庵字の「相棒」ベストセレクション『相棒』ノベライズ版 碇卯人 著

『相棒』(ノベライズ版)プレビュー

「ミステリ」と名の付くものは、もちろん小説だけではありません。テレビドラマの中にも「ミステリもの」はあります。毎週放送されるドラマラインナップに刑事ものや探偵ものが一本もない、という時期は恐らく存在しないのではないでしょうか。

 そんな本邦ミステリドラマ群の中でも、特に私が好きな番組に『相棒あいぼう』があります。「土曜ワイド劇場」のいちシリーズとして始まったこの番組は、その後独立してレギュラー放送となり、2017~18年放送分で「シーズン16」を数える息の長いシリーズとなりました。

 有名なドラマですが、「名前しか聞いたことがない」という方にシリーズの大まかな概要を説明しますと、警視庁の窓際部署「特命係」に所属する杉下右京すぎしたうきょう(演:水谷豊みずたにゆたか)と、彼の部下である「相棒」がコンビとなって難事件を解決していくという、基本一話完結の刑事ドラマです。

 水谷豊扮する杉下右京が固定の主人公で、彼とコンビを組む「相棒」はこれまで何人か入れ替わっており、シーズン16現在で相棒を務める冠城亘かぶらぎわたる(演:反町隆史そりまちたかし)で四人目を数えます。

 さて、そこで今回は、膨大な話数を誇る「相棒シリーズ」の中から、私が個人的に好きな作品をご紹介しようと思います。「小説じゃなくてドラマの紹介なの?」と思われるでしょうが、ご心配なく。『相棒』はノベライズ(小説化)されているのです。というわけで、今回ご紹介するのはこちら。


『相棒』(ノベライズ版)碇卯人いかりうひと 著


 私が選んだのは、「ありふれた殺人さつじん」(シーズン3)「犯人はんにんはスズキ」(シーズン5)「越境捜査えっきょうそうさ」(シーズン7)の三作品です。本エッセイの趣旨に従い、シリーズの中でも本格ミステリ色が特に強い(そして当然面白い)作品を選んでみました。では、それぞれあらすじをご紹介しましょう。



「ありふれた殺人」(ノベライズ版『相棒season3下』収録 ドラマ脚本:櫻井武晴さくらいたけはる


~あらすじ~

 特命係の亀山薫かめやまかおる(演:寺脇康文てらわきやすふみ)は、警察署の前で挙動不審な男を目撃する。小見山勇司こみやまゆうじという名のその男は、自分は二十年前に起きて未解決のままの少女殺人事件の犯人だと告白した。あまりの出来事に急遽、上司である杉下右京を呼んだ亀山は、二人で小見山から話を聞くことになった。「どうして時効が成立した今になって自首をしてきたのか(本作が初放送された2005年当時、無期懲役相当の殺人事件の公訴時効は十五年だった)」との問いかけに小見山は、「自分は何者かに命を狙われている」と喋りだした。

 捜査一課の取り調べで小見山は、マスコミに公開していない、犯人しか知り得ない情報を供述し、彼が事件の犯人であることは間違いないと見られた。「もう罪には問われなくとも、せめて被害者遺族に謝罪する気持ちはないのか?」と詰問する薫たちに小見山は、「そんな気持ちは全くない」と言い残して帰ってしまう。

 時効の成立した事件の犯人が自首してきたことは、犯人の身元を伏せたうえで報道された。そのニュースを見た被害者遺族の老夫婦は、「娘を殺した犯人を教えて欲しい」と警視庁を訪れて……。



「犯人はスズキ」(ノベライズ版『相棒season5上』収録 ドラマ脚本:岩下悠子いわしたゆうこ


~あらすじ~

 神社の境内で、白坂しらさかという男の死体が発見された。聞き込みにより、「鈴木すずき」という男と白坂が境内で言い争いをしていた、という目撃証言が得られた。白坂も鈴木も、同じ町内会に所属した知りあい同士だったという。その重要参考人である「鈴木」に話を訊くべく、居所を教えてもらおうとした捜査一課だったが、鈴木の住所が載っている町内会の連絡ノートが町内会集会所から紛失していると、やはり町内会のメンバーから聞かされる。さらに聞き込みを続けるが、「鈴木」の住所を知るものは誰ひとりとしていなかった。一向に鈴木の足取りを追えない中、事件が起きる直前に「鈴木」を目撃したと証言する人物が現れた。それは、近くにある小料理屋〈花の里〉の女将で、杉下の別れた妻である宮部みやべたまきだった。



「越境捜査」(ノベライズ版『相棒season7中』収録 ドラマ脚本:ハセベバクシンオー)


~あらすじ~

 右京は組織犯罪対策課の助っ人として、銃器不法所持の家宅捜索を行うべく町田市へとやってきた。ところが、犯人である長嶺ながみねは警察に踏み込まれると同時に拳銃を発砲、その混乱に乗して逃走してしまった。拳銃所持の凶悪犯逃亡という緊急事態に、組対五課長の角田かくたは、町田市と隣接する神奈川県警に捜査協力を依頼する。

 一方、神奈川県川崎市内の藤堂とうどう家に、ひとり娘を誘拐したという脅迫電話が掛かってきていた。犯人は身代金として五億円を要求。この事態に藤堂夫婦は、神奈川県警に連絡を入れて……。



 今回ご紹介した三本は、どれも前後編に分かれるということのない、独立したドラマ一本分のノベライズですので、分量も多くありません。これら三作は、キャラクターよりも事件に焦点が当たる話ですので、ドラマ未見の方も何の問題もなく楽しめる内容です。「相棒」ワールド、ぜひご堪能いただいたら、「ネタバレありレビュー」でまたお会いしましょう。

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