19話「犬さん、輸送部隊で内政チートする」

ぶろぐvar

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/19.html


義勇兵団を結成して――すぐにモーニャンがツッコミを入れてきた。


「もぎゅ、もぎゅ、もぎゅー」


「口の中にいれたパンを全部食い終えてからにしろ!

何を言っているのか分からん!」


1分ほど待つと、ゆっくりとモーニャンがパンを咀嚼して食べ終えた。

なんて食い意地が凄い狐娘なのだろうか……まぁ、こんな貧困すぎる村で生活していれば、誰でもこうなるわな……。

人間の大家族も、他者に遠慮する奴から次々と餓死するし……。


「ねぇねぇ、ワァン様。

人間が数日分しか食料を持てないって分かったけど……私たちも似たようなもんだよ?

どうするの?ご飯食えないの嫌だよ?」


「それは、これで解決だ」


そう言って、僕はとっても大きいリュックサックを持ち上げた。

動物の皮と、豪邸にあった要らない布で作った入れ物である。

細工スキルを使って仕上げたから、かなり酷使しても破れる事はないだろう。


「ワァン様、なにこれ?」


「リュックサックっていう入れ物だ。

無理をすれば、食料一ヶ月分くらい入る。籠の上位バージョンの道具だと思ってくれれば良い。

あと、そこらへんの植物から作った靴もあるぞ」


靴というか、草鞋(わらじ)の類だが、何も履かずに山道を歩くよりはマシである。

量産しやすくて、軽くて持ち運びやすいから便利だ。

獣人の足は怪我をしても、すぐ治るが、その際にカロリーや栄養を消費するから、靴があれば省エネに繋がる。

兵士の仕事は、基本的に歩く事が一番大事だ。それを補助できる靴は地味に役に立つ。


「えと、まさか……?」 モーニャンは僕が何をやろうとしているのか、気づいたようだ。


「……かつてローマ帝国の偉い軍人が言いました。

なに?食料を戦場まで輸送できない?

逆に考えるんだ。荷物を均等にして、兵士に荷物をたくさん持たせればいいやって」


『大マリウスねたを知っている奴なんて、異世界にいないよー!犬さんー!』

『もう、2000年以上前の人物ですお……懐かしいですお……』


戦場への物資の輸送は難しい。

特に森や山だらけな場所だと、狩りをする部隊編成して、現場で食料を得た方が効率が良いくらいだ。

たった50人の義勇兵団でも負担はかなり大きい。

一日中、動き回る事を考慮すると……1日に最低でも1kgの穀物を食べさせて、水は3リットルほど飲ませた方が良いだろう。

そうなると、1日に消費する食料は50kg。

一ヶ月以内に戦争を終わらせると考えても、1500kgの穀物を消費するんだ……。

一人あたり、50kgの穀物を持たせれば、余裕すぎるな……。天然のダム(山)から湧水を飲み放題だし……。


「さっきの話と矛盾するような……?

お姉ちゃんには理解できないよ……?

たくさん荷物持たせたら、お腹が空いて苦しいよ?」


「僕達、獣人は耐久力とパワーに優れている。

だから、無茶をしても良いんだ。

怪我しても治るし、靴があるから、もっと無茶できる」


「荷物運びだけなら……他の皆も手伝ってくれるかも?」


「それは良いな。

ゴブリンの集落をたくさん焼き払って略奪する予定だから、大人をたくさん集めてくれ。

腹いっぱい食わせてやるぞ!」


「はぁーい!ワァン様ー!

