24話「犬さん、開戦する」

ブログバージョン

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/24.html



ゴブリン達の偵察部隊がやってきた。馬に乗って一列に並び、ゆっくりと山道を進んでいる。

その進路上には――時間が余りすぎたから、複数作った落とし穴がある。

浅い穴の底に、木の杭を打ち込んでおけば、あら不思議。

馬に乗ったゴブリンが通るだけで――


グサリッ!


「ブヒィーン!」


馬の足が穴を踏み抜いて、立派な大怪我をして、載せているゴブリンごと転げた……馬もゴブリンも、転んだ際に激しく体を打ち付けて痛そうである。

こうして、列の先頭が止まり、偵察隊の歩みが止まる。

足を止めた騎兵には価値がない。歩兵以下の雑魚に成り下がっている。

この地形では、馬は大きいだけの的に過ぎないって事を教えてやろう!


「一斉射撃開始ー!」 


交信術で送信された僕の言葉とともに、木々に隠れていた獣人達が姿を現した。

その手には化合弓と、投石紐が握られている。

矢と投石がゴブリン達に降り注ぎ、ホワイトの犬班が活動を開始した。


  ゴ 犬

獣ゴ 獣

  ゴ    

獣ゴ獣

獣獣獣


5連矢!

僕は山道の横――障害物だらけの場所を走りながら、次々と矢を番えて、解き放つ。

風のように飛ぶ矢は、5匹の馬へと突き刺さり、暴れ馬と化して場を混乱させてくれる。

ゴブリン達は次々と馬から落ちて、運が良い奴は道へ、運が悪い奴は斜面を転がって死んでいった……。

……山道って、隣が鋭い斜面になっている所が多いから、本当に酷い道でやんの……。


【弓術スキルがLv72になりました】


6連矢!

容赦なく、僕は道なき道を走り、木々と木々の間から、矢を連続して解き放つ。

この時点で、ゴブリンの偵察部隊の半数は、戦闘力を完全に喪失していた。

こういう異常な道なき道を走りながら、弓で射撃するのはレンジャースキルの類がないと無理なだけに、僕一人だけが戦っているも同然の状況になっている。

まぁ……森っていう障害物があるから、反撃されても攻撃が当たる可能性は皆無だから、こんな無茶をする意味がある訳だが。


『これなんてFPSゲー』

『敵が細長い隊列組んでいるから、犬さんがたくさん動かないと射殺できない件j』

『獣人の皆が、異常者を見る目で犬さんを見てますぞ』


ゴブリン達から、矢の攻撃が返ってきた。

それも一度に複数の矢をもっての連続射撃。

たくさん訓練を積んだ精鋭じゃないとできない技だ。

矢が僕の所に到達する前に、木や葉っぱに当たるから全く怖くないが、平地で戦えば、それなりに脅威になっていただろう。

……なんでゴブリン達は、こんな地獄みたいな道を選んだんだろう。

遠回りになっても良いから、遊牧民族を撃退しながら、北方の平原通れば良いのに……。


「当たれー!当たれよぉー!」

「的が小さいぞぉー!」

「落ち着けぇー!撤退して立て直せぇ――」


ちょうどリーダーらしきゴブリンが居たから、喉に矢をプレゼントした。

これで指揮系統は壊滅。集団が持つエネルギーはバラバラに分散されて、纏まった抵抗ができない。

僕たちの勝率が格段にアップした。

さらに――


ドドーン!


……ホワイト達が、ゴブリン達の後方にある木を切り倒して退路を防いだ。

考えてもらいたい。一方的に虐殺されて、頼れるリーダーも死んだ。

挙句の果てには、退路は防がれて絶対絶命の大ピンチ。

ここまですれば、ゴブリンどもは心が折れて、まともに戦えなくなるだろう。

戦争は相手の心をへし折った方が勝利するのだ。


『いつもながら、徹底的にやりすぎている件』

『弱い者虐め楽しい?』


しゅごく楽しい。

邪神達の間に、重い沈黙が流れた。

勝ち戦って爽快感がたっぷりだ。

ゴブリンは、馬を捨てて、斜面に滑り落ちないと逃げられない。

馬がない騎兵なんて、傭兵市場では買い叩かれるアルバイトAだ。

そう簡単に見捨てられる訳がない。今まで一緒に闘ってきた戦友という意識もあるせいか、馬を見捨てるゴブリンは一匹も居なかった。

僕はそんなに彼らに向けて、矢を放ちつつ、獣人達に向けて宣言する。


「奇襲効果が効いているうちに押しきれー!

