第十一話:騎士と名乗る義賊(Ep:2)
インド洋 ソマリア沖 東南東 約2000km
その上空。
『まもなく作戦海域に到達します。
これより、
僚の指揮に対し、真尋は『了解』と答える。
その時である。
『物部一等兵殿』
不意に呼ばれ「は、ひゃい!!?」とすっとんきょうな声で反応してしまう。
声の主は陸駆 電子だ。彼女の
『緊張しますね』
通信機越しに電子が悠美にそう言うと、悠美は「はっ、はい……」と返した。
自分でも、かなり緊張しているとわかる。ハッキリ言えば、それ以上に恐怖していた。
またあんな目に合うのではないか、と。
『でも、頑張りましょう。
作戦が成功して皆で帰還できれば、きっとみんな喜んでくれますよ』
電子は、そんな悠美のことを励ました。
「あ……ありがとう、ございます……」
彼女の気は、それだけで幾分か楽になる。
すると、
『珍しいこともあるんだね』
通信に割り込みが入る。真尋だ。
『いつもなら隊長と話すのに。
何かあったのかな?』
割り込むなり、問いかける真尋に対し『特にないですよ』と答える電子。
『なら良いけど』
返答を聞いた真尋は、そう返して通信を閉じた。
若干時間が遡る。
早朝のこと。
「僚さんは、怖かったり、不安だったりしますか?」
電子は僚にそう尋ねた。少なくとも、自分は不安だったから。
それに対し僚は「……まぁ、多少はね」と答える。「多少なのですか……」と返してしまう電子。
「電子さんは、って。まぁ、怖いよね」
そう聞かれ、電子は「……はい」と素直に答えた。
すると、僚は彼女に対してこう言った。
「今回、君を一班に入れた理由なんだけど……」
それについては、電子も確かに気になっていた。
「偵察班の女性隊員が物部さんだけで、彼女に悪いかなって気がしてさ。
もう一人でも他に女性隊員がいると少しは彼女も気が楽になるかなと思って。
電子さん、温和な性格だし」
「僚さん……」
彼女へのそういう配慮も含めた上で、僚は班員を変更していた。
(僚さん、優しいです。
やっぱり、変わってないのですね)
そう思った電子は、
(私が守ります、皆を)
そう決意した。
その時である。
『……ん───?』
僚が何かに反応する。直後、
『───あれ!!?』
「───どうしました!!?」
すっとんきょうな声を上げた。
反応すると、続けてレーダーに反応が発生する。
後方から接近する、友軍機の反応
A6M2-A12SH
A6M2-A13SH
A6M2-A14SH
「これは……」
『A6M2-A**』とは二一型の
『……まさか───』
その時である。
『おうおう!』
何者かの声が通信に割り込んできた。
『荒野ぁー!
ったく、勝手に出るなっての!』
荒野 健介 鳥海 雅美 河守 達也。さらに彼らが率いる小隊の隊員達だった。
信濃 CIC。
神山 絆像以下十数名のCIC要員が艦載機の発艦を見守っていた。
「艦長。航空隊、全機発艦しました」
優里が絆像に対し、そう伝える。
「ついでに、祥鳳航空隊より二一型三機並びに九六艦戦六機が勝手に発進し強行偵察班と合流した模様です」
「了解。管制、続けてくれ」
そう答えた絆像は、艦長席ではなく主砲砲手席にいた。
「何故、艦長がその席に座っているのですか?」
優里が尋ねると「撃たなきゃいけない時、誰もいなければ撃てないだろ」と自信満々に返す絆像。その横では正規砲手 織原 駆が「あはは……」と苦笑いを浮かべている。
「はぁ……」
優里は腹を押さえる。
(うぅ……)
無茶しやすい僚と深雪、砲戦ロマン主義な武彦と噴進弾至高主義の統花、普段フリーダムで戦闘指揮に於いて博打打ちな絆像、さらには先日かなり酷いドジをやらかした悠美など色々個性的な搭乗員に悩まされ、遂に胃薬を持ち歩く様になった。一応飲んではいたが、少々胃が痛くなってきた。
インド洋 上空。高度4000m。
その高度を強行偵察部隊は飛行していた。
『隊長!
海賊に襲われとる船があるで!』
その時、龍弥から通信が入る。報告に対し短く「場所は?」と聞き返す。
『方角、現時点より北北東!
距離、推測やが約11kmや!』
「了解、信濃の班で向かいます!
えぇと……それでは、鳥海さんは信濃への報告と別動隊への警戒と索敵を!」
『了解!』
「真尋さん以下各員、続いてください!」
『了解』
『は、はい!』
『了解です!』
『おう』
十五機の編隊のうち、四機が離脱し高度を下げていった。
信濃 CIC。
「艦長、二一型鳥海機より入電!
強行偵察部隊、目標を発見!
一班が交戦準備に入りました!」
優里が絆像に伝えた。
「いよいよ会敵か。予想より早い」
軽口の様にそう言った絆像は、次の瞬間には真面目な表情で前を睨んだ。
「総員、第一種戦闘配備!
優里、他の艦へも伝えろ!」
「了解」
応じた優里は、所属艦全てに『第一種戦闘配備』と伝えた。
航空母艦 祥鳳 瑞鳳 龍鳳の甲板上に、艦載機が姿を現す。
九六式噴進艦上戦闘機。
それが小隊単位の編成で、飛び立とうとしていた。
その時、突如として何かが祥鳳に向かって飛翔し、甲板上の戦闘機小隊三個分は空いた隙間の空間を穿ち、盛大に炸裂した。
突如、その時は訪れた。
『祥鳳、被弾!