今年はたくさん美味しいご飯食えるって宣伝してきまーす!」


『なんて酷い義勇軍』

『史実の偉人の真似はらめぇー!』


それにしても、走って遠ざかるモーニャンの尻尾は良い。

動く度に、大きな尻尾が右に左に揺れて、抱きつくたくなる。

あれは良い尻尾だ。




~~~~~~~~


……モーニャンが大人を集めたら……600人くらい集まった。

総人口の7割近くがここにいる計算になる。


「「預言者様ぁー!」」

「「腹いっぱい食わせてくれる新しい支配者に万歳ー!」」


しかも、何だ。僕は宗教の指導者みたいな異名をつけられてしまった。

モフモフ神とやらを復活させるために、宗教団体を作る予定だが……まだ教義も決めてないし、布教もしてないのに、なぜこうなった……?

今の僕はイエス・キリストさん……?


「なぜ、僕が神……じゃなくて、預言者である事を知っているんだ!

そこのお前!言ってみろ!」


近くに居た八百屋のお兄さんが、新鮮なキャベツを手に持って、戸惑いながら答えてくれた。


「セ、セバスチャンさんが言ってました、はい。

ワァン様に神が憑依しているって。こういう人物を世間では預言者って言うらしいって、はい。

あ、これ、キャベツです、美味しいです、はい」


「それは分かった……でも、お前ら、日々の仕事はどうしたんだ?

嫌なら半分くらいは帰ってもいいぞ?

希望するなら、戦闘部隊に配属しても良いが?」


『さりげなく、戦闘員を増やしたい犬さんであった』


……結局、皆、輸送部隊や雑用志願だった……。

敵軍とほとんどガチで殺し合う予定はないけど、なんて弱気な獣人なんだろう。

この前、叔父の傭兵団を包囲殲滅陣した時はやる気満々だったのに、戦ってくれるのが村の不良達だけとか……情けないにもほどがある。


『モーニャンが……敵の数は40万と言いまくったせいだと思うな……』

『50人 VS 40万と聞いて、輸送部隊に志願してくれるだけ良い方だお……』


いや、その理屈でも負担を若者だけに押し付けるのは良くないぞ……。

僕が敗北する素振りを見せたら、すぐに食料を持つだけ持って逃げそうだな……こいつら……。

あと、600人も暇人がいるのは、モーニャンの一声で全て理解できた。


「もう、秋だし?

作物の収穫シーズン終わったから暇な人が多いんだよ。

ご飯美味しい季節だよね……でも、冬になったら大変だから、薪もたくさん用意しなきゃ……。

カカスの実も栄養たっぷりだから、今のうちに集めると贅沢な越冬ができるよ?」


『敵軍に有利な時期だぁー!?』

『よく考えたら、森の恵みがある時期だからやばいよ!犬さんー!』


その問題は後だ……次は何をすれば良いんだっけ?

獣人の集団を率いる経験が少なすぎて分からん。

この前の包囲殲滅陣は、叔父の傭兵団を釣って、罠に誘い込むだけだったから命令を聞く少数の獣人がいれば成功させる事ができた。

まず、部隊編成をやらないと駄目だろうか?

大量の少人数チームを編成し、それをさらに纏める者を配置しないと、組織は機能しないと聞く。

なら、こう語ればいいだろう。僕は化合弓を聖書のごとく、うやうやしく掲げて――


「部隊を編成し終わったら、略奪に行くぞ!お前たち!

偉大なるモフモフ神は言われた!

モフモフな未来を守るためならば、ゴブリンから略奪しても良いと!

これは聖なる戦いである!

この戦いで死んだとしても、モフモフな天国に行ける!

だがっ!生き抜いて最後の最後まで戦い抜けば!

死後に、もっとモフモフな天国に行けるんだ!」 


『将来の異種族対立の原因になりそうな発言をしちゃだめぇー!』

『モフモフ神は平和な神様だおー!』

『ゴブリンを皆殺しにしなかったら、未来への禍根になってしまうな……うむ』


「おお!なんて頼もしい預言者様なんだ!」

「これが神に選ばれた特別な獣人……!?」

「ただの三歳児じゃないぞ!やっぱり神の子なんだ!」


こうして僕は――新興宗教団体モフモフ教の預言者になった。

気分は海を切り裂いたモーゼさん。きっと、人間から見たらカルト宗教団体の長扱いされると思う……虚しい……。

輸送部隊も、戦闘部隊も、十人で一つのチームを組ませて動きやすいようにした。

山や森という地形は、集団の力を殺しまくるし、機能的に動ける少数チームの方が良い。

輸送部隊の長はモーニャン。

戦闘部隊の長は僕。50人を犬班、狼班、狐班、猫班、狸班の5つに分けて、ホワイトは狼班のリーダーだ。


『経験少ないのに無茶している犬さん』

『ほとんど輸送部隊だらけな件』