奴らは包囲殲滅されるだけのゴミに過ぎないっー!

モフモフ神も言っておられた!神のために戦う者は、大きな尻尾の異性と出会えると!

とりあえず馬を狙えっー!暴れ馬を量産するんだぁー!

距離を取って徹底的に叩けー!」


『変な教義を勝手に追加しちゃ駄目なのー!』

『それは犬さんの性癖ですぞ!』


さらに僕は、ゴブリン達のへし折れた心に甘い囁きをプレゼントしてやった。


「ゴブリンどもぉー!

お前らの仲間を2匹の殺せば、助けてやるぞー!

さぁー!生き残りたかったら殺しあえー!」



…………ゴブリンの偵察隊50がこの後、すぐ全滅したのは言うまでもない。

包囲、退路遮断、奇襲攻撃、交通渋滞、暴れ馬量産、僕の弓術、団結できないように披露した汚い謀略、木々という遮蔽物。

これらが全てが組み合わさり、こっちの被害は……僕の真似をして、斜面を走りながら射撃して、転げ落ちた獣人3人だけだった……うん、唾付けとけば傷なんて治るだろ。

負傷した奴は置いていけば良いし。

今回の戦で分かった事は……敵軍の弓兵の質が高いから辛いって事だなぁ……。

弓矢を扱う兵士の熟練度が高いって事は、狩りをして得られる食料が多いって事だ。

……まぁ、山や森での生活に慣れた奴じゃないと、弓の腕だけ良くても意味がない訳だが……大抵は森での狩りに慣れているだろうなぁ……。

趣味と実益を兼ねた訓練になるし……普通の軍隊なら絶対やっているはずだ。

秋の幸に恵まれた山との環境が良すぎる……。


『うじうじ悩みすぎですぞ!』

『偵察隊潰したのに、時間を浪費するのは良くないお』


そうだった。時は金なり。

今が、この戦争の勝敗を左右する最大級の好機だ。

ゴブリン達は、僕たちが用意周到に準備して待ち構えている事を知らない。

これを生かすために、交信術を使って、迅速に行動しよう。


「皆!僕たちの勝利だ!

狸班、猫班、狐班は死んだ振りをしているかもしれないゴブリンにトドメを刺して装備品をはぎ取れ!

犬班と狼班は僕についてこい!

これから敵の大将ナポルを始末する!

布を口に入れて、声を立てずに進め!」


「布ですか……?」


まだ、合流してないホワイトが、遥か遠くからツッコミを入れてきた。


「僕が大量生産したパンティーがあるだろ?

あれを口に含んどけ」


「いや、拙者が持っているのは、全て使用済みなのですが……?」


「大丈夫だ」


そう、言って僕は――


「モーニャン達が全部、洗濯した奴だから全く汚くない」


自信満々な電波を交信術で飛ばした。


『パンツをそんな事に使っちゃだめぇー!』

『うむ……歴史書にパンティーを口に入れて、ゴブリンを撃退した英雄として名が残る訳か……?』


……ハンカチを量産しとけば良かったなぁ……。

三歳児の口には、パンティーは大きすぎる……。


『悩み所がそこかよ!?犬さん!』

『変態幼児だお……?』


……戦は、いつもこんなはずではなかった……そんな展開ばっかりさ。

ほら、地面に転がって死んでいるゴブリン達とか、今日が死ぬ日なんて思ってもいなかっただろうし。

冥福を祈ろうナムナム。来世は可愛い獣娘に転生しろよ。

もちろん、尻尾が大きくてモフモフな娘な。




ーーーーー



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)パンツは食べ物だった……?




●(´・ω・`)相手に奇襲攻撃する時、口に何かを詰めていると声が出なくて便利なんじゃよ。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)(布をパンティーで代用する時点で、この作品の伏線は可笑しい……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る