さらに甲板に火災発生、炎上!』
その報が、防衛部隊の元に伝わる。
『こちら桃山機!!
一体何があったの!!?』
「こちら城ヶ崎機……わからない!!
砲撃されたみたいだが、全方位を探してもどこにも何もいないぞ!!」
縁からの通信に答える小太郎。
城ヶ崎班は艦隊を、桃山班は信濃をそれぞれ護衛していた。
砲弾らしきものが放たれたとされる空間には、レーダーではおろか目視ですら何も見えない。いきなり何もない空間から何かが飛んできて祥鳳に直撃した。そうとしか言い様がない状況だった。
その時、
『小太郎さん!』
三班の班員、菅野 花梨が通信を開いてきた。小太郎が「どうした、花梨?」と聞くと、
『あの辺、なんか……陽炎……みたいなものが立ち込めてませんか!?』
そう言われ「何んだって!!?」と言いながら、その方向を見た。
艦隊の遥か後方に、確かに陽炎か蜃気楼の様なもやもやした歪みが発生している。
「本当だ……何だあれは……!?」
それに気付いた小太郎がそう呟いたのと同時に、誰かがそれに向けて発砲する。甲板上に着陸していた試作七号機とT-34改───雷華とクラリッサだ。それぞれ『大弩』『石弓』を構え、揺らめく空間へと砲弾を放ったのだ。
「あいつら、何を───」
直後、何もない空間が裂け、小さくだが爆発が発生する。
「───なっ!!?」
『何これっ!!?』
そこから、大量の艦艇が現れる。
一隻が超弩級戦艦クラス。その前楼艦橋の前には二門の大口径砲を備えた砲塔が二基装備され、それらの二門がこちらを向きながら黒煙を砲口から吹き上げていた。
その他は魚雷艇、フリゲート、コルベットクラスが多数。
『あれ、海賊の艦隊だとでも言うの!?』
「戦艦クラスを保持して光学迷彩使ってる海賊がいてたまるか───って!!」
そう言い合っているその時、
「来るぞ!!」
戦艦クラスの砲が火を吹いた。
第一遊撃部隊が攻撃を受けたという報は、強行偵察部隊にも届いていた。
『お姉ちゃん!!?』
報を聞いた電子は既に“兵士形態”となっている機体で信濃に戻ろうとした。
だが、それを僚は制する。
「いけませんよ電子さん!!」
『でもそれじゃお姉ちゃんが!!!』
「祥鳳航空隊の方々に行って貰います。
いくら君だろうと一人で行かせる訳にはいきません。
“兵士形態”より“戦闘機形態”の方が速度は上だし」
『……分かりました、了解です!』
電子がそう返すと、僚は鳥海機に通信を入れた。
「鳥海さん、祥鳳の部隊で防衛部隊の援護に向かってください」
『……了解した!
健闘を祈るよ、隊長さん』
通信を切った鳥海機が、八機の編隊から離れ、後の機体のうち三機も彼の機体に連れて編隊を離脱した。
その後「……仕方ない」と小声で吐き捨てた僚は、班員の機体全てに通信を開く。
「作戦の変更を通達」
一度挟み、
「強行偵察班で目標を殲滅し終わり次第、第一遊撃部隊防衛部隊に加戦します。
目標捕縛任務は、最悪、目標自爆により失敗と報告します」
“兵士形態”に変形させた僚は、試作三号機の
試作三号機が電磁投射砲を発砲した。放たれた弾丸は密接する被害を受けている船と海賊のものとされるフリゲートクラスの左右ずれた海面に着弾する。
「───ファー……警告も無しに撃っちまいやがった!!」
突然僚がとった行動に対し驚愕しながらも、龍弥は目標に接近しようとする。
ところが、僚が
『我々は大日本共和国連邦海軍横須賀司令部 第一国土防衛師団艦隊所属 第一遊撃部隊!』
『海賊及びゲリラ鎮圧の任務を通達され、派遣されました!』
『海賊行為及び戦闘行為を行う、貴艦に対し警告します!』
『今の射撃は威嚇です!
これ以上の戦闘行為を中止し、投降してください!
繰り返します───!』
オープンチャンネルですらない、拡声器を用いて、僚は警告を放った。
レールガンを撃ったかと思えば突然警告を発する僚。その彼の考えを龍弥はまだ察することができない。
「隊長、何して───?」
その時、フリゲートクラスの艦が主砲らしき小口径単装砲で射撃を開始する。僚はその射撃を軽やかに回避───しきれずに被弾し試作三号機の白い機体が爆煙に呑み込まれる。
「隊長!!?」
だが、爆煙の中から出てきた白い機体は若干煤けている気がするがほとんど無傷だった。とはいえ左手に保持されていた手持ち式の試製小型防盾はボロボロになり、脱落したのか落下していったが。
『一応、警告はしましたよ』
そう言って試作三号機は電磁投射砲で単装砲を撃った。砲口から弾丸を受け入れ内部から爆発四散する単装砲。
続いて、近接防御システムも破壊し無効化した。
そこへ、対物ナイフを保持した
そこで龍弥は察した。
一応の警告を発し、
「どうなっても知らんからな!」
言いながらも、龍弥は敵艦に向けて発砲を開始した。
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