第2話 タケちゃん
(……、寒い)
必ずなんて、簡単に口にすべき言葉ではないはずだ。
「必ず助かるから」
それなのに、そう言った父の眼差しには、強い確信が込められているように見えた。
だから、勧められるまま治療を受けることを決めたのだ。もう治らないと思って、半ば自暴自棄になっていたのにも関わらず。
麻酔を打たれ、意識を手放してから、一体どれ位の時が経ったのだろう。
しかし、それにしても寒い。瞼も重い。でも、意識はある。
生きていた。そう、私は助かったんだ。
そんな安堵と共に、一つ思い出すことがあった。
(タケちゃん……)
「もう、来ないでっ!」
そう、泣きながら叫んだのは、治療を受ける決意をした数日前だった。
あんなに、私を心配してくれていたのに。
心ない言葉だったと、今では思える。
(謝らなきゃ)
瞼を開く。部屋はあまりにも暗い。
鉛のように重たい身体を起こしたら、ゴツンと額に当たるものがあった。硬くて冷たい。硝子だろうか。力を入れて押し上げると、思いの外軽く持ちあがった。
立ち上がろうとする足がふらつく。長く床に伏していた所為だろう。これじゃあ、前より弱っているみたいだ。
でも、そんな身体に反して心は軽かった。
(また、タケちゃんに会える)
高ぶる気持ちのまま、暗闇の中で手さぐりに出口を探していると、後ろの方からギィッと音が鳴った。
振り返った先、射し込んだ光が酷く眩しい。眼を凝らすと、人の影が浮んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます