第九話:蒼海を征く砦(Ep:3)

二〇式70.0mm電磁投射砲

R 0/32 L 0/32


「僚さん、まだ行けますか!!?」

「こっちはもう電磁投射砲レールガンが……そっちは?」

「……ナイフはまだ持ちます!!」

そう二人が話していたその時、

『うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

「───っ!!?」

そう吠えながら一機の九六式艦上戦闘機が試作三号機に向かってきた。

その機体の主翼部から四〇式よんまるしきSWサイドワインダー規格対応型空対空噴進弾二発が発射される。それらは試作三号機の約20m出前というほぼ間近で放たれたが、僚はそれらに向かっていき機体を捻らせることで紙一重の差で回避した。

その真上を先程の九六艦戦が通過する。と、

 『うぉぉぉおおおおおおおっ!!!』

「くぅっ!!!」

さらにその機体は急激に宙返りしながら上昇し、試作三号機の頭上につけると上から急降下して僚へと機関砲を放ちながら強襲した。

「───チッ!!」

舌打ちを挟む。

「面倒臭いのに絡まれた……」

張られた弾幕が届くより先に、レーダーに映るその機体の反応をスキャンしたデータがサブモニターに映し出される。


機体番号 F-15J/A5M2-S021

機体のパイロットが荒野 健介だと言うところまで分かる。


僚は“兵士形態”の試作三号機を軽く右へ反らせることで弾幕を避けた。そこへ突撃してきた九六艦戦もついでに回避し、そのまま頭部機関砲で狙う。

装填されていた小口径銃用のHE弾榴弾が射出されようとしたその時、

「───っ!!!」

後方の二方向から狙われていることを示す警告アラートが鳴り、反応して後方斜め上方向へ飛び上がることで交差する様に来た空対空噴進弾サイドワインダーを辛うじて避ける。

その軌跡を、遅れて二機の九六艦戦が交錯していった。

「この二機───」


機体番号 F-15J/A5M2-S031

機体番号 F-15J/A5M2-S041

機体の番号からパイロットを特定。

それぞれ、鳥海 雅美 河守 達也

彼らは皆、軽空母 祥鳳の航空隊に所属する隊員だった。


『おい!鳥海、河守!

この白いのは俺の獲物だぞ!』

『フン、お前がどうしようが関係ない』

『何だとぉっ!』

『おい、達也!

すまないな、荒野』

なんか、言い合いになってる。何故分かるのかといえば、彼らが広域音声通信オープンチャンネルで話ているからだったのだが。

その隙に頭部機関砲で射撃。放たれた無数の小口径HE弾が襲いに向かうが、それらは距離を取らせる以外の仕事を働くことはなかった。

だが、距離をあけたところで更に現れた別の九六艦戦六機が左右後方から襲いかかる。型式番号を見る限り、三人が率いている部隊だろう。

「───ッ!!

次から次へと……!!」

舌打ちしながらも回避し、機関砲の引き金を引いた───が、

「───ッ!!!」

その結果は、弾切れを示すアラートが虚しく響いただけだった。ガトリングを展開するが結果は同じ。

九対一。一方の僚は武装を使い果たしている。残っているのはワイヤーアンカーか迦楼羅自爆装置くらいか。

圧倒的に状況は不利になる。

素手で殴りかかろうとした、その時である。

「───うわっ!!?」

思いもしない方向から急に衝撃が走ったのは。


電子が、自身の駆る機体を操作し試作三号機に自身の機体を抱きつかせた。

「僚さん!

コクピットを開いてください!」

『はいぃ!?

