33話「犬さんのブラッドイーター戦①

ブログver

http://suliruku.blogspot.jp/2016/11/33.html


Q.今回の成果はなにですか?


A.ブラッドイーターを少し疲労させる事に成功したよ!


……弱い。精鋭ゴブリン100匹が雑魚すぎる。

特に、食用ゴブリン200匹は、ほとんど崖から勝手に転落して死体になっているから、役立たずにも程がある。

急所を浅く斬る事で、剣の消耗を最小限に抑えているし、激しい武器の劣化もない。


「……さぁ、約束は果たしたぞ、剣を寄越せ」


ブラッドイーターが、100m先から声をかけてきた。

同族殺しに慣れすぎて、罪悪感を全く抱いていない。

……友達にはなりたくないタイプである。

僕はホワイトの顔で頷いた。


「剣はこちらです、師匠。

ゆっくりついて来てください」


引き締まった筋肉で、場から早足で移動する。

後ろから、ブラッドイーターが笑みを浮かべて追いかけてきた……僕は何時から、ホラー映画の世界に紛れ込んだのだろうか?

殺ゴブリン鬼が背後から追いかけてくるとか、周りが森林地帯という事もあり、雰囲気が合いすぎて怖すぎる。


「くくくっ……!今日は良い日だ……!

強くなった弟子に会えた上に、良い剣まで手に入るとはな」


……これぇ……剣を渡しても殺し合いになりそうだなぁ……。

ホワイトは何で、こんなキチガイに弟子入りしたんだっけ?


(詳しい経緯は省きますが……剣の腕だけで生活できる凄い人なんです、主様)


剣か。剣って集団では運用し辛いよな。

短いし、遠距離攻撃を防御するのも困難だ。

せいぜい、リーチの長い槍部隊の隙間に突撃させて、乱戦に持ち込ませるローマ軍みたいなやり方じゃないと、主力武器に出来ないだろ?


(さすがは主様……師匠のやり方がまさにそれです。

凸凹だらけの地形に誘い込んで、崩れた戦列に突撃して乱戦に持ち込むのが得意でした)


うむう……言うのは簡単だが……依頼人や上司から『お前、さっさと戦死しろ』と言われているも同然の酷使されっぷりだな……。

技能スキルがあっても、そんな無茶な使い方したら死ぬぞ……。

矢って、辺り一面を制圧するような感じで、雨のように飛んでくるはずだし……。


(他には、剣で木を切り刻んで人形を量産したり、山一つハゲ山にして薪にしたりと、恐ろしい稼ぎ方をしてました)


『工具使わずに手で岩を切断する、犬さんがと同じ事をやっているお……』

『自然破壊は駄目ですぞ!モフモフ神は自然、もとい、森が大好きですぞ!』


(新しい弟子の仕事は、もっぱら薪の運搬と、市場での販売と言っても過言ではありません。

おかげで大雨が降ると山崩れが起きて、賠償しろという住民の悲鳴をよく聞きました)


……それ、弟子っていう名前の低賃金労働者なんじゃ……?


(……そんなまさか……?)


そういえばホワイト。

最初に会った時、大剣を振り回していたよな……?

幾ら怪力でも、大剣よりも槍の方がいいぞ……回転させるエネルギーを利用すれば連続攻撃できるし、リーチ長いし、構造が単純だから整備しやすいし、アルミニウムで作れば錆びないし軽いし。

槍術は応用が効いて美味しいぞ?まぁ遠距離攻撃が一番最強だから、槍なんてウンコだが。


(せ、拙者がやってきた修行は全て無意味だった……?)


ああ、返事はしなくて良い。なんかホワイトの気持ちが伝わってきて悲しくなるから。

もう少ししたら、体を返すぞ。

援護射撃するから、予定通り距離を取って、弓を拾って参戦してくれ。


(主様が戦の天才なのは分かりますが……これ勝てるのでしょうか……?)


