受話器を取る

ガチャ




『………お、なんだ……繋がったのか?

管制塔、管制塔、こちらJD。応答求む。

…………………駄目か。電波妨害の範囲は抜けたはずだが……

いや、これは繋がって……いる?

だとすると受信機の故障か?

……でもないな、接続先の位置情報が宇宙空間を指している。計器がいっちまったのか?

宇宙の何処かには繋がっているが、どこにだか全く分からん。

………なあ、通信先に誰か居るのなら応えてくれないか?

俺はアジア連合共和国の軍人だ。

今は極秘の任務中なので名前は言えないが、怪しい人間じゃない。

………………と言っても、声だけじゃあ判断出来ないか。

まあ、その……なんだ。

極秘の任務と言っても、ちょっと空の上に行って物を壊してくるだけなんだがな。

………少しでいい、話を聞いてくれないか?






接続が切れないって事は、聞いてくれるという事でいいんだな?

………もしかしたら無人の設備に繋がっているのかもしれないが、それでもいい。

もう最後なんだ………少し、語らせてくれ………………






俺は昔………大量の人間を殺した……………

軍人だから、戦争だから、そう言えば片付けられる程度の問題だが、俺が引いた引鉄で、最終的に二つの大陸が地図から消えた。


原因はよくある他国からの領空侵犯。

その日、たまたま当番だった俺にスクランブルがかかり、領空内に入ってきた他国の戦闘機を追っていたんだ。

当時は表向きの戦争が終わった平和な時代だったが、偵察も兼ねた他国を挑発する

行為が頻繁に行われていた。

今回もそんな攻撃を目的としていない、単なる追っかけっこだと思っていた。


……………今思えば、あれは機器の故障だったのかもしれない。


俺が敵国の戦闘機に追いついた時、奴は機銃を放ったんだ。

俺は後ろから追っかけているわけだから、俺を狙った訳ではない攻撃。

周りは海しかなく、こちらの国の陸地に向けられたわけでもない。

だが、領空内で攻撃行為をされて、軍として見逃すわけにはいかない。

直ぐに司令部から 『敵国の戦闘機に向かって威嚇射撃をしろ』 と、指示が来た。


………未だに、あの瞬間は覚えている。


敵国の戦闘機に当てないよう、俺は機首を上に反らしてから機銃の引鉄を引いた。

一度だ。たった一度だけ、機銃のトリガーを弾いた瞬間。

敵国の戦闘機も機首を上げ、俺が放った機銃がコックピットだけを貫いた。




それから、その戦闘機はコントロールを失い、領空を離脱して第三国へと墜ちた。




当時は世界中で大きく揉めたらしい。


威嚇射撃ではなく撃墜目的だったのではないか

わざと第三国へ墜としたのではないか

敵国と談合していたのではないか

何らかの証拠隠滅目的だったのではないか

我が国にも同じ方法で攻撃を開始するのではないか

それならば、先制攻撃も止むを得ないのではないか


元々、表からは見えない場所で戦争は続いていたんだ。

どの国にも見せたくない脛の傷がある。


そして始まる、報復戦争。




折角、先の大戦で生き残った兵士がまた死地へと赴き、国の上層部は復興のために

集めた予算を軍へと投入して国の建て直しを後回しにする。

国民も戦争がまた始まった事で混乱を起こし、やるだけ無駄なデモを起こす。


世界中の人間の誰もがあの戦争を望んでいなかっただろう。

しかし、どの国も止まることが出来ず、軍人民間人問わず大量の人間が死んだ。


………そんな中、発端の俺は何をしていたと思う?


何もしていないんだ。


俺は身柄を拘束され、ずっと基地内の独房に拘禁されていた。

俺が撃墜した敵国の戦闘機がどこに墜ちたのか、そのせいで世界がどうなったのか。

何も知らされず、ただずっと独房の中に居た。

 



上も、俺の処分に困ったんだろうな。

俺に指示を出した人間の派閥と、その派閥と敵対する派閥。

他国からの干渉や正義感を持った一般人達の動きもあったそうだ。





そして、10年経ってから俺は解放された。

俺が切欠で世界中の人間の七割が死に、二つの大陸が地図から消えた後でだ。





………どうだ、びっくりしただろう?

今のこの世界の惨劇は、俺が招いたんだからな。

信じる、信じないは任せる。ただの老人の戯れ言だと思ってくれてもいい。




そして、今の俺は罪滅ぼしのために空を飛んでいる。


報復戦争中に作られた、全ての航空機を撃墜し、その基地を破壊する人工衛星。

通称『神の怒り』

そいつをどうにかするのが、俺に課せられた贖罪だ。

復興しようにもこいつのせいでまともな航空機が使えず、食料の輸送や生き残った人間の救助が行えないからな。



元々こいつは自国に向かう飛行物を撃破するのが主な役割の、ミサイル迎撃を目的とされた防衛兵器だった。

だが、報復戦争中に機能が追加され、自国に向かう飛行物を撃破後、その発進地点を割り出して無人機で爆撃をするという、人の判断を必要としない報復兵器となった。

それが戦争後期に他国から様々な影響を受けてバグを起こしたらしくてな。

現在はこの星の全てを自国領土であり敵国領土でもあると認識していて、一定の高度を越えた飛行物を全て攻撃対象とし、その発進地点の全てを爆撃するという厄介な無差別兵器と化している。


この人工衛星を撃墜するため、本来なら独房の中で死ぬはずだった俺が釈放されたんだ。

パイロットの大半は報復戦争で失われ、成層圏まで上がれるのは俺ぐらいしか居なかったそうだからな……


そして釈放されて直ぐにこの10年で起きたことを教えられ、それを受け止める間も無く、この作戦とも呼べないカミカゼアタックの任務に就いた。

俺が切欠となって産みだされた神様と戦うために、俺はこうして宙へと上がっているわけだ。




………ああ、しまったな。これは極秘の任務だった。

まあいいだろう。

どうせ成功しても、失敗しても……………俺は死ぬ予定だ。




すまないな。

こんな老人の一人ごとに付き合って貰って。


だが、こうして口にした事で、色々考えていた事が多少は整理が出来た。

元は俺が起こした事なんだ。

だから……………俺がきっちりと終わらせるんだ。


この星を、こんな状態にした責任。

俺の命一つで許して貰えれるのなら、こんなにありがたい事は無い。


最後に………こうして誰かに聞いて貰える事が出来て、助かった。

もう、話し相手はどこにも居なくなってしまったんだ。

何も言ってくれなくていい。………誰かに話すことが出来た。それだけでいい。


……………ありがとう。』




ツー ツー ツー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る