いきなり何を───!!?』

驚く僚に対し電子は、コクピットハッチを開けながら、

「いいから早く開くのです!!!」

とか言い出していた。ご丁寧に既にシートベルトまで外している。

そこまでされてようやく意図を察した僚はシートベルトを外して機体のコクピットハッチを開き、

「どうなっても知らないよ!!!」

叫びながらコクピットから飛び出した。

電子も自身の機体から飛び出し、互いの機体を乗り換えた。

試作十一号機のコクピットに僚が、試作三号機のコクピットに電子が、それぞれ乗り込み、ハッチを閉じた。

試作三号機に、持っていた対物ナイフを渡す試作十一号機。受け取ってすぐに試作三号機はランデブーから外れる。

直後、試作十一号機はそれまで全く使わなかった頭部機関砲と肩部ガトリングを使い始め、一方の試作三号機は斬撃で、それぞれミサイルを次から次へと落としていった。


三年半前のこと。

国防大付属中学の分校にて。

放課後に偶然射撃場の近くを通った当時一年生の僚は、そこに二人の女子がいることに気付いた。

「あれって、雷華さんと電子さん?」

クラスメイトの女子だった。絡みは全くと言っていいほど皆無だったが。

その二人が話している。

電子がライフル銃を構えて射撃をしていたのだが、全くと言っていいほど的に当たらない。

「あーもう、どうしてこんなに当たらないの!!?」

「私に聞かれてもわかんないよー!!!」

そんな叫びが聞こえてきた。

試しに近づいてみる。

と、雷花が「あら?」と言って気付いた。

「あら、あなた。

確か有本君、だっけ?

どうしたの?」

聞いてくる雷華。

(「有本君、だっけ」か……)

とか思う僚だったが、そこは突っ込まないことにした。

「偶然通りがかったら二人の姿が見えて、ちょっと気になっただけです」

素直にそう言った僚は「ところで、お二人は何を?」と訊ねると、「射撃訓練の追試用に練習してるのよ」と雷華が答えた。

「射撃……って、あぁ。

確か二人って、歩兵科志望でしたね」

「そう。私は歩兵科狙撃兵育成コースを、電子は歩兵科強襲兵育成コースを志望してるわ。

でも、歩兵科に行くには射撃訓練で単位もらわないと行けなくて。

私は、まぁギリギリ大丈夫だったんだけど……その、電子この子がね……」

「うぅ……ぐうの音も出ない、のです……」

つまりそういうことだった。

僚はそれに対して「なるほど」と返すと、射座の上に置いてあったハンドガンを適当に取りだし装弾数を数えると、やや斜め上向きに構えてそれで射撃し始めた。十メートル先の人型のハンドガン用標的ではなく、二〇〇メートル先の直径一メートル程の円型のライフル用標的に当たる。

唖然とした形相でそれを見守る二人。いくら直径一メートルあっても、二〇〇メートルも離れれば直径を計測できない程に小さいただの点でしかない。それを有効射程十メートル前後しかないハンドガンで当てたのだ。まぐれ当たりだったとしても神業としか言えない。

さらに複数発、大体同じ位置に当たる。

十発撃ち、僚が「ふぅ……こんなもんか……」と一人言を言いながら銃を下ろしたのを確認すると雷華は咄嗟に望遠鏡を覗き込み、点数を確認する。

「十発中……十点……九発……!九点、一発……!

───合計、九九点!!!?

すごっ!!ハンドガンで得点取れるの自体奇跡なのに!!?」

「す、すごいです!

どうしたらそんなに当たるのですか!!」

驚愕と、それ以上に感嘆を込めて二人が聞いてくる。

「神様のご加護で、とか言っても信じないですよね」

そう言って、僚は種を明かす。

「少し上に傾けて撃ちました。

角度を付けると弾丸は、加速が衰えたときに段々と落ちてくるので、そこを丁度標的との中間の位置になる様に撃てば、あとは標的に向かって弾丸が山なりの弾道を描きながら斜め上から当たるんですよ。

『曲線射撃』っていうんです。

ちなみに最良の角度は四十五度って言われているんですけど、射程十メートル程度のハンドガンでも好条件でなら五、六キロって届く様になるんですよ」

「「へぇ」」

あまりの解答にただ呆然とする二人。

「で、でもすごいじゃない!!

