第18話 異世界求職者-14
拘束が解除された。満身創痍のふりをしてそのまま地面に倒れ込む。
「仇敵様!」
地面に激突する寸前でデアダクリが俺を抱きとめた。柔らかい感触、確かに命の鼓動を感じる。
ならば急所は明確だ。
「……ありがとう。情けないけど指一本動かせそうにない」
「一応は人の身ではあるのでございますね。さぞお苦しいことでございましょう。早々に治療をいたしますのでお待ち下さいませ」
弱しく頷いた。水柱の気配が消えた。警戒を解いたようだな。
「さぁ、お飲み下さいませ」
デアダグリの手のひらに滴が溜まっている。緑色に光る液体。
「お口にはあわないかもしれませんが、本物の水薬にございます。常人種が用いるものより効能は格段に上にございますよ」
俺の身体は毒に対してはどれだけ耐性があるのだろう。ただ、ここで難色を示すわけにはいかない。躊躇いもなく水毒を啜る。無味だ。口当たりが軽い。液体を摂取している感じがしない。
「何だかすごく眠い」
「どうぞお休みくださいませ。目が覚めたころには傷も治っているはずにございます」
目を閉じた。どうやら毒ではなかったようだ。痛みが引いて行く。敵が油断している今が最大の好機だ。
矢を引き抜いて、人外に突き刺すそれで終わりだ。問題はその動作を素早く行えるかどうかだが……。
『そんな栄太は、大っ嫌いよ。一度、敵だと認識したら躊躇いもなく殺すの? そんなのただの狂人よ』
そんな悲しそうな顔をしないでほしい。俺は君を守るために頑張ったんだ。
『嘘つき栄太、あんたは責任逃れをしているだけ。自分は道具なんだって割り切って、現実から目を反らしているただの臆病者よ』
………。
『栄太って、そんな顔もできるのね。感情がちゃんとあるんじゃない。今日から一緒にーー』
頭が割れるように痛い。映画のワンシーンをみているような気分だ。現実味があまりない。夢でもみているのだろうか。
もう、彼女の顔は思い出せない。どんどん記憶が薄れていく。
「少し痛いかもしれませんが、我慢して下さいませ」
デアダクリの声がする。矢がゆっくりと引き抜かれた。痛覚が麻痺しているのか痛くはない。
「きゃあああああああっっっっっーー」
意識が急速に覚醒する。
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