……近接戦闘を挑めば、間違いなく、僕たちは死ぬだろう。

だが、近接戦闘しか出来ない馬鹿が相手なら、僕らは勝てる。

信じてくれ、ホワイト。

遠距離戦は、数が多い方が圧倒的に有利なんだ。

出来る限り多方面から矢を打ち込んで、嫌がらせをやってやれ。

毒は……残念ながら、探知系のスキルに反応するだろうから用意してないがな。


『犬さん、40人全員でブラッドイーターと戦った方が良いんじゃないかお?』


森の中では、投石は役に立たない。

弓兵はモッフルに預けたし、数だけ居ても意味がない。

一人二人と真っ先に切断されて、恐怖で獣人達が大混乱する可能性が濃厚すぎる……。

あいつら全員が弓を使えれば……良いんだが、初心者用の化合弓は配り終えたしなぁ……。

安全な場所で待機する仕事で十分だろう。


『足手まとい扱いとか酷いお』

『うむ……所詮、新兵だから……激戦では役に立たないという事なのだろうか……?』


~~~~~~~~~~


僕とブラッドイーターは、距離にして1kmほど離れた場所へとやってきた。

紅葉に染まった木々が多数あり、地面は見えないくらい落ち葉で埋もれている。

足跡や穴があったとしても、分からないくらいだ。


「ささっ、こちらです。

あそこに置いてある剣がそうです」


僕はそう言って、右手で指し示した。

その方向には、地面に突き刺さった剣がある。

ゴブリン達から略奪した剣を、凄そうに見える感じに焼き直した代物だ。

無論、材質は単なる鉄。ダマスカス鋼のような鋭い切れ味はないが、ダマスカス鋼っぽく見えるように、美しい刃紋を施した。

本来なら、2種類の鋼材を組み合わせてハンマーで叩きまくって、素材同士を緻密に絡み合わせて作る必要が――


『ダマスカス鋼って、ただの日本刀な件』

『あれ……?製法がほとんど日本刀……?』

『うむ……素材を重ね合わせて、ハンマーで叩きまくる時点で日本刀だな……』


ダ、ダマスカス鋼って言った方が格好いいだろ!ロストテクノロジーだし!


『犬さん、ブラッドイーターが日本刀(えさ)に釣られてないお?』


なんだと……?

……ブラッドイーターは、地面に突き刺さった剣を見ている。

だが、動かない。落ち葉を凝視している。

落ち葉の下に――大量の落とし穴がある事がばれているようだ。

刀剣を抜き、怒りで身を震わせている。


「俺は剣を見ただけで分かる。

あれは……刃紋が美しいだけ……しか取り柄がない普通の剣だ。そして、落ち葉の下は――底に、鋭い木の杭が設置してある落とし穴。

ホワイト、お前は嘘をついたな?

切り刻んでやろう、最初はどこが良い?

腕か?足か?いや、足だとすぐに終わってしまう。

最初は――左手を貰うぞ!」


50mの距離を詰めるために、ブラッドイーターは走り出した。

……僕とホワイトは、全く口調が違うのに、中身が別人だと気づかない時点で、人として、ゴブリンとして可笑しいと思うぞ……本当に剣以外、全く興味がないでやんの……。

僕は間合いを詰められないように、距離を取り、ズボンのポケットから――煙幕弾を取り出した。

ボシュッー!

地面に勢いよく叩きつけて、白い煙を周りに溢れさせる。

ホワイト!体を戻すぞぉー!


「やれやれ、拙者の魅惑的な身体が切断されそうで大変ですなぁ!」


『胸がもう少し大きいと嬉しいお』

『うむ……オッパイがイッパイ大きい事は良い事だな……だが小さいオッパイも素晴らしい……』


ホワイトは化合弓を置いた場所へと急いで走る。

その背後で、ブラッドイーターは煙幕を気にせずに突撃した。

僕の意識は三歳児の身体に戻り、即座に矢筒から8本の矢を取って、ツッコミを入れて――


「そういうのは、もう少し尻尾が育ってから言え!」


8連矢を放つ。ブラッドイーターは足を止めて、その場で迎撃する事を優先した。

視界が悪いが、技能スキルで攻撃を感知して、本能的に矢を弾いて弾きまくっている。

拳銃弾と何ら変わらない威力があるはずだが、奴は技巧はそれをものともしない。


「矢などっ!効かぬわ!」


僅かな時間を稼げた。僕は矢を一本、化合弓のケーブルに絡ませて、力強く限界まで引き絞る。

見せてやろう。これが軍船を撃破した最強の矢だ!

名づけて!軍船撃沈矢!普通の矢でやったら間違いなく弓そのものがぶっ壊れるエネルギーが発生し、矢が勢いよく飛び出した。

音速を越え、ブラッドイーターの胴体目指して突き進む。


