第23話 汚物は消毒だー

 モヒカン達は土下座の姿勢から急に立ち上がり、左右に分かれ整列する。どうやらお偉いさんがやってきたようだ。


 やって来た男はモヒカン達を率いるにふさわしい容姿をしていた!


 長いオールバックの髪は後ろで無造作に跳ねており、太めの筋肉質な体の上から特徴的な丸い肩当を付けていて、銃弾を模したベルトを両肩からクロスするように二本巻いている。

 極め付けは首に巻いた狐の毛皮だ。さらに口には葉巻を加えていたが、火はついていない。

 まさに世紀末! 特徴的なこの世紀末スタイル......ゲーム内でも見たことがある。


「兄弟! 兄弟じゃねえか!」


 世紀末な男は、ゴルキチが目に入ると駆け寄って両肩をガッシと掴んで揺さぶっている。


「君は?」


 体を揺すられて首まで一緒に揺れているゴルキチが問うと、男は滂沱の涙を流しながら、


「兄弟! 俺を忘れちまったのか! ジャッカルだよ! 兄弟!」


 兄弟、兄弟うるさいやつだな......。ゲーム内に居た世紀末な男と同じ名前だ。イチゴといい、ジャッカルといい一体何がこの世界に隠されているんだろう。


「すまない。記憶が全くないんだ」


「......そうか。ううむ」


 何やら意味深な表情の世紀末な男――ジャッカル。


「感動の再会のところすまないけど、ゴルキチと話がしたいんだが」


 俺はようやくゴルキチから離れたジャッカルに向けてけん制する。


「なんだてめえは!」


「わ、私はゴルキチの女だ!」


 一度モヒカンの前で言ってしまったから仕方ない。もうこれで通すぞ。恥ずかしい。

 俺の言葉に、ジャッカルはよろよろと数歩後退し、頭を抱える。


「そ、そんな。兄貴はきょぬうが好きなんだ! てめえみてえな奴を好きになるなんて」


 きょぬう......巨乳。おっぱいが大きい女の子。わたし、小さい。というか小さいというにもおこがましい。

 嫌な予感がしたので、ゴルキチを見てみると顔を真っ赤にしている。これは不味い。

 俺は叫びだしそうなゴルキチの口を必死で抑え、ジャッカルに顔を向ける。


「紅亀をさっき倒してきたんだ。解体を手伝って欲しいとゴルキチに伝えに来たんだよ」


「べ、紅亀を単独で倒しただと! こんな小娘が! おっぱいも無いのに」


 おっぱいは頼むからやめてくれ! ゴルキチが爆発してしまう。結構抑えるのも辛くなってきてるんだぞ!


「あ、ああ。ちょうどいい。全部は持っていけないから、買い取ってくれないか?」


 何とか話題を振らないと、ゴルキチが暴れだす。


「お、おお。いいぜ。俺たちは紅亀を倒しに来たんだからな」


 俺が「紅亀」を倒したと知ると、急に態度が軟化するジャッカルだった。これで少しは落ち着いてくれればいいんだけどなあ。

 ジャッカルが俺を見る目は、先ほどまでとは明らかに違う。「この小娘が! 兄貴に!」という態度から、一定の敬意を持った態度に変わった気がする。


「ご覧のとおり、馬車が一台しかないからな。人も俺とゴルキチだけだ。手伝ってくれると助かる」


「あ、あんた。名前は?」


「ああ、俺の名前はリベール」


「リベールの姉御。先ほどは失礼な態度すいやせん! さすが兄貴の女!」


 豹変しすぎだろ! 

