発狂温泉
私の捜索が終わると、再び観光地巡りを再開した。
しかし、ぎこちない。
特に、私と快斗。
いや、アレは事故であって、そんな、カップルとかじゃないし、そもそも好きじゃないし、快斗だってこんな地味なオタクを好きになる訳ないし。そう、事故。事故なんだよアレは。
ひたすら自分にそう言い聞かせ、「いつも通り」を精一杯振る舞った。
「心優、大丈夫か?」
清水寺で景色を眺めていると、隣に佑がやって来た。
「……大丈夫なように見える?」
「見えない」
即答か……。
「中学の頃は俺だったけど、高校では快斗って……。……悪い奴」
「はっ⁉︎ 何言ってるの⁉︎ ビッチみたいな言い方しないでよぉ……」
「……冗談だよ。ま、コレで恋愛系のネタが増えた訳だし? 読者の皆様のご期待に添えるかもしれな……」
「書きません。つか、今は普通の女子高生なんだから。それは今関係無い」
「うん」
佑は不器用に口角を上げて笑った。
「そろそろ行くで! お二人さんっ!」
合川君は私たちに呼び掛け、次の目的地へ向かうこととなった。
清水寺から、すこし寄り道しながら旅館を目指す。
新撰組の屯所に行くことは、この修学旅行において、咲っぺと私の最大の目的であるため、かなり長居してしまった。
「ああっ! タイムスリップしたいっ! 新撰組の皆様にお目に掛かりたいっ! 睨まれたいっ!」
咲っぺはそんな調子で屯所を出てからも夢心地でいて、私も声には出していないが、同じようなことを考えていた。
「旅館って……ココやろ?」
「「え?」」
どうやら、私と咲っぺは妄想を繰り広げながら歩いていた為、彼らが立ち止まったことに気付かず、旅館の前を通り過ぎてしまったようだ。
私たちは小走りで戻り、旅館の中へ入った。
旅館では、一部屋4人ずつで、私と咲っぺに加え、違うグループの子2人と同部屋になった。
「咲ちゃん、ごめん、ティッシュとってくれる?」
鼻血が出たのか、鼻を押さえて言ったベリーショートの子は、
もう1人は私と中学時代に美術部仲間で仲の良かった
お互い、遠慮することなく話せる相手なので、これから(今日も含めて)4泊の間、気まずくなる事はそう無いであろう。
「咲ちゃん、心優ちゃん、ひよりちゃん、お風呂どうする?」
夕食を済ませると、彼女はタオルや浴衣など一式を手に、聞いてきた。
「あー、私シャワーで」
ひよりんは、残念な事に女の子の日らしい。
「じゃあ、3人で入ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
***
俺と、よっしー、佑、合川の4人部屋では、只今入浴準備中である。
「浴衣コレ絶対丈短い。」
佑は用意してあった浴衣の1着を広げて呟いた。
「それ…子供用じゃね?」
「…。ほんとだ。」
佑は顔を真っ赤にさせて大人用と取り替えている。
「よし!先行くで!」
「はやっ!ちょっ、待って!」
「俺を置いてくなぁっ‼︎」
「鍵閉めるぞ〜」
「快斗!お前いつからドSに…!」
「はっはっはっはっは…」
「置いてくで〜」
「「待てーぃ‼︎」」
俺たちはバタバタと廊下を移動し、大浴場へと向かう。
あそこだな、と位置を確認していると、向こう側からやって来た女子達が女湯ののれんをくぐって行くのが見えた。
「女子の浴衣…。谷間見えるかな…」
ボソッと合川が呟いたが、そこは無視しておく。
露天風呂に出ると、三日月の浮かんだ星空が見え、風流な雰囲気をしていた。
竹で作られた仕切りの向こう側は、女湯らしく、女子達の会話が聞こえてくる。
「ヤダ、ちょっと熱くない?このお湯。」
女子バスケ部の小日向の声だ。
「そうかなぁ〜……あっっっつ‼︎」
今度は咲の声だ。と、いうことは…
「アチアチアチアチアチアチ…!」
心優の声だ。
「…そんなに熱いのかな?」
佑は平然として湯船に足のつま先を入れた。
「…うん。熱いね。」
そのまま彼は湯に浸かってしまった。それに習うようにしてよっしーが勢いよく入り、
「あっちいいいぃぃぃ‼︎‼︎」
発狂した。
女湯からはクスクスと笑う声が聞こえる。
「その声は…卓人だな⁉︎」
咲の声がこちらにやって来た。
「ピンポーン!その声は咲やな⁉︎…覗いていい?」
合川は相変わらずのオープンエロである。直後によっしーに頭を思い切り叩かれ、女湯からは咲の罵声が聞こえてきた。
「シバき倒されるぞ。バカだな。合川。」
佑はニヤッと笑い、タオルを頭の上に乗せた。
「じょ…冗談に決まっとるやろ〜」
合川は涙目でそう言って湯に浸かった。その直後、彼もまた、発狂していた。
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