これなら歩兵科特等でいけるわよ!!!」

「そういえば、有本さんはどこの兵科の志望なのですか?」

二人の言葉に対して、僚はこう答えた。

「工兵科志望です」

この解答を聞き「えっ?」と呆気にとられる二人。

「この話、他人には話しちゃいけないって、親に言われてるんだけど……僕、何でかは知らないけど昔からばかり得意でさ。

それに……父さんも母さんも、兵士にだけはならない様に、って前に言ってたんだ。

僕も戦いたくはないから丁度いいかなって」

「「そんなぁ……」」

「……それに、僕には会いたい人がいるから」

それを聞き、二人はそれぞれ聞き返す。

「会いたい人?」

「誰なのか、聞いてもいいですか?」

「……幼馴染みだよ。

親父さんが海軍の技研の人で、横須賀に引っ越しちゃったんだ。

その娘、工兵目指してて……この道に進めば、また会える気がしてさ」

「そう、なんだ……」

「なんだかロマンチックですね」

単純だが感想を述べた二人。

「まぁ、それならしょうがないか」

勧誘(?)を諦める様なことを言った雷華は、

「でもコーチを頼むくらいは良いよね、僚くん?」

「え……?」

この後、僚は滅茶苦茶訓練を手伝うことになった。披露した曲射は関係無かったが。

雷華は元々センスがあった様でかなり伸びたが、電子は「ギリギリ試験を突破できる程度」が限界だったらしい。

結論を述べると、この出来事により僚は二人と仲良くなったのであった。


試作十一号機に乗り込むなり、僚はすぐに機体状態を確認する。


頭部内装型5.56mm近接防御機関砲

残弾数

R 一二〇〇/一二〇〇発

L 一二〇〇/一二〇〇発

銃器状態 “ALL GREEN (異常なし)”

電子機器状態 “ALL GREEN”


肩部展開式7.62mm四連装回転銃身型機関砲

残弾数

R 六六〇/六六〇発

L 六六〇/六六〇発

銃器状態 “ALL GREEN”



脚部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


腰部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

連装ワイヤーアンカー“ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


腕部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


胴体部

推進器 “ALL GREEN”

翼基部 “ALL GREEN”

零式空挺機動翼 “ALL GREEN”

《迦楼羅》“ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”



バッテリー残量

97% (GREEN ZONE)


推進剤残量

98% (GREEN ZONE)


機体総合状況 “ALL GREEN”


肩部回転銃身機関砲、近接防御機関砲、どちらも弾薬を消費していない。

その様を確認した僚は「そういえば電子さん、射撃苦手だったんだっけ」と一人呟いていた。

本機が装備している勇剣聖装備ブレイヴだが、本来背中に装備されている二〇式電磁投射砲を外している為に機関砲二種しか射撃武器は無い。その上で本来なら電磁投射砲を装備している位置には、四一式よんひとしき560.0cm対物刀───西洋の長剣の様な、平たい棍棒の両側に刃がある様な外見の刀剣が二本装備されている。

さらに両腕・両膝に特殊な機構が施された装甲が追加されており、格闘戦に特化した使用となっていた。

ランデブーから外れた試作三号機が、試作十一号機から受け取った対物ナイフでミサイルを斬り裂いていく。

その姿を横目で確認しながら、「……それにしても、この機体───」と一言間を置き、叫んだ。

「───重い……」

そんな始末になりながらも僚は二振りの対物刀を構え、ミサイルを迎撃していった。


「僚さんの機体、すごく軽い!」

僚に変わり、試作三号機を駆る電子。

僚はあまり気付いていなかったが、試作三号機は修理の度に深雪によって少しずつ改装されていた。

それが積み重なった結果なのだが、その結果近接戦を行うのに丁度良い機動性が確保されていた。

対物ナイフを掲げ、一機の九六艦戦を擦れ違い様に切りつける。

『ぐわぁ───!!!』

『トシぃィ───ッ』

『この白いの、よくもぉォォッ!!!』

一機の翼を切断し墜落させると、班員だろう他の二機が後方から突っ掛かってきた。

その二機に向かい、上空から二条の楔の様なものが伸び、二機の九六艦戦に突き刺さる。

『ぐぅっ!!』

『何だ、これは!!?』

衝撃で仰け反ったかと思ったら、それら二機が下を向いたまま上に吸い上げられる様に上昇していく。

そのにいたのは、

『いっけぇぇぇっ!!!』

楔と繋がったワイヤーアンカーを伸ばし、両腕に一振りずつ対物刀を携えた試作十一号機だった。

それがワイヤーアンカーを巻き取りながら、両腕を振り上げた自身も加速し、接近する。

そして、

『くっそぉぉ───!!!』

一人が虚しく叫ぶと同時に、二機の九六艦戦が擦れ違い様に両断され爆散していった。


その時、花火の様な何かが那智から放たれた。

「え、あれは……?」

それが空中で爆ぜる。

それは『降参』を意味する信号弾だった。

『終わった、みたいだね……』

僚から通信が入り、それに「はい」と答える電子。

「艦内に戻りましょうか」

『そうだね』

そう言った僚が全体通信を開こうとしていた。それを回線越しで確認したところで、

「───っ!!」

一瞬目眩がしたと思ったところで、自身のが艦載機格納庫に戻っていることに気がついた。

『お?』

今や後部飛行甲板に移動させられていた僚も困惑しかけていたが、すぐに状況を察したらしく、

『……みなさん、演習お疲れ様でした』

それだけ言って、全体通信を閉じた。

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