黒き勇者の異端伝説(スペルエラー)

雨城 光

序章 胎動

第1話〜希望の勇者〜

見渡す限りの紅




村は燃え盛り、地面は流れる血で真紅に染め上げられている




燃え盛る炎の中、1人の少女が微笑んでいた




「クロト、あなたをーー」



ーーーーーーーーーー



「...さん、兄さん!いい加減起きてくださいっ!!もう朝ですよ!!」


「な、なんだよ、起きた、起きたって...

こんな朝っぱらからどうしたっていうんだ...?」


「まったく、クロト兄さん、忘れたんですか?今日は収穫祭の日ですよ?準備があるからって言ってたじゃないですか!」



そ、そうだ、今日は収穫祭の日だった朝から準備があるってことを忘れてたな。

あれ、そういや、俺はさっきまで何か...




「まったく、兄さんは特別朝に弱いって訳でもないのに今日は全然起きてこないんですから、おじさんが心配していますよ?....って、どうしたんですか?やっぱり、体調悪いんですか?」



妹のクルルが心配そうな目で見つめてくる。

これはまずいな...

うちの妹は普段はツンツンしているが実際のところかなりの心配性だ。



「悪いな、心配かけちゃって、大丈夫。ちょっと変な夢見てただけだよ。

おじさんにも悪いし、早く行かないとな」



「そうですか?それならいいんですが...」



クロトはクルルの頭をポンポンと撫でるとすぐにおじさんの待つ部屋に向かった。




ーーーーーーーーーー


「おじさん、おはよう」


「なんだクロト珍しいな、お前がこんな遅くに起きてくるなんて」



おじさんはすでに朝食を済ましてくつろいでいる様だった。


俺と妹のクルルには、物心ついた時から両親が居ない。


そんな俺たちを親戚のおじさんは親切に面倒をみてくれている。


「ごめんごめん、まあ、ゆっくり寝たからおかげさまでこの通り!今日はバンバン働くよ!」


「そうか、最近は若いもんはみんな首都の方に行っちまうからよ。まあ、なんつーか、助かってるんだぜ」


「どうしたのさ、照れるよおじさん。おじさんなんてまだまだ元気じゃない」


「まあ、そうだけどよ...歳には逆らえないもんもあるだぜ.....さあ、そんなことよりクロト!飯食ったら祭りの準備だ!早くしろ!行くぞ!」




そう、そんないつもと変わらない、そんな朝だった。


ーーーーーーーーーー


「た、大変だ!!ガーフさん!!」


「おい、なんだ、どうしたってんだ!」


「なんでかわからねえが、魔獣だ!魔獣の大群が村の柵を食い破って...しかも、黒い旗を掲げたよくわかんねえやつらまで!!」


村の駐屯兵者から若い1人の男がやって来る。


あれの格好は確か...首都パージからの駐在兵の格好だよな....?



「な、なんだと!??



まさか...いや、だが早すぎる...クソッ、どうやって嗅ぎつけて...」



「お、おじさん!どうしたのさ!一体何が...」



「クロト、お前はクルルを連れて教会に行け、教会の石像の下には街の外につながる地下通路がある、それを通って逃げるんだ!!」



「な、何行って...魔獣が出たっていうなら俺もたたかって...」



「クロト!!...クルルを、頼む!」


その目は、今までに見たことがないほど真剣な眼差しだった。




「......くっ...クルル、行くぞ!」



俺はクルルの手を取って走り出した。



「兄さん!おじさんたちは...」



「大丈夫さ!!おじさんは昔は腕利きの冒険者だったって話だ、むしろ俺たちが居ない方が足手まといにならなくていいはずだ!」



「う、うん...きっと、きっとそうだよね...」



そう言って俺達は教会に向かって走って行った。




ーーーーーーーーーー

グシャァ、ゴシャァ


「ちっ、キリがねえな...まったくどうなってんだ、まだ、その時じゃないはずだってのによ...っ!!誰だ!!」



魔獣達を自前の斧で切り倒して行く中、ガーフは一際強大な気配が近づいてきていることに気づいていた。



「ほほう、貴方ですか、老兵士。彼の者を匿っている者というのは。さあ、彼はどこです?我らが王が目覚められたのです。我らの悲願のため、あらかじめ芽は摘んでおかなければ...この暗黒騎士セルウィンは貴方に問いましょう。さあ、どこです??」



「ちっ、暗黒騎士か」



(こりゃ、やべえな...俺もついに年貢の納め時ってやつか...)



「貴方も老いたものですねえ。さあ、老兵士、答えなさい。彼の者はどこなのですっ!!」


黒を基調とした衣服を纏ったピエロはヒステリックな笑みを浮かべながら襲い掛かる



ーーーーーーーーーー



「ついた、教会だ...クルル、急ぐぞ!!」


「は、はい、兄さんっ」


そう言ってクロトは教会の扉を開いた。いつもの見慣れた教会。だが、今日は何か、いつもと違って見えた。



「たしか、教会の石像の下って...

こいつか!こいつをどかっ...せば!!」



ゴゴゴゴゴ...

石像は音を立て動き出す。



「教会の下にこんな通路があるなんて...大戦の名残でしょうか...」


「わからない...だけど、進むしかない、クルル、いこう」



地下通路の中は青い松明がついていて地下だというのに不思議と明るかった。


(この松明の炎...魔法か?やけに明るいし、地下だっていうのに暖かい...)



クロト達は地下へと続く通路を下って行った。



ーーーーーーーーーー



「な、なんで....そんな....」


「ここは...」


クロト達は地下通路を進み続けていた。

地下通路は特に道が別れることもなく、道を間違えることはありえなかった。


2人が進み続けた先。

そこは一際大きな白塗りの壁の部屋......行き止まりであった。



「...? あれは...剣??」



部屋の奥。

そこは祭壇のようになっている、そして、その祭壇には一本の純白の剣がささっていた。




クロトは引き寄せられるようにその剣に触れた。



ーーーーーーーーーー


見渡す限りの紅




村は燃え盛り、地面は流れる血で真紅に染め上げられている




燃え盛る炎の中、1人の少女が微笑んでいた



「クロト、あなたをーー












愛しています」





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