 俺は怒りが収まって来たゴルキチを引きづり、モヒカン達と世紀末な男を連れ、海岸線へ向かう。




「あそこだ」


 俺が先ほど倒した「紅亀」を指さすと、ジャッカル達は開いた口が塞がらない様子だった。


「リベールの姉御、あんた一体......どうやって紅亀を倒したんでい?」


 どうやってって、難しいな。槍で突き刺したんだけど。

 素直に槍で突き刺したとジャッカルに伝えると、モヒカンも含めてものすごい叫び声をあげられてしまった。

 耳が痛い。こいつら基本的に暑苦しいんだよな。


「リベールの姉御。紅亀の討伐は人数で囲んで、消毒するんだぜ。硬くて武器が通らないからな」


 意味が分からない! 囲んで消毒ってどういう意味だよ。

 余談だがゴルキチが全く口を挟んで来ないのは、ずっと俺が口をふさいでいるからだ。すごく何か言いたそうな顔をしている。


「消毒......?」


「ああ、消毒だ! 油を撒いて火矢を射るんだぜ! ヒャッハー」


 ああ、そういうことか。まさに「汚物は消毒だー」をやっていたのか。ネタじゃないんだろうなあ。真剣にやっていたところに笑いがこみ上げてくる。

 それなら、俺の倒した「紅亀」の価値は高いはずだ。火で炙ってないから、死体は綺麗なはず。甲羅も継ぎ目以外傷がついていないのもポイントが高いだろう。


「解体は俺たちに任せてもらっていいかい?」


「ああ、やってくれるなら助かるよ」


 ジャッカルが解体をやってくるというので、願ったりかなったりだ。「紅亀」の甲羅は硬いから解体はやっかいだなあと思っていたところだったんだ。



「紅亀」の解体を引き受けてくれたモヒカン達を眺めながら、俺とジャッカルは分け前の相談をしていた。


 ジャッカルは「うちのアジトにぜひ」と言っていたが、いつ寝首をかかれてもおかしくない場所にホイホイついてはいけない。

 しかし、ジャッカルはリベールと入れ替わる前のゴルキチを知っている様子だったので、ぜひ情報が欲しいところなんだ。

 この場で話をする前にゴルキチと口裏を合わせたい。なので、何処か別の場所で話す機会を持ちたいというわけだ。

 まずは分け前の話から始めることにしよう。


「換金後で、三割くれればいい」


 ジャッカルは俺たちにお金を前金で渡すと言ってきたが、なるべく彼らにいい条件になるよう調整しようと思う。

 彼らにとって良い条件にすることで、頼みたいことがあったからだ。


「換金後、三割でいいのか」


 欲の無い俺の態度にジャッカルは目を見開く。


「解体してもらうし、運んでもらうし、素材も俺たちの馬車に積める分はいただくからな」


 そう、討伐以外は全てやってもらうのだ。ジャッカル達に譲っている形になってるが、俺からすると妥当にも思える。


「まあ、あんたがそれでいいならありがたくいただくぜ」


 俺の見た所、ジャッカルは裏表の余り無い好人物に思える。豪快かつ単純。俺がゲームで知るジャッカルに似ている気がする。

 まだ信用出来るのかイマイチ分からないが、いきなり襲って来ることは無いように思えてくる。

 次に受け渡しの場所だ。ジャッカルたちに換金してもらった後に、金銭に受け渡しが必要なので落ち合う場所を決めないと。


「で、落ち合う場所だがジルコニアにしよう」


「いいぜ。ジルコニアには大きな広場がある。そこに舎弟を送るぜ」


 ほう、ジルコニアには大きな広場があるのか。ゲーム内と同じだな。

 なら、広場に大きな噴水もあるのだろうか?


「なら、場所は噴水前でよいか?時間は五日後」


 「天空王」に運搬してもらったいる時に空から見た限り、ジルコニアまで二日か三日かかる。五日後にしておけば、ジルコニアの様子も少しは調査できるだろう。初めて行く街でいきなり彼らと会うのは危険だと思う。

 ひょっとしたら街にあるかもしれない、奴らの拠点に引き込まれないとも限らない。出来れば、こちらから案内できる宿なり酒場なりを示したほうが安全だ。

 ジャッカルが好人物とは言え、警戒しとくに越したことは無いから。


「わかった。五日後の昼に舎弟を噴水前に送るぜ」


 ジャッカルの言葉によると、噴水もあるみたいだ。ますますゲームに似ているぞ。全くこの世界はどうなってんだ。


 モヒカン達は、「紅亀」の鮮やかな紅色の甲羅を綺麗に切り分け、四肢の爪を切り離していた。他の部位は肉を食べることができるが、売り物にはならないそうだ。

 肉は不味くはないが、旨くもないとモヒカンの一人が教えてくれた。

 モヒカンに一部紅色の甲羅を積み込んでもらい、その場は解散となる。俺といえば終始ゴルキチの口を抑え込んでいるのだった......いい加減落ち着いてくれよ。

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