受話器を取る

ガチャ




『…………………おお、繋がるじゃねえか。


いつもは反応が無いのに、こういう時には繋がるんだな。


ここ十年毎日ラブコールしてたんだぞ?それなのにいつ架けても繋がらねえ。そもそもコール音すら鳴りやしねえ。それなのに今になって繋がるんだ。実は出待ちしてただろお前。


あの時だってそうだった。

今みたいなピンチで、女子供を守って脱出するのにいっぱいいっぱいで、とにかく誰かに文句を言ってねえと気が狂いそうでしょうがなかった。

お役所はどこに架けても繋がらねえから諦めていた時、ふと電話の横のメモ帖を見たら「緊急時はここ」って書いてあってよ、架けてみたら繋がったはいいがずっと無言。

それでも繋がりはしたからとにかく言いたいことを言いまくって、切羽詰った状況に文句言ってる途中であいつらが火に弱いんじゃないかって事に気付いたんだ。

そんで脱出する際にバカに松明を二つ持たせてファイヤーダンスさせたんだったな。

最初はおどおどしていたバカが段々と火が効果的だって気付いてノリノリになってきたのは傑作だったぞ。

出来やしねえのにジャグリングしようとして落っことしてたからな。本当のバカだあいつ。

だが、地下鉄で街を脱出しようとした時に襲ってきたムキムキのボディビルダーの化け物を倒したのはあのバカなんだぜ?

かっこつけたがりのバカだが、行動力と勇気だけはあった。ヒーローっていうのはあいつみたいな奴の事を言うんだろうな。





実は今もあの時みたいなピンチでな。

あの時は動く死体と死体から進化した舌長に囲まれていたが、今は寄生虫人間共に囲まれている。

あの時の原因だったウイルスと違って腐ったりはしねえけど、力が強くなって知能が下がって人間を襲うところは同じだ。ただ、力は強いが舌長みたいな進化はしていない。まだその段階じゃ無いだけかもしれんがな。

倒すのは簡単だ。寄生している宿主から寄生虫が居そうな部分を探して銃で撃ち抜くだけ。シンプルだろ?そうじゃなくても宿主の脳みそをぶっとばせば動かなくなる。

頭をぶっとばすと寄生虫が外に出てきて太陽の光で焼かれてキュゥゥゥなんて可愛い声を上げるんだぜ?ペットにおすすめだから一匹持って行ってやろうか?飽きたら紫外線を当てれば死ぬから保健所いらずだ。






………なんてな、お前さんのこの電話番号はこの世に存在しない番号だって調査結果が出ている。

あの事務所のメモ帖に書かれていた理由も謎だ。あそこで働いていた奴は死んでいるし、あのビルの管理番号でもなんでもない。

お前さんが何者かは分からないが、こうしてヤバい時に繋がったって事は何か理由があるんだろう?

俺はオカルトもいける口でな。文学少女の言う前世との縁だって信じるし、胡散臭い占い師が言う守護霊だって信じるし、トラックに轢かれたら異世界へ転生出来るって信じてる。

だから、この番号も実は電話から奇跡だの神秘だのを起こす力を届けてくれる魔法の電話だって思っている。死んだ奴が動いたり人間に寄生して操る生き物も十分オカルトだしな。



今回も一か八かの賭けになるような状況だが、こうしてお前さんに繋がったんだ。今回もどうせなんとかなるんだろう?

あの時の俺達が助かったような奇跡をまた起こしてくれると信じているぜ?






と、そろそろ脱出のための準備が整ったみたいだ。

ああ、俺一人じゃなくて何人か仲間が居てな、さっき話したバカも居るぜ?死んでなんかいないぞ?

銃を使うのが下手くそすぎて近接戦用強化服を着て剣と盾を使うまるでファンタジーな戦い方するバカに進化してるがな。

バカ以外にもあの街から脱出した人間は何人かまとめて国からスカウトされている。

国が口封じに子飼いにしているのもあるが、あの街で助かった人間はウイルスに対して抗体があるらしくてな、血液を提供するだけでも中々いい給料が貰えるんだ。

良かったらお前も一緒に働くか?休みはあんまり無えが手当ては十分だし、家賃補助も出るぞ?







………はは、やっぱり最後まで何も聞こえねえか。

でもいい、懐かしかった。

本当はオカルトに頼るのは嫌なんだが、折角なんだから期待しておくぜ。

奇跡を頼むぞ?


ありがとよ。』




ツー ツー ツー

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