『ネーミングセンスが皆無だ!?』

『シンプル・イズ・ザ・ベストだお』


これが……連射性能が全く向上しないのに、僕が化合弓を作った最大の理由だ。

船を沈没させるエネルギーを込めた矢は、命中率が著しく悪くなるから、化合弓でもなければ、まともに小さな標的に照準を合わせる事ができなくなって当てられない。

これを防御する事はゴブリンには不可能。矢が当たった瞬間、剣ごと粉砕できる!


「ふんっ!」


……ブラッドイーター、身体を沈めて、普通に矢を回避しやがった。

通り過ぎた矢は、木の幹に突き刺さり、そのまま貫通する。

なんて事だ。斬るのが好きな変態だから、必ず軍船撃沈矢を斬ろうとすると思ったのに酷い!


「小僧!今の矢は凄かったな!

だが……当たらなければどうという事もない!

これで剣の達人だったら、もっと良かったのだがな!」


『赤い彗星っぽいセリフだお』


ブラッドイーターは標的を僕へと変更した。

ちなみに、僕がいる場所は、奴から50mほど離れている。

この距離から連続で矢を放ったのに、全部迎撃されて怖い。

音速超えているのに、反応しているなんてチートすぎる。


「ホワイト!貴様は剣を捨てたのか!

弓など使いおって!大剣はどうした!?」


化合弓を拾ったホワイトが参戦してくれた。2連矢を放ち、必死に僕を支援してくれている。

僕もその期待に答えて、矢を次々とブラッドイーターに向けて放った。




犬        狼娘

    

 


   ブラッドイーター



2方向から来る攻撃は、さすがに迎撃するのが難しいはず。

さぁ、弓術スキルLv99の本領を発揮してやろう!

僕は矢を斜め上へと向け、曲射射撃で8連矢を放った。

上空からブラッドイーターを殺そうと矢が落ちて迫る。しかも、ホワイトも連続で矢を連射していた。


『たくさん弾道計算しないとできない技だお……』


空からの曲射射撃と、地上からの直射射撃。

ブラッドイーターは、両方に対処するために、大きく場から走り回避しようとする。


「そんな点に過ぎない攻撃っ!前に進めば良いだけだ!小僧!」


ブラッドイーターの回避地点へと向けて、僕は8連矢を放つ。

手が痺れるのも構わずに、矢筒から矢を8本づつ取り出して番え、マシンガン・アローと形容しても良い連続射撃を行った。

これでチェックメイト。罠も使わずに終わる――はずもない。


「手数が多いなら……こっちも手数を増やせば良いだけだ」 


ブラッドイーターは、新しい刀剣を鞘から抜き、二刀流になった。

最小限の動きで全ての矢を迎撃し、剣術スキルで無茶を実現させている。

まるで剣の壁だ。剣術LV99とかそんなレベルすら超越した技だ。

だって、戦場での剣って補助武器だし。芸術品としての価値は後世に残っても、実用性に欠ける武器だ。

そんなウンコ武器で、矢を迎撃とかなにこれ怖い……。

僕とホワイトは、交信術で一瞬で、同じ思いを共有してしまう。


「よし!逃げよう!ホワイト!」


「はい主様!」


ボス戦から、スタコラさっさ。

遠距離攻撃で倒せないから……次の嫌な方法を試すしかないな……。

もしも、ブラッドイーターが鎖鎌の使い手だったら、もっと厄介な事になっていたと思う……。

あれって分銅で攻撃できるわ、近接戦闘も鎌で出来て応用力が試されてすごいし……。


「情けない、なんと情けない。

楽しい戦いから逃げ出すとは情けない!

小僧もホワイトも斬ってやる!」




 


★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!獣人の方が身体能力が高いなら、常に一定距離を取りまくって、全軍で集中放火すればいいんじゃ?



●(´・ω・`)森は障害物だらけじゃから、投石部隊が存在する意味がないじゃろ?

それに、円形の包囲殲滅陣を維持したまま、ブラッドイーターの動きに合わせて移動させるのって難易度高すぎるし。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) そんなー!?



読者「木製のジャングルジムの真ん中に剣を置けばいいんじゃね?

そんでオカクズだらけにすれば、あっという間に燃えるじゃろ?(リアル事件)」

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