早く、なんか指揮とれるスキル来いっ……!

待ち伏せ作戦なら兎も角、長期間、部隊を統率するのって、どうすれば良いんだっけ……?

僕は、一人で戦う事が多かったから、こんなに大人数になると困った。困ったぞ。

しかも、モーニャンがまだまだ有難いツッコミを入れてくれる。食い意地が張っているおかげで、有効なアドバイスを連続して出してくれて有難い。


「ワァン様~!質問です~」


「どうした?」


「リュックサックが600個ほど足りないよ?」


「籠で代用しろ!

お前ら、作物を収穫するんだから、籠くらい持ってるだろ!

背負えるように改造したり、壊れ辛いように補強してやるから、今すぐ持って来い!」


戦争計画って、どう立てればいいのか、僕には分からない。

軍隊が補給に失敗して餓死するのがよくわかる気がする……。

靴は予備の靴を使えば良いし、食料は現地で略奪か狩りすればいいか。

……これで、獣人が餓死したりしたら、笑い話にもならないな……。


【ワァンは統率スキルをGETした】


スキル取得が遅すぎる……。

略奪共同体の前衛集団が、こうしている間にも、どんどん村に近づいているのにやばい……。


『犬さん、10人単位で行動できるように訓練しないと駄目ですぞ?』

『獣人も訓練させないと、まともに仕事できないですお?』

『僅かな命令で、ちゃんと行動できるようにしなきゃ……!』


ああ、そうだ。

小さな単位同士で連携できるように、訓練しないと行けないんだ。

途中で道に迷って遭難する奴とか絶対出てくると思うだけに、その対策も考えないと駄目だな……交信術で連絡が取れない個体だと、救助が大変だし。

災害救助班も編成しないと、怖くて戦争できないぞ……。

そうだ、迷わないように木々をナイフ格闘術で切り裂いて、看板をあっちこっちに設置しよう。

難民ゴブリンがやってくる可能性が高くなってしまうが、あいつら飢えて貧弱だし。

獣人は喉を貫かれても、出血多量死する前に怪我を治癒させれば死なないし大丈夫だよな?


『損害ゼロを目指すために、貴重な時間を消費しちゃ駄目ぇー!』

『交信術でサポートすればワンチャンスですお?』


じゃ、看板に刻む文字に、漢字を使おう。

上下左右の四文字の意味を、獣人に教えれば、難民ゴブリンがやってくる確率は減るはずだ。

たくさんの獣人が通れば、草が潰れて道ができて、わかりやすくなるはず……


『その案だと、足跡を辿って難民ゴブリンがきますお?』


……集団行動ってどうすれば良いんだっけ……?

戦場に到達するための準備や対策を立てるのも、一苦労すぎる……。

森のあっちこっちに難民ゴブリンがいる時点で、輸送部隊が彼らに遭遇する危険がありすぎて、不確定要素が多すぎるぞ……。

統率スキルをレベルアップさせれば、これらの問題を解決できるのだろうか?








………結局、統率スキルでチートしたのに、訓練に2日も消費しちゃったよ……。

集団行動に慣れさせるのは簡単だが、命令をすぐ理解させて行動できるように訓練させるのが大変すぎる……。

ゴブリンとか人間って偉いな。

この何百倍も無駄に時間を浪費しないと、同じ成果を得られないんだろう?

その点だけは尊敬できる気がする……技能スキルなしで、軍隊を養成とか、僕には無理っぽい。

……これで、合計取得スキルは10個となった訳だ。

残りスキルスロットはたったの5個だ。そのうち、一つは魔の法則で使用不能状態……辛いなぁ……。



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統率スキル


大きな組織は、とっても動きが鈍くて大変なんだー。

おかげで統率が乱れて大弱点になるんだよー。

でも、ちゃんと編成して、小さな組織のように動けるようになれば、最強なんだー。

そんな組織編制すらできるようになるスキルなんだぁー、これはー。



普通なら、どれだけ頑張っても半年くらい訓練する必要あるけど、このスキルのおかげで2日で解決さー。


今まで取得した技能スキルまとめ + ゴミスキル

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Game_fuu_sukiru/Ginou.html

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【内政チート】「コミュ能力がないと、高収入を得るのは難しいだって!?」

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