受話器を取る
ガチャ
『………我はマウリンゾミヤの信徒、クリルハリンのガーデナー!
この地に住まう精霊よ、我の問いに答え、我らを導きたまえ!!
……………あれ? えーっと、これちゃんと通じてる?
チャネルは開いているし、ミューチュだから虚数とか変なとこじゃないよね?
おーい! ………っかしいなぁ、一番いい精霊石を買ったはずなのに。
官給品も降ろしてる所だよ?
ねえ! 繋がってますよねぇ! 申し! 申し!!
………………………………あー、もしかしてあれ?
消滅寸前の没落精って奴?
まずったなぁ…リーダーに「私に任せてください」って言っちゃったのに……
はぁ…もぅ……まぁいいや。没落精でもいいからちょっと聞いてよ。
今さ、十字路の曲がり角でとっても強い魔物の待ち伏せに合って、命からがらこの小部屋まで逃げてきた所。
とりあえずこれ以上先には進まないで帰還を目指すことにしたんだけど、回復薬も探索用の消耗品も使い切っちゃってて、虎の子のスクロールはさっきの待ち伏せで損傷しちゃってて、どっちも使えないし使い物にならない状態。
はっきり言って、詰んでるんだよねぇ……
とりあえず治癒の祈りで皆の傷は塞いだし体力も回復してきてるけど、もう一度待ち伏せがあったら多分次はダメ。
しかもこの小部屋は階段からぐるっと回った場所で、前の階に戻るまで魔物と一回も出会わないようにするのはまず不可能。
ほんと、色々とムり。かなりヤバイ。
だからとっておきの精霊石で加護を受けれないかなって思ったんだけど………
これだもんなぁ……はぁ…
ねえ、無口なだけ? それとも反応できない程の消えかけ?
やっぱり、私みたいな半端物じゃちゃんとした精霊は交信してくれないか………
………私さ、この遺跡で見つかった遺物から産まれたらしいの。
赤ん坊じゃなくてある程度成長した姿だったから、もしかしたら余所の国の子供が何らかの事情で異物の中に入ってしまった可能性もあるって事で、『らしい』。
まぁ、その可能性はすごく低いんだけどね。
でさ、その遺物を発見した人はお金のために政府に私を売って、私は政府の遺物調査室って所で色んな人に色々と調べられて、数年かけてもちょっと病気に対して弱いって事以外何も分からなくて、普通の人と違いが無いって分かったら後は孤児院にポイ。
孤児院の先生達はとてもいい人達だったけど、私が遺物から産まれた事は皆が知っていたから、孤児院の子供達からはいっつも半端物って呼ばれてた。
親から産まれたんじゃなくて、物から産まれたから、人じゃない………半端物だって。
孤児院を出てからはマウリンゾミヤ様の教会で修道女として教会の手伝いをしながら、こうして遺跡探索のガーデナーとして働いてた。
元々孤児院に居た時からガーデナーの登録はしていたし、簡単な遺跡なら時間潰しとお小遣い稼ぎのために何回か潜ってたから。
それで、私が産まれた遺物の遺跡に挑むパーティーがあったから、無理を言って仲間に加えてもらったの。
私の階級じゃまだ潜ることの出来ない遺跡だったけど、パーティーなら下の階級が混じっていても申請が通るから。
………で、無理を言ってお願いした結果がこれ。
ほんと、運が悪すぎ。
あの魔物はこの遺跡のレベルを超えてるってリーダーが言っていたから、もしかしたら最近遺跡内で何かあったのかも。
待ち伏せをするってだけでも珍しいのに、壁に擬態していたようにも見えたし……
私の出生の事を調べるのは私個人の目的だけど、クリルハリンのガーデナーとして、私達はこの事をギルドに伝えるためにちゃんと帰還しなくちゃいけない。
ガーデナーは遺跡の探索が役割じゃなくて、街に危険が及びそうな時に街に住む人達を守るのが主な役割なんだから。
だから、どうか私達に精霊の加護をお願い!!
無事に帰れたらちゃんとお礼をするから………!!!
……………ダメかぁ。全然反応無し。
声も聞こえないし、あなたは本当に消えかけなのね………
ねぇ、消えるってどんな感じ?
怖いの? 寂しいの?
私も……もうすぐそうなるのかな…………
せっかく、なんで私は遺物に入っていたとか、なんでこの遺跡に居たとか、なんで産まれてきたとか、そもそも、私は本当に人間なのかとか………
そういうのがさ、分かるんだって思ってたのに……
例え…私が本当に人間じゃなかったとしても、私がここに居るのなら、私がこの世界に産まれた理由があるのなら、それを知りたい。
望まれずに産まれて親に棄てられたっていう理由でもいいの。私が、私だっていう理由が知りたいの……
でも、ここでこうしてるって事は
結局、私は私が何者なのか分からないまま
何も残こすことも出来なくて
このまま……ここで消えちゃうのかなぁ……………
なんてね。
ここで諦めたら、どんな困難な場所でも踏破したという最古のガーデナーのマウリンゾミヤ様の信徒として失格!
未開の地を切り開き、原住民の言葉を覚え、他国の軍勢とも戦ったという私達クリルハリンの民の英雄神。
彼はどんな時でも知恵と技術で遺跡を踏破し、厳しい自然の中で人が住める地を作り出したと言われてる。
私も、その信徒であるのならここで諦めてなんかいられない。
何より、私は私の事が分かるまでは嫌でも生きるって決めたんだから。
この状況も詰んでるって思っているだけで、もしかしたら帰還する方法があるのかもしれない。
マウリンゾミヤ様の時代では回復薬やスクロールは無かったと言われているし、私達もアイテムが無くても知恵と技術でなんとかなるかも!
もう一度リーダーやパーティーの皆と相談して、帰還の方法を見つけてやる!
私達は絶対に生きて帰ってやるんだから!!
まぁ、でも、出来れば精霊の加護は欲しい……かな。
……………やっぱり、反応無しか。
とっておきの精霊石が無駄になったのは勿体無いけど、元々精霊は気まぐれだし、仕方ないか。
私が一方的に話すだけだったけど、ちょっと気弱になってたのが前向きになれたのは良かった点ね。
消滅寸前の没落精でも、あなたはちゃんと私の役に立ってくれた。
あなたは、ちゃんとあなたの理由があった。
だから……きっと、私にも産まれてきた理由があるはず。
必ず生きて帰還して、その理由を見つけて見せるから!!
………全部私の独り言になっちゃったけど、聞いてくれて助かったわ。
ありがとう!』
ツー ツー ツー
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