイキお兄ちゃん、もう朝だよー。早く起きないと~」
誰かが俺の体をわっさわっさと俺の体を上下にゆすってくる。けれど、俺の今の頭の中にあることは、あー眠い。以上。
「うーん、あと10分だけ…」
「それさっきも言ってたよ!お兄ちゃ~ん、あんまり起きないといたずらしちゃうよ?」
誰かが何を言っているのは分かるが、もはやその話を俺は聞いてない。俺の意識は即座に手放されているのだから。俺は思うんだが、二度寝というのは最高の睡眠に違いない。夜に寝るときなんかは眠れずに苦労することもあるけど、二度寝においてはそれがない!!素晴らしい、これは体が眠ることを要求しているに違いない。
覚醒からまどろみに入って現実世界から意識が離れんとしていく時が最高に気持ちいい…
…と俺が朝の癒しを堪能していると、急に俺の目を通じて視覚情報が脳内に送られてくる。
「うっ」
俺はついびっくりして変な声が出てしまった。いや、これは仕方がないだろう。だってこの俺を起こそうと奮闘していた人物は、あろうことか寝ている俺の両目をいきなりその小さな手で無理やりこじ開けてきたんだから。
「さすがにその起こし方はないでしょー」
朝のローテンションで俺はそんな悪魔のごとき所業をなしてきた人物、といっても俺の妹なのだが、に向けてしかめっ面を作ると文句を言う。
「だってお兄ちゃんったら起きないんだもんっ。イタズラされてもしかたないよね~」
えへへへと本当に楽しそうに笑っている。その屈託のない笑顔に俺はちょっとドキッとする。というのも、俺の妹であるハルナは『マジで』可愛いからだ!!これは、あれだよ?シスコンのひいき目とかじゃなくて本当に可愛いからね?
道を歩けば、道行く男たちがみな振り返るようなそんなレベルなのだ。その髪は俺と同じアジア系には珍しいベージュとグレーが混じったようなもので、絹のような艶やかでサラサラな髪は肩口ほどで切りそろえられている。瞳の色もまた同じくそれ。まだ幼さを感じさせる容姿ながらも、それがまた少女特有の可愛さを放っている。
あ、ちなみに僕はこのくらいの女の子がジャストミートです。
「まぁハルナなら許すけどね」
朝一番からの、ハルナのスマイルパンチを食らった俺は、美女を前にして少し気後れした男のようにちょっとそっけなく返してしまう。
「よかった。お兄ちゃんに嫌われちゃったらもうハルナ死んじゃうから!!」
「おう、じゃあ俺は寝るわ」
どんなに妹が可愛くても俺の朝の優先順位は決まっている。俺は先ほどの失敗を生かして、布団の中に潜り込む。布団の中にいれば目をいきなり開かれることはない。あの起こし方はいくらなんでもあんまりだ。
「ちょっと!?お兄ちゃーーん!!遅刻しちゃうよおぉぉぉぉ」
ハルナの悲痛な叫び声が響く。とはいってもこれもいつものこと、これが俺たち兄弟の朝の日課なのだ。気楽で楽しいそんな朝の日課。
布団の中でおれは誰にも見えない笑みを浮かべて眠りにつく。今日もいい夢が見れそうだ…。
それで結局どうなったかというとーー
「おいイワセ、なんでお前たちは毎朝毎朝遅れてくるんだ!!お前たちは登館時間しらないのか??もう、あきれ果てて物も言えんわ…」
――案の定、遅刻である。
「ういっす」
ようやく終わったぜ…とまるで一仕事終えたビジネスマンのような気分で俺は席に着く。
「本当にすいませんでした…」
ハルナが本当に申し訳なさそうにコーチに謝っている。普通は態度が逆なんじゃないかと思うけど、そんなことは関係ないですな。
自分の席に着く途中にハルナが歩きながらこちらをムッとした顔で見つめてくる。眉をしかめてほほを膨らませているそんな顔が怖いと本人は思っているのか知らないが、ハルナがやると可愛いだけでまったく怖くない。
俺はニヤリと笑うことで返事としておく。
遅刻して伸館に来た時にまずやるべきことは遅れた時間のうちに一体何をしていたのかを知ること。俺は席に座ると、デスクに設けられているVRグラスを装着し今日の授業に参上する。
ちなみに昔は学校のみで人を教育していたらしいが、今はそんなことは決してない。学校に入るためにはゼロによって学問の才があると認定される必要があるからだ。いわば学生というのはそれだけでエリートである。
そんな俺が通うのは伸館というゼロの統治が始まって新しく設立された、人々の能力を伸ばしより良い人材として社会に立つための教育を受けるための機関である。ここでは学問的なことも少しは扱うものの、生きていくうえで最低限度の量を学ぶだけ。学問の才はないと判断されたのだからそれが最善に違いない。
よし、では初めにVR席でもリアルの席でも隣に座っている俺の伸館一の友人に今日何していたのかを聞くことにしよう。
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