魔法使いが転生したのは現代の日本国でした
apop
第一章 良き国に生まれて
第1話 私は生きている!
もしかしたら私は転生をしたのかもしれぬ。
つい先頃、そう気がついた。
小さな手、バランスがとれず転びやすい足元、ようやく聴き取れるようになって来た言葉、読めない文字、そして……新しい家族。
前世、というのだろうか。産まれる前の記憶をそう呼ぶのならば、その前世において、私は失意のうちに息をひきとったように、覚えている。
前世の家族にもたくさんの愛情を注いでもらった。それにもかかわらず、ここぞという時に何の役にも立てなかった。後悔ばかりが残っている。
今生こそ、精一杯に生きようと、そう思う。
慈愛を注いでくださる今生の家族に深い感謝を伝えたい。
「
ああ、語彙が少な過ぎるような気がしてならないのだが。果たして伝わっているのであろうか。
◇ ◇ ◇
ぼくのおとうとの瑞樹は、とてもかわいい。もうすぐ、来年ぼくが二年生になるころには三歳になるのだけど、このごろよくしゃべるようになってきてすごくおもしろい。
おばあちゃんが晩ごはんを作ってくれてるいいにおいがただようリビングで、いっしょにテレビを見ていたら、とつぜん『だぁいしゅき〜』といいながら、ひっついてきた。かわいい。
急にどうしたのかな。テレビを見ながらだっこしてたのがうれしかったのかな?
あっ、もしかしたら、テレビのボス怪人がこわかったのかも!
お母さんは小さい子にあまりシゲキのつよいばんぐみを見せてはダメよと言ってたけど、超能力戦隊チョウレンジャーはこわくないよね? 瑞樹も好きだよね。いつも見てるもんね?
ひゃあ、瑞樹くすぐったいよ、どうしたの?
瑞樹がぼくのお腹に頭をグリグリしてなんか言ってるよ。えっ? なに?
『ぐりゅぐりゅ〜あちちぃ〜ぴゅ〜』???
ああかわいいなぁ。チョウレンジャーのひっさつわざのマネかな?
ぼく、ボス怪人のマネして『イーーッ』て言えばいいの? かわいすぎ。うりうりしてもいい?
◇ ◇ ◇
そう、観劇である。驚くなかれ、この世界では居間に居ながらにして観劇できる魔道具が存在しているのだ。
初めて見たときは酷く驚いたがもう慣れた。
本日の演目は、兄上のお好きなチョウレンジャーだ。
まだこの国の言葉がおぼつかないので深い情緒はわからないのだが、おおよその筋立ては、勇者の一行が魔族の狼藉を挫くという勧善懲悪の活劇であると思われる。
国が変わっても世界が違っても、少年は勇者が好きなのだなあと見ていても微笑ましい。
初めてじっくりとチョウレンジャーを見たが驚いた。これ、この勇者達が魔法を使っている様を描写しているのではないか?
勇者のチョウレッドの腹中に魔力が集まり渦巻く様子が、光の輝きで表現されている。
うむ、なるほど。これはわかりやすい。幼い子供に魔力の流れを教えるには良い教材と言える。
チョウレッドが大きな声で『チョーノウリョクセンタイ! イー・エス・ピー!』と叫んで右手を掲げると、手の先から赤い光線が放射された。
なんと、これはまさしく火属性魔法の熱光線ではないか!
この世界にも魔法はあるのか! 安心した。
この家の中で魔法を使う人がいないので、魔法の行使されない世界かと心配していたのだ。
それにしては、家中に高度な魔道具が溢れているので訝しんではいたのだが。よかった。
いや。よくない。よくないぞ。
父上、母上にしても魔力は豊富なのに魔法を行使なさらない。なぜだ?
兄上の魔力炉は今が伸び盛りの年頃であるというのに鍛錬なさっている様子もない。
この世界では魔法の扱いが違うのだろうか。
兄上の魔力の流れを観る。
うむ。臍下丹田に魔力の萌芽が芽生えている。これを育てて回転させ、自由自在に全身に廻らせることができてはじめて魔法を行使することができるのだ。大人になってからでは魔力総量が伸びなやむぞ。まさかご存知ないのか?
「
嗚呼、天よ地よ精霊よ、我に語彙を与え給え。
かなり努力したものの、残念ながら兄上に私の言葉はあまり伝わらなかったように思う。
まあ良い。先ずはこの地の言葉を学ぶことから始めよう。
そして私自身の魔力を育てて披露して行けば、自ずと魔導の有益性も伝わろうというもの。
この地に沁み渡る魔力は濃く豊かだ。
焦ることは何もない。
今生こそは、私の魔導を広く世のためにこそ使いたい。
転生を果たし得た喜びをかみしめる。
私は今、生きているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます