21話 悲劇の村

ブログバージョン

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/21.html


燃えていた、守るべき獣人達の家々を、容赦なく業火が、豪華に焼き尽くす。

戦争は虚しい……どうやっても守りたい者が手から零れ落ちてしまう……。

人の世は、いつもこんな事ばっかりだ……。


「鬼っー!悪魔ー!」

「同胞なのに、どうしてこんな事をするんやー!アホかぁー!」


……僕の背後で、縄でグルグル巻きにされた獣人達が頭を真っ赤にして叫んでいた。

そう、この村を焼いたのは僕だ。

ここは獣人の隠れ里。人間の圧政から逃れた者たちの村。

僕は彼らを守らなければならない。理解されなかったとしても――数が少ない貴重すぎる同胞なのだから。


「皆!聞いてくれ!この村にゴブリンどもが攻めて来るんだ!

それも40万の大軍!」


「ゴブリンに攻め込まれる前に、お前が滅ぼしてどうするんや?同胞やろ!?」


僕の言葉に返答したのは、胸がとっても大きい猫娘だ。

整えられた黒のストレートヘアーと、上質な巫女服を纏っている様子から考えて見ても――この集落の上流階級って奴なのだろう。

巫女服はありえないほどに精密に作られているから……きっと、僕が作った高価な衣服の数々を、誰かが転売したんだろうなぁ……。

巫女服が似合うのは狐娘、つまり犯人は、狐耳の美少女に違いない。


「大丈夫!君たちに危害は加えない!

ゴブリンの脅威から守るために来たんだ!」


「凶悪な眠り薬入りの酒を配って飲ませてっ!ウチらを縄で縛っている時点で説得力ないわ!アホ!

毒に耐性があるウチらが眠るって事は、とんでもない劇物やったんやろ!あれ!」


「安心してくれ仕事を手伝ってくれたら住む場所は用意するし、食べ物もたくさん食べさせるから!」


「家を焼いといて……なんて酷い奴なんや!なんで村を焼いたんや!?

納得できる理由を話すんやで!」


「この村の備蓄倉庫が……ゴブリンどもの手に渡ったら僕の村が攻め込まれる!

焦土戦術は徹底的にやらないと意味がないんだ!

正直、すまなかったと思っている!

でも、40万のゴブリンどもを飢えさせないと勝機はないんだ!」


完璧すぎる正論を言えた。そんな気分になれた。

仕事も家も保証して、ゴブリンから助けてやるとか……僕って良い奴――


「倉庫の食料だけ運搬すればええやんけ!

暮らす場所と食料をくれる余裕あるなら、それでええやろ!

なんで家を燃やすんや!」


「あ」


「あって何や!

必要がない放火やったんか!アホか!?」


『ただのやけくそwww』

『この猫娘可愛いお』


猫娘は細長い黒い尻尾をブンブン振り回して、内心の怒りを表現してくる。

縄で縛ってなかったら、今すぐにでも殴りかかってきそうだ。

……そうだなぁ、このまま焦土戦術を正当化して誤魔化そう……。

下手に謝罪したら、賠償金とかが膨れ上がりそうな雰囲気だし……。


「敵が利用できる建物っ!人っ!食べ物っ!それを全て焼き尽くすのが焦土戦術なんだ!すまない!

名将カエサルに破れたガリア人は、都市を一つ焼かなかったせいで世界に冠するローマ帝国に敗北したんだ!

相手が食料を得られる可能性は可能な限り削らないといけない!」


『ローマのカエサルネタは駄目ぇー!2000年以上前のネタだよ!』

『強気で言い切って誤魔化すにも限界がありますよー!犬さんー!』


「ローマやカエサルとか知らんわ!アホ!

村を焼いたから謝罪せぇや!誤魔化したらアカンで!」


「いや、だから……家と食べ物を保証するし……」


「どうせ狭い家とか、倉庫を提供する気やろ!?

200人も住まわせしてくれる空家あるんか!?」


なぜ、ばれた……?

いや、後でちゃんとした家を作る予定だから、特に問題はないはず……。

僕が黙って考えている間にも、猫娘は口から延々と罵倒してきて、交渉が川のように勝手に進んでいった。


「絶対、賠償させたる!ウチらの村を焼いた補償させたるで!」


「安心してくれ!こう見えても金儲けは上手い方だ!

……君が満足できる額は必ず用意する」


公文書偽造とか、贋金とか、地球で散々やってきたから慣れてるぞ!

通貨発行権なんてなくとも、本物そっくりの貨幣を量産すれば良いし簡単すぎる!

これが僕の錬金術って奴なんだ!


『最低だぁー!?』

『犬さん最低だぉー!』


交渉が落ち着いたから、僕は猫娘の縄を解く事にした。

賠償金を払うって約束したおかげか、猫娘は殴りかかってこない。

しかし――やはり無料働きは嫌なのか、近づいて賃金交渉を開始してきた――


「うちの名前はナズニャンや!

アンタの仕事は手伝ってやるけど、報酬はきちんと要求するで!

商売やる許可も頂戴な!」


「大丈夫だ!ゴブリンの村から色んな物資を略奪するから、それを給料代わりにする予定だし!」


「ゴブリンの村を略奪して給料出すとか……アンタ……ウチらに何をやらせるつもりや……?」


「略奪の手伝い」


「まぁ……ええか。

難民ゴブリンの売買よりは儲かりそうやし」


猫娘はなぜか納得してくれたようだ……というか、ゴブリンって売れるのか……?

家畜としては運用し辛いと思うから……東南アジアで流通しているゾンビパウダー(ゾンビ奴隷を作る薬)でも作って投与しないと、反乱を起こすと思うぞ……あの生き物……。

僕がそうやってこの世の不思議さに思い悩んでいると――


「……いや、凄いですな」 


今まで黙っていたホワイトが僕の犬耳に口を近づけて、小声で話しかけてきた。


「ん?どうしたんだ?」


「ああいう強気の女性を見ると、何故か背筋がゾクゾクします。

主様が二人になったような感じですな。

これからの毎日が楽しみになって――」


「Mか!?」


僕の周りにいる女性は、どうしてこんなにも変人ばっかりなんだろう。

いや、世の中の女性が基本的に、こんな奴らばっかりと考えた方がいいのか……?


『犬さん、考えたらダメだお』

『女の欠点を受け入れないと、共同生活はできませんぞ!』


「……まだ聞いてなかった事があるで!」


しかも、ナズニャンはまだまだ文句があるのか、大きな声をあげて言葉を続けた。


「お前らの代表って誰や!

まさか、そこの三歳児やないやろうな!」


「ああ、僕が代表だ」


「アホかぁー!?

人生経験ほとんど皆無の子供を、代表にするとかアホかぁー!」


「こう見えても、君より年上だったりする!」


「本当にアホか!?

どう見ても300歳超えてないやろ!?」


……この猫娘、16歳くらいだと思ったら……300歳超えてた……。

見た目が若く見られるような服装と、猫娘の要素が重なって、少女に見えるな……。

それにしても胸が大きい……でも、僕は尻尾がフサフサして大きくないとダメだから……微妙な気がする……。

細長いシンプルな尻尾って、モフモフのしがいない……。

モーニャンみたいな大きすぎる尻尾が理想的なのだが……


『女性を尻尾で差別するのはいけないですぞ?』

『オッパイがいっぱいおっぱいだお』





……こうして、新たに200人が加わり、輸送部隊が800人になった。

士気を向上させるために戦略輸送部隊という格好良い名前をプレゼントし、略奪品を村に運搬する仕事とかを主にやってもらわないといけないくらいに、無駄に輸送量が有り余っている。

相変わらず、戦闘員はたったの50人である。

どうやら、僕が勝つと……村の不良達以外は、誰も信じてないようだ……悲しい……。

信頼を得るためには、勝利する必要があるな……。



『ほとんど輸送部隊だらけな件』

『なに、この盗賊集団……』




ーーーーーーー


(ノ゜ω゜)(ノ゜ω゜)先生ー!猫娘は貧乳の方が良いと思いますー!


(´・ω・`)馬鹿め。

貧乳が似合うのはロリだけだ。



(ノ゜ω゜)(ノ゜ω゜)確かにそうだ!?

猫娘ってロリで貧乳属性の方が需要がある!?

……でも、巨乳で美少女も価値